もう長くねぇーなって思っていた梁河②
"超人"と"魔術"は術者の生命力に強く呼応しやすい。その時の精神力によって、魔力の質、身体能力の向上などは変わりやすい。爆発力がある反面、安定感が欠けているとも言える。
インビジブルのように命を捨てる行為から繰り出される力は相手に一矢報いる、あるいは道連れするほど強大な力を発揮する。捨て身という言葉がそのまま現実になり得る。
ただし、その捨て身はあくまで術者にそれを扱えるだけの力量がなければいけない事と、術者の性格や向き不向き、能力の性質などがある。例を挙げればザラマやインティは常に強力で安定した能力を出し続けられるが、命を賭けるという行為による力の増大はそこまで多くはない。多くが力の持久力を保つといったところだ。
一方で梁河の"打出小槌"は運動を続けることで身体を巨大にできる能力、死ぬまで運動を続けるという契約を今決めた時。技術開発局の7割ほどの土地が沈んだ。
メギャアァァッ
「ごふえぇっ」
梁河はもう歩き回って捜すのは無理な身体だと理解していた。身体が急激に成長と誇大化をしていき、
「え、え、ええぇっ!?」
ネセリアは瞬間的に梁河から離れると決意する。走る速度よりも梁河が大きくなる速度の方が速い。ついには背中に梁河の足が当たり、転倒してしまう。そのままドンドン押されていく。
「うぐおおぉぉっ」
梁河はどんどん大きくなっていくが、同時に傷口すらも大きくしていた。大きくなる傷口は別の傷を生んでいく、それでもなおこの巨大化を止める気はない。痛みの数だけどんどん成長することを願っている。求めている。巨大になる眼、鼻、耳。それらが捉えたのは強力な3人の管理人。
「み、み、見つけたぞぉぉっ…………」
一歩で届きそうなほど、大きくなることを望む。一番よく見える蒲生のところまで行き、戦い。そして、勝ってから死にたい。パイスーが必ずポセイドンと桂をぶっ殺す。残りの3人をこの梁河が倒せばこっちの勝ちは確定だった。
「な、なんだあの馬鹿デカイ奴!!さっきの時よりでけぇーぞ!!」
「まったく恐ろしいデカさです。私では太刀打ちできませんよ」
朴と龍は見上げて梁河の姿を見ていた。二人では今の梁河を力で倒すことは難しいだろう、あれだけ巨大な生物と張り合うべき管理人はやはり、蒲生しかいなかった。
「"九頭鳥"を使うか…………」
「許可は降りていませんよ。ポセイドン様達も巻き込まれる可能性もあります」
「言っている場合ではないんじゃないか、朴」
「まー、落ち着いてくださいよ。龍、蒲生さん。凄い巨大化ですが、あれはまともじゃないですよ。蒲生が与えているダメージもありますし、傷口もここから見えます。完全な捨て身ならばこちらが先に動かず、相手がくたばるのを待った方が良いです」
朴は落ち着いて、確実に勝てて被害も少ない選択をとった。確かに届きうるかもしれないが、
「逃げましょうか、蒲生さん乗せてください」
「そうだな」
さらに距離をとることで巨大化していく梁河に与える精神的ダメージは大きい。
「お、お前等……戦えぇっ!!」
逃げられるという可能性をとられると、捨て身の行為は不発に終わりやすい。目標が遠ざかり、心が削られそうな時。今の梁河にとっては蠅のような小さな雲が通り過ぎ、梁河に押されて屋上から投げ出されたネセリアを救いに行っていた。雲の上に乗せ、一言。
「何してるのよ、ネセリア!!」
「ラ、ライラ…………」
「見てて危ないと思って来たから、助かったのよ!……………。まーいいわ!今は置いておくわよ!今はこいつよ!!」
「ご、ごめんなさい」
「謝るのはあと!梁河を止めないとここがヤバイのは分かるからね!」
ライラはここに来るまで"ピサロ"で作り上げた雲を沢山作り上げていた。竜巻から大雨まで、色んな天候を生み出すことができる。
「誰かいるな…………」
今となってはライラとネセリアが蟻以下のサイズに見える梁河にとって、見えていないようなものだった。それでも自分の肩に届いている不審な雲に気付き、自分の両腕を振り回すだけでライラの雲を消し飛ばした。
「!」
せっかく用意した雲を弾き飛ばされたライラも焦る。再び攻撃の基点を作り出すのは困難であった。ともかく、ネセリアを離さないようにキッチリと握って、梁河から距離をとらず、とりすぎない間合いを保った。なるべく、視界から離れるようにもしている。
「チョコマカした雲はなんだ!?」
大きいため、小回りができない梁河。体力的にも巨大化が限界であり、ライラの雲に身体がついていかない。そして、管理人が逃げることとライラの立ち回りに自分の求めていた最後の戦闘がまったく違うことに悔しさと悲しさが生まれた。
残酷であることは知っているし、求めているモノが必ずあるわけではないことは知っているが、最後くらい良いだろう神様と心中で吐いている。
「戦え!!俺と戦え!!」
「うわぁっ!」
とにかく、梁河の豪腕から逃げ続けるライラ達。安心して避けられても一撃が即死を意味することに危機感を抱いていた。
暴れる梁河に比例して技術開発局はどんどんその形が崩れていく。そして、そこが崩れるほど梁河の身体にも限界が襲い掛かった。
「た、たたか、たた」
呂律が回らなくなる。手足の痺れ、激しい苦痛。そして、身体が悲鳴を上げているにも関わらず、"打出小槌"は止まらずに発動し続けた。
メギイィッ
「ヴェッ」
骨格の成長に対し、その他の部位の成長が少しだけ遅れたことにより、骨が筋肉と血管などを突き破り、臓器も傷つけた。蜂の巣にされたように体の中から骨が出ていく。ブヂュブヂュと成長と誇大化が梁河を傷つける。
「な、何が起こってるのよ!」
「うっ…………気持ち悪いです」
ネセリアにとってはショッキング過ぎる光景で貧血に見舞われそうだった。ライラもこんな死に方を初めて見るため、目を一瞬覆った。梁河はつい先ほど死んだのだろう。動きが完全に止まった。そして倒れ始める。それなのに皮や骨が残らないように体をボロボロに解体させていく。まるで成長が完全に止まり、今度は下り坂の老化が梁河の身体を襲ったようだ。飛び散る血、骨、皮、筋肉、臓器が、とにかく梁河の身体の全てが技術開発局に舞ったのだ………………。風に乗り、仲間の様子を知りたいように。