もう長くねぇーなって思っていた梁河①
パイスー VS 桂 VS ポセイドンのバトルロワイヤル。
アレク VS ザラマの灼熱の決闘。
遠目で見ていた管理人達。朴、蒲生、龍の3人は平静を装って見守っていた……。自分達以外にも何かがあると確信していたが。それ以上の事もある。
「あれが潰れたらどうするんだ?あの技術開発局っつーのが、ここの世界のメインだろ?」
「ええ…………まぁ、メチャクチャ暴れている辺り、何か考えがポセイドン様にあればいいだけですがね」
「向こうがかなりの手練れであったな……」
ベィスボゥラー達の治療はクロネア達に任せている。
3人は技術開発局に乗り込んでも良い状態となったが、戦場の情報が少ない。アレク達が乗り込んでいる事を知らないため、何が暴れているのか分からず、様子見を続けていた。また、桂とポセイドンが争っているが、二人の実力を認識して待機しているとも言えた……。
「万が一、桂さんとポセイドン様に異変があれば向かいましょう」
「ああ」
「あいつは確かにやべぇな」
それでも戦場から目を離さない。特にパイスーには目を離さない。
…………………………
「っ!…………」
技術開発局の広い屋上を戦場としているパイスー達。アレク達のような火山活動があったのかと疑うような戦いではなく、ほぼ純粋な物理的な破壊が巻き起こっていた。
その屋上でもう1人、黒リリスの一団のメンバーがいた。
喰らったダメージからか、少しの間居眠りをしていた梁河だ。
「う、うるせーな…………」
梁河は目を覚ました……。こっちの方にはまだ被害はない。パイスーが気を遣っているのか知らないが、少し離れたところで戦っている。
「ザラマに焼かれて起こされる夢を見ちまった……」
梁河は起き上がり、パイスー以外の戦場を見てみた。ザラマが戦ったらしい熔け出し、煙を上げている場所を見て、まだ戦っているだろうと思う。
蒲生から喰らったダメージ。特に頭部に受けた攻撃が深刻であった。歩く度にヨタヨタしている。
「っっ…………ちっくしょー……」
まともに戦えそうにねぇーぞ。眠ったせいで気も抜けちまっている。あいつ等が戦っているってのに俺だけ遅れるわけにはいかねぇーだろ。
梁河は座り込む。とりあえず、どれだけの傷を喰らったか診断した。震えずに何もかも肯定して調べていた。力を出し尽くせて数分か…………。
「ぶふぅっ」
口と目、鼻からも飛び出る血…………。染みる痛みも感じる。少しずつ生気も抜かれている。こうして座っているだけで、誰にも会わずとも死ぬ予感。手遅れ感。
「俺が生きている間にザラマに感謝しねぇとな…………なぁ」
あいつが俺を起こしてくれたおかげで、ギリギリ。まともな死に方ができそうだ。
「手伝いにはいかねぇーぞ。テメェ等に手伝いはいらねぇ、俺と同じで死なねぇ奴だからよ」
梁河はゆっくりと歩いて自分自身の戦場を探しにいった。とても遅い速度で動いている。敵とぶつかる事を望んでいる。そして、勝って死ぬことを望んでいる。口はそう言っても内心ではとうに気付いている。
トトトトッ
「あ……?」
「わぁっ!」
そこへ、戦場を望む梁河にとっては拒否したい人物の来訪。もっともカンケーない。
「な、何しに来たんだ?この人間…………」
「わ、私は!ここを守りたいから来たんです!!」
口はやや強気に出ているが、リアからもらった拳銃を構える姿はとても弱々しく、度胸は何も無かった。彼女は兵士でも戦士でもない。ここの住民ってところか…………。
「女、確かネセリアとか言っていたな……」
梁河は呆れた顔をしていた。ネセリアは銃を構えることに集中していて、梁河の身体がボロボロであることに気付いたのは10秒以上も経ってからだ。春藍のような治療が一切されていない状態で立って歩いている彼に驚き、怖かった………。
「だ、大丈夫なんですか?その傷……寝ていた方が良いですよ。きっと楽です………」
「…………」
ネセリアの言葉に耳は貸さない梁河。銃を構えているネセリアの横をゆっくりと通り過ぎていき、目当ての管理人を探しに出かけようとしていた。
「ま、待ってください!!ホントにそれは危ないです!!死んじゃいますよ!!」
「……だから、なんだ?」
「ち、ち、治療をすれば助かると思います。……医務室とかありますよ…………」
「じゃあ、なんで銃を向けた?」
「そ、それは。止めて欲しいからです!その…………もう、あなた達に勝ちはありません。これ以上、ここで暴れるのは止めてください!降伏勧告です!!」
軽い混乱状態。敵と思いながら、殺す覚悟や止める行動ができないネセリア。
梁河は彼女の気持ちには応じない。それに、
「俺は死ぬな…………長くない。分かってる」
「ま、まだ間に合います!私だってそれなりの事はできます」
「だが、俺達の負けは決まらない。俺も、ザラマも、…………特に向こうで戦ってる奴は勝つ気でいるんだ。終わらない」
そう言い残して梁河がネセリアから完全に去ろうとした時、
パァンッと……銃声を鳴らした。それは梁河に向けられた殺意ではない。殺意ではなく、ネセリアの気持ちを的確に表していた。反応して立ち止まって振り返った梁河にネセリアは言った。
「動かないでください。私…………今のあなたなら止められます」
「あ?」
「止めます!痛いかもしれないけど、助けます!死ぬって簡単に決めないでください!!私の前でそんな事を言わないでください!!」
殺したくないし、ここが壊れて欲しくないという気持ち。春藍がリアに向けている気持ちと同じように、両方が救われる手段をとりたかった。特に後の事が浮かばないのに梁河を助けられる選択も入れたかったのだ。
「ですから!次は……左足を…………」
銃を梁河にまた向けた時、決して梁河は警戒すべきではないと分かっていたが、煩わしいと感じ。怪我を負っていてもネセリアに反応させないほどの打撃を一発叩きこんだ。彼女の体が後方へ10mは飛ばされるほどの打撃であり、リアからもらった拳銃も拍子に落としてしまった。
「ううぅっ…………」
「なめんじゃねぇーぞ」
梁河はこの似た感じに覚えがある。とても身近にいる奴。
そうだ、自分と似た雰囲気がネセリアから感じられる。どーでも良いような奴でも助けたくなっちまう。苦しんでいそうな奴を助けちまう。
だが、感覚が違う。今のネセリアは混乱や戸惑いがあっての行動。梁河のは冷静さがあって、なおかつ憐みを感じていての行動だ。梁河はネセリアの無茶と自分の無茶が同じくらいだと理解した。アホ丸出しだ。
「……っ…………」
少し身体を強く動かしただけでグラつく。強気の言葉は出るが、本当に弱い身体であったと改めて知る梁河。鍛えただけじゃ届かないものもあると、死ぬ間際に笑えて思い知る。
同時に
「止めてみろよ、女」
「うっ………え?」
「管理人でも連れて来いよ」
笑って死ぬのはどーも似合わないと感じる。梁河は"打出小槌"を力の限り、命が終わる限り使い続ける気であった。