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RELIS  作者: 孤独
VS黒リリスの一団編
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自分がやりたい事をすれば良い。そう思えていた時期もあれば、やりたい事ができないと感じる時期も来るもんだ。



清らかな川がそこにあって、たくさんの羊と牛が飼われている牧場や色々な花が一年中咲いている花畑もあり、暖かな日と心地よい風がよく吹いていた。そこのお嬢様達はゆっくりと過ごしていた。労働という環境は薄く、遊びを濃くしていた場所であった。

友達はたくさんいた。色々なことを話、色々な遊びをして、色々な恋をしていた。

幸せで楽しい香りに包まれていた。自家製のコーヒーをみんなに分けていた…………。



笑っているお嬢様がいた。その姿はとても幸せそうで、満足していて、生きる楽しさを考えたことがないほど裕福という枠に入っていた。いいなぁと、指を咥える人もいる。あーゆう人間に生まれたかった、なってみたかった。苦労が分からないんだって捻くれたり、暗い人もいるかもしれないが、お嬢様は苦労はしている方だ。お化粧もそうだし、洋服選び、香水選び、遊戯でも真剣、恋はなおさら全力投球。少し下ネタが過ぎると思われるくらいつっかかる。

苦労していないなんて思う輩の方が、苦労を知らない。本当の苦労を知らない……………。そう考えていた。そう思っていた。



「!」

「なんで幸せな笑顔をしているのかしら?」



そう思っていた。ワタクシの心の原点は常に幸せな面をしていた。目を閉じただけで色々な楽しさと遭遇していた。苦労を知っているようで違うことがある。心の原点は苦労の分だけの報酬を頂いていた。つまり、優良企業ならぬ優良人間。一方、今のワタクシはブラック企業ならぬ塵屑人間。つーか、ロボット…………。

妬む、恨む、怨む、殺したい、嬲りたい、靴を舐めさせてやりたい、綺麗な顔に傷をつけて生活させてやりたい。

自分の中に張り付いている似非の記憶が邪魔する。心を苦しめる。なぜだ?なんでだ?


「なんでワタクシがこんな目に合っているのよ!!?」

「?」


前世は答えない。分からない。次の魂があったなんて信じられないからだ。都市伝説かと思われるだろう。


「生まれてきた時、人と出会えた時の嬉しさなんか、意味が分からない!!」


その記憶や記録、経験を引き継いだ今の自分。冷たい手、冷たい足、左目が機械……人間の姿をした怪物。科学兵器。

人と出会っただけで化け物と呼ばれる、お互い理解できる言語を発しても、言葉のキャッチボールは絶対にできない。付いている口と耳がこれほど要らないと思った身体はない。目に映る人々が怖がる光景。残ったのは機械でできている自分の鉄っぽい臭いだけ…………。


一人ぼっち……。


この手に触れる者なんていなかった。何も怖がらないで触れた奴なんていないと自分の中で決め付けた。決め付けたからこそ、昔の自分がフラッシュバックすると胸が苦しくなる。なんだその幸せは?なんだその笑顔は?なんだその身体は?なんだその声は?妬ましいだけ。ウザイだけ。

機械の身体を得て生まれた自分はただ、その性能を発揮するためにいて。暴れるだけ暴れ、世界を揺るがす強烈な破壊は自分の心の器を洗ってくれた。それを通じてパイスー達と出会い仲間というのを知れた。だけど、彼等はワタクシの求めている人達とはどこか違う。

なんだろう?

何が違うんだろう?


答えはペットと出会った時に理解した。


ああ。パイスー達は信頼しているんだ。ワタクシの力、強さに惹かれているんだ。だから、違和感がある。劣等感が生まれている。前世はそんなのじゃなかった。



…………………………………………………………



「リア!」

「!」


冷たい手をギュッと握っていた。でも、彼の手も冷たくて温かさが伝わらない。同じような気持ちでいるつもりで春藍は声を出していた。


「僕にはリアがどんな過去を持っているか、どう今を思っているか分からない。"RELIS"という症状を持っていても、僕にはその気持ちが分からない」


リアの顔は悔しさ。苛立ち。負の感情を色々抱きながら、春藍の言葉に耳を傾けていた。


「だけど、そんなのと向かい合っている時点で。リアのリアらしさがないよ!」


出会ったばかりと同じだ。この男は人が気になっていること、悩んでいることを一突きする言葉を出してくる。歯を軋ませる。自由に動けるなら殴っていた、撃ち込んでいた。


「その姿でまた改めて生き抜けばきっと良かったはずだよ」

「!!」


こいつ、ホントに分かっていない。分かっていない。ムカつく。苛立つ。なんだこいつは。


「く、くうぅぅぅ~~~~」

「だから、もう!こんなことは止めてさ…………。僕達と一緒に過ごさない?僕は戦ったから分かる。リアの本心は戦いに向いていない。リアにはきっと僕なんか瞬殺する力がある。それができなかったのは、リアの心が望んでいないんだ」



なんだこの矛盾は?いつまで経っても、自分はその渦の中にいる。



「ワタクシは強者なのですわ!!本当ならあなたなんか殺しているのですわ!!」

「リアは戦いなんか好きじゃない!!誤魔化している!!」

「嘘じゃないですわ!!殺さないと!!こんなワタクシを産んだ管理人を殺すまで!!満ちないのですわ!!」


リアは怒気と一緒に凍えるように唇を震わせていた。自分の扱う銃器や兵器よりも重くてキツイ、ソレを浴びせ続けられる。


「リアは自分の、生まれ持った身体ばかりに囚われ過ぎているんだよ…………」

「うぅぅっ」

「戦える身体でも戦えない心なんだから……。心に従っていいはずだよ。そんなリアが僕は好きだったよ」


手段や通り道はいくらでもあったはずだ。

音楽が好きだった。コーヒーが大好きだった。お花も好きだった。園芸をもう一回したいなぁ。男の子と恋愛がしたいなぁ。

あ。あ。あ。

色々と浮かんだ。今、四つくらいやりたいことが浮かんだ。


「降伏なんて…………ワタクシにはありませんですわ」

「…………そっか……」



幸せな記憶を持っているような人間のようで、現実は過酷で歪な造形物という矛盾。それだけじゃなく、強さを得ながらも記憶や奥底の魂は強さとは無関係な場所にいたかったという矛盾。得ているモノは確かにあるが、同じくらい失っているモノがリアにある。

執着を続けたからこそ気付くこともなく、怒りをすぐに吐き出せる強さを得たからこそ、拍車が掛かっていた。強さとは実現する力であり、自信や矜持に繫がる。やがてそれが心の深層を曇らすほど、自分の常識と思いこむ。


自分の本心を覆ったまま、時間は過ぎていった。リアは少し消沈した後で



「ワタクシを早く解放させなさい!!」

「!」

「あなたといると胸が苦しいですわ!イライラしますわ!!ホントにこのっ…………ペットの分際で!ワタクシに言葉を掛けるなど……優しさをまた向けるなど…………!……迷惑ですわ!!」


気付かされたとはいえ、いまさら。もうどうしろと……。


「湧いて来るわ……」


死や別れの悲しみを味わったのは懐かしく、それがどれだけ恐れていたか。

呆けや別に向ける怒りによって悲しみを一度は乗り越えたリアだったが、春藍によって掘り起こされた。管理人に殺されたくない。それは屈辱だけでなく、この戦場で生き残った先に手にしたい物が生まれたからだ。

これはリアが粕珠を一度巻き込んだような自爆を封殺させるだろう。生きたいと願っている。誰かを守りたいという存在はなくとも、自分を守りたいのだ。


「ワタクシを自由にさせなさーーーいぃぃぃ!!!」

「………………」


春藍は複雑な表情を出して、なお考えた………。

ここで自由にして良いのか?伝えたい事は伝えた。だからもう良いのかな?いや、そしたらどう動くか分からない。それにしたからって…………。


「………っ……」


僕が伝えたせいだから。伝えたからリアは苦しんでいる。リアは真っ当に生きたい。姿や、埋め込まれている記憶はまともじゃないけれど、したい事をしたい。

けど。そうしたくても、"黒リリスの一団"達は管理人達に執拗に追われ、やがて殺されるだろう。そんな中で自分の理想を叶えるなんて、無理だろう。春藍の言葉はあまりに遅すぎる。春藍にはリアとも一緒に過ごしたいと言っても。彼女を守るだけの強さや力がない。全然リアと違う。



所詮、口だけ。


ウザイかつ平べったい、口だけ。



「ワタクシにまだ。もう一回…………」


リアも気付いている。悔しい。ムカつく。終わりたくない。


「このワタクシにもう一回、人生をくれないのですか?」


あれだけ呪った。怨んだ。でも、それを今求めたのは与えられた命が、過去を引き摺って生きて戦っていたという証拠。生きるために必要であって、求めていた本心ではない。開き直れなかった。自分らしさがなかった。

こんな怪物の姿で昔の自分を気にするなんて馬鹿だ……………。あいつはあいつで良い。自分は自分で良いとすればよかった。もう、自分は生きるために戦うしかない。コーヒーを煎れて、お花を育てて、音楽を聴いて、友達と……好きな人と……………なんて。生き方が選べなくなった。


「動いて!!助けて!!春藍!!」

「っ……………」


春藍はリアの言葉に何も言わず


「…………っ……」

「ねぇっ!!」


立ち去ることしかできなかった。解放するべきなのか、静観するべきなのか。分からなくて、リアを見ていると苦しくて、自分がやった事に対しても悩んだ末。逃げるという卑劣な行動に至った。

サイテーの口だけ野郎。


「ごめん、リア。生きて。なんとか生きてよ!僕は止めるだけしかできない!できなかった!こんなことまで考えてなかった!!」


本心で助けてと言っている人間を見捨てると、心が痛んだ。




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