春藍 VS リア
ギュイイィィィンッ
そこは春藍がよく働いていた職場であった。クレーンや溶接設備、梯子、鉄球、ドリル、などなど。ゴチャゴチャしていて危ない物まで置かれている場所であり、自動で今も動作している科学もあった。リアは春藍の呼ぶ声に誘われて来てみれば…………。
「やはりあなたも来ていらしてましたか」
「リア」
ワタクシ。
「……こんな予感がしておりましたわ。ペットが飼い主に噛み付く気がしてました」
迷いはここにやって来た時に捨てました。
ワタクシもパイスーと同じ考えでおります。
「リア。無事で良かった…………もうさ」
「ワタクシ、あなたの言葉と腕には胸が痺れて、ずーっと隣にいて欲しいですわ」
2人の会話は噛み合わない。
「これ以上はダメだよ。リア達は負けるんだよ」
「たとえ、あなたの魂が失っても。ずーっと、一緒にいて欲しいですわ」
「パイスーはきっとそれを知っている。強いリアだって気付いているはずだよ!」
「ワタクシの胸を守っていただけるペンダントになっていただきですわ」
春藍は現実的な事を言っていた。リアはそれを聞かないように自分の感情を吐露していた。だけど、それは長く続かなかった。7回目ほどでリアは春藍の言葉に怒り出した。
「いい加減その口を閉じろぉぉっ!!童貞があぁぁっ!!!」
現実を見たくない、聞きたくないと言っている大人。戦闘体勢をとり、冷たい左腕を変型させるリア。ウェーブの髪型がうねうねと殺意で動き出す。
「ワタクシは管理人を全滅させる!!殺す!!殺す!!!あなたにワタクシの何が分かった!!?"もう"分かった気になるな!!」
今にも発砲しそうな感じだったが、
「どうしてなんて今更聞けないよね」
春藍は落ち着いていた。もう言葉ではどうにもならない。
「僕は」
いつか、本当に戦うという時がくると分かっていたから。色々な物を作り出した。まずは片耳超高性能イヤフォン。"Rio"にも戦闘を補助する曲を多数セット。手袋型の科学、"創意工夫"も装着。リアの体内に納められている兵器の数々と比べれば貧弱でも、
「リアを止めるためにリアと戦うから。止めるまで戦うつもりだよ。僕は殺さない、殺せない」
「いいですわよぉぉっ。パイスーのお気に入りでも、ワタクシには関係のないことですわ!事態が変われば奴だって殺すわ!!!ワタクシの心を曇らす奴等はぶっ殺す!!」
ドガアアァァッ
後悔させる暇も与えない。怒りのリアの感情が分かるように左腕は爆発したかのように火花と煙幕を上げながら、春藍に向けて銃撃が放たれた。春藍は"創意工夫"をつけた両手を床に当てる。
「"造形製造・要塞"」
科学の世界であり、その中心であるこの技術開発局は"創意工夫"を填めた春藍にとって全てが作業テーブルとなる。形を変化させ、瞬時に重厚な鉄の要塞を自分の周囲を張り巡らせる。銃弾が直撃するよりも速い造形ができるのはそれだけ自分の感覚に合っている素材でもある。
「小細工!!小細工でしかないですわ!!」
リアはパワーを上げる。春藍の作り出した要塞をガツガツ削っていく。戦場という面では春藍に分があるが、単純な実力差が確かにある。
バギイイィッ
「あはははははっ!!」
要塞は脆く崩れてしまったが、その奥にはもう春藍はいなかった。そこから避難し、色んな道具に"創意工夫"で触れて操作する。春藍の動きが若干速いの"Rio"の音楽のサポートがあるからである。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
ピタゴラスイッチを模したかのようにリアの近くにある道具が揺れ始め、彼女を襲うようにクレーンや物や、鉄球が降り注ぐ。攻撃力が低い春藍にとって周囲の物で補っているが、
「だから小細工ですわねぇ!!」
リアは内臓の機関銃で春藍の攻撃を全て撃ち落とす。この程度では攻撃にもならない。
「逃げちゃう?逃げちゃうの☆可愛い春藍ちゃ~~~ん☆食べたいな~☆追っちゃうわよ~☆」
リアの左目には標的(出会った事のある人に限り)の体温を感知するセンサーが内臓されている。どこに隠れていても、逃げても追尾できる。不気味過ぎる笑みと口調。ヨタヨタでフラフラな無駄過ぎる動きを行ないながら走るリアは意外と速い。春藍が通った道をしっかりと走っていた。
「はぁっ、はぁっ」
変人かつ殺人鬼に追われる春藍。体力には自信が無い。それに春藍もリアのメンテナンスや修理に携わったことで彼女にレーダーが内臓されている事は想定済みだ。結構ヤバイ。
本当に凄い"科学"…………そー言うと、リアは怒るだろう。
バヂイィィッ
「足止めを続けないとリアが止まらない」
逃げながら作戦実行の準備を進める春藍。
リアは自分の方が強いと確信しているからこそ隙もある。本気で追いかけられたら、春藍のレベルでは工夫もできない状態になる。そう、ここから少し離れたエリアで戦っている者達のような戦闘みたいに。
「!」
「あは☆」
春藍、リアの2人だけではない。アレク、ネセリア、ロイ、ザラマ、梁河、インティの六人が感じて巻き込まれるほどの巨大さ。強い地震が起こり、ネセリアは尻餅をついた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
"鷲掴鳥篭"
猛禽類型(鷲の一種)+鳥篭型の科学。
一頭の巨大な鷲が技術開発局の屋上に辿り着き、鋭い爪を抉り深く埋め込んだ。巨大な両翼をバタつかせ、一部分のフロアを持ち上げてしまう。クッキーを作り出すように技術開発局の一部分が鷲に刳り貫かれる。
上空に辿り着けば鷲は変化していき、刳り貫いた外側の壁と同化を始め、その中にいる物を逃さぬように檻のような形ができ始める。空中に浮かぶ牢獄兼戦場が完成したのである。
だが、パイスーの戦闘力は凄まじい。
「なーにしてんだよ!!?」
「ぐっ」
バギイイィッッ
ポセイドンは時間稼ぎのために用意した、いくつものの"大接戦を演じる剣"がまるで効果が無い。一つ一つの攻防でパイスーが上を行く。一方的に攻撃され、自分が作り出した檻に背中が激突する。
「人間風情が…………」
「なんか言ったかぁ!?管理人!!」
パイスーの強さには慣れもある。同じ"科学"にやられ続けるわけがない。戦いさえすれば、攻略法をいくつも編み出せる戦闘に対する頭脳もあるし、それ以上の肉体もある。ポセイドンはそれを理解しているが、そこまでの次元に辿り着いているとは驚嘆と畏怖が存在する。
「死ね!」
ポセイドンの顔面を"折牙"で吹っ飛ばす、パイスー。
圧倒的な強さ。科学では解明できない人類の未知を持っている。これでこのポセイドンの戦闘は終わったのである。
「でー?……何人いるんだよ?インビジブル並の繁殖はねぇーようだが」
パイスーは振り向く。そこには殺したはずのポセイドンが立っていた。彼はちゃんと声が出せる。
「これで5回死んだな」
"DEATH・PASMO"
ICカード型の科学。ポイントがなくなるまではこのカードを所持していれば、死亡から復活する事ができる。ここでのポイントはポセイドンの造り出した魂と肉体を意味する。魂と肉体を作る"科学"は別にある。インビジブルの生殖とは異なり、自分自身の命を延命させるという存在である。
「うむ」
まだ両者は探り合い。自分が死んでも平気という点をもっているポセイドンには一つの命を軽く扱っている。ポセイドンの狙いはカウンターと即死である。抵抗できないほどのダメージを与えること。パイスーに工夫できる幅は少ない。とにかく、目の前にいるポセイドンを倒すのが定石と考えている。
空中に誕生した牢獄の戦闘は続く。
ガギイィッ
「っ!」
「弱ぇっ弱ぇっ!」
科学を上回るパワーで襲い掛かるパイスーにやはりポセイドンは苦戦する。彼が言うとおり、ここまで使っている科学は小細工に過ぎない。本命を使い出すのはアレが来てからだ。わざわざパイスーと一緒に分かりやすい場所に移動したのは奴を誘うため。
バギイイッッ
もうすぐ、この命も終わるかもしれないと考えた矢先だった。予感めいたものをポセイドンは受け取っていた。パイスーはポセイドンの身体の後ろ側を観る事ができない。
視力では確認するのが難しい距離から閃光に等しい速度で、真っ直ぐにポセイドンの心臓を狙い澄ませた一撃。
バジャアアァァァッ
"鷲掴鳥篭"の檻を砕いても閃光の勢いは止まらず、突き破る。途中で通り過ぎる障害物を砕き散らす。ポセイドンの心臓を切り裂き、その向こう側にいるパイスーを巻き込む剣術。
ガギイイィィッ
視覚、聴覚、嗅覚では反応にまで到達できないほどの攻撃。不意打ちかつ、味方(?)すら巻き込むという異端過ぎる奇襲でも、パイスーの首には到達できない。第六感や幾多の死線で得ている危機回避や危機対応が高い。むしろ、高すぎる。刀を貫手で弾き、命を守り切る。
「テメェならやってくると思っていたぜ、桂」
「今ので死んでいれば楽だったぞ、パイスー」
眼前で向き合う。好敵手。パイスーの闘志がさらに燃え上がった。と同時に、2人には新たな予感を抱く。ポセイドンは今、桂によって殺された。それで死んでくれれば良かったが、桂を誘っておいてそれはありえない。味方の奇襲によって死亡するという悲しい結末を望むわけがない。しかも、失敗している。
「2人共死ね」
次にポセイドンが現れた場所は技術開発局の屋上だった。復活する際、どの場所で復活できるかもある程度決められるのだった。檻の中にいるパイスーと桂を見上げながら、自動で発動する高熱レーダーの集中砲火。軽く当てられただけで檻は焼き焦げ発火し、爆発を起こす。
ガゴオオオォォッ
パイスーと桂を同時に葬ろうとしたポセイドン。"鷲掴鳥篭"が炎上し、落下していく。そして、1人が獅子に乗り込んで脱出していた。
「ちっ…………」
「舌打ちは良くない。確かに結果は良くないがな」
「貴様が生きているのが計算外ということだ」
桂も爆破に巻き込まれる前に"雷光業火"で脱出。ひっそりとポセイドンの近くに降り立っていた。パイスーも無傷の脱出。床を先に砕いて落下して逃げ切った。気付きが遅れたら焼かれていただろう。
ダァンッ
「おいおーい。これはあれか?悪くねぇーけどな」
パイスーは着地と同時に向こうにいる2人に、右腕をグルグルと回しながら受け入れている表情で確認する。だが、向こう側も分かっているようだ。
「拙者もそう思う」
桂は刀身についた埃をふき取った。
「我の邪魔をするのは誰であろうと許さん。二人いようが、殲滅するまでよ」
ポセイドンもようやくゴツイ巨大ハンマーを取り出し、それを片手で掴んでいる。パイスーが少し歩み寄り、綺麗なトライアングルができるような間合いを作り出す。
「不仲と聞いているが、こりゃ一度に二度美味しいな」
「標的と危険人物を抹殺するには良い機会だ」
「これほど勝利が嬉しい勝負もなかろう。我の覇道と受け取った」
パイスー VS 桂 VS ポセイドンのバトルロワイヤル。ほぼ同領域に辿り着いている三者。