ロイ VS パイスー
春藍達は丁度、1階の製造場に辿り着いた。
「!」
「どうしました、アレクさん」
「…………いや。何か……………いや、気のせいだ」
「?」
アレクは何かの異変を察知したようだが、うやむやにしたため春藍とネセリアにはなんだったのか判らなかった。それより、水を得た魚のようにロイがここをよく知らないというのにとんでもない速度で走り出していた。それにすぐに3人の目がいった。ロイは溜め込んでいた怒りの表情と怒声を吐き出した。
「パイスーーーーーー!!!!」
ビリビリと一階のフロアが揺れるほどの声だった。よく響く。
「うるせー猿だな…………」
「ロイ!1人で行くのは危ないですよ!!」
ネセリアの言葉すら聞こえない。それより、聞こえないところまで走っていったかもしれない。
「まぁいい。とにかく、敵を倒さないと始まらない。あいつなら1人でも大丈夫だろ。迷子になっても知らんが」
「あははは…………」
春藍達は今、一階にいる。一方でパイスー達はここの屋上にいた。朴達との戦闘から逃げ帰ったところだった。
「梁河。大丈夫か……?」
「あ、あの野郎に殺されるのだけは……ごめんだぜ」
一番の致命傷は梁河。パイスーに投げ飛ばされたのもあるが、蒲生との戦いで大ダメージを負っていた。だが、彼がいなかったら全滅していた事だろう。
「若が攫われただと?」
「うん。桂に捕まってどっかに…………ごめん。ウチが遅かったせいで」
「…………気にするな。あいつが死んでいなければ"ディスカバリーM"で自分で戻って来られるだろうし、それに」
パイスーは試しに"ディスカバリーM"を起動する。これが起動するということは
「どこかで若が生きているということになる」
「!あっ、そーか!ウチとしたことが忘れてた!」
「でしたらまずはここに乗り込んでくる輩を相手にするのがいいですわね」
リアの提案が珍しくまとも。それに同調し、ザラマがパイスーに伝える。
「そうだな。すでにこの無人と思われたこの建物に5人ほどの熱を感じる」
「5人か…………俺達と数は丁度だな」
「管理人はベィスボゥラー、リップル相馬、フルメガン・ノイド、朴、蒲生、龍の6人が確認しましたし……………」
「桂はおそらく、ここにはいないとウチは思う」
「とすると、ポセイドンとその他か……………」
状況確認中、ロイの叫び声が五人に届いた。確かにパイスーと叫ぶ声……。インティが開いた拳を閉じたが
「よせよ、インティ」
「!」
「相手は俺を指名している。俺が相手してやる」
そうパイスーが言って、床に穴を空けてダイナミックに落下していく。
「決まりですわね。ワタクシも個人行動をとらせていただきますわ」
「梁河はここで休んでいろ」
「ちっ…………しゃーねぇな」
「………くっ………」
ザラマとリアもパイスーが空けた穴に飛び込んで行く。インティはパイスーの行動に少し、怒っていた。でも、梁河みたいに休むつもりはない。走り疲れはもうない。インティも遅れて、ロイの元へ向かう。
「パイスーーー!!」
「うるせぇーな。出てきてやったから、黙れよ!」
パイスーはすぐさまロイを発見した。技術開発局の休憩場での出会い。パイスーは相手をしてやるという気持ち、ロイはパイスーをぶっ殺す覚悟。発見と同時にロイはパイスーに向かっていく。
「へ」
身体能力で上回っていれば良い速攻だろう。だが、強さを見誤っている時点で愚策。考える頭がなければ素材は生きない。襲い掛かるロイの拳を相手に、パイスーは指を
パシイッッ
正確に、ロイの拳の中に差し込む。たったそれだけでロイの突進を加えた攻撃が止められる。
「!!?」
怒りのロイからしたら驚愕の差を見せ付けられる。突きつけられる。
「おい。俺を殺す覚悟を持ってんならよ」
「!!」
「ちっとは実力をつけてこいよ!!!」
グニャリとパイスーの指と手首と腕が動けば軽々とロイが持ち上げられる。操られるほどの豪腕。
「うおおぉっ」
怒りが混乱に変わる。絶対的な実力差を突きつけられれば相手に対する殺意や怒気などは消し飛ばされる。挫折という感情が溢れ出てくる。指で捕まれて投げられるというかつてない屈辱を味わうロイ。ダメージは少ないが、精神的な物は大きい。
奴との差がこれほどまでに遠いのかと、感じていたロイに躊躇無くパイスーは襲い掛かる。
「雑魚のまま俺の前に現れるんじゃねぇぞぉぉぉ!!」
ロイをサッカーボールのように蹴り飛ばす。その衝撃はロイの周囲の床や壁を破壊し、ロイ自身も技術開発局にあるいくつもの壁を突き抜けながらぶっ飛ばされる。揺れる技術開発局。
ここの戦場の開幕に相応しいベルでもあった。
ロイを瞬殺かつ心に致命的なダメージを与えたパイスー。待っているのは奴等じゃない。アレクが気配を感じ取ったように、パイスーもすでに感じ取っていた。熱だけじゃないものの存在。
「仕掛けは全部終わったか?ずーっと待ってやったんぜ!!」
パイスーの周囲は誰もいない。視覚と聴覚だけでは感じ取れない。奴は今、この建物と同化しているような状態だから、並の感覚では分からない。
「つまらない不意打ちは止めろ!桂だけじゃねぇ、テメェにも言ってたんだぜ?なぁ?」
パイスーの警告。これに反応し、出てきた管理人。奇襲は諦めた。
「力と力か…………。その展開も読み切っていたがな」
「ならしろよ。そうだろうがよ、ポセイドン。"科学"の力と可能性を俺に示してみろよ」
再びのパイスー VS ポセイドン。