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RELIS  作者: 孤独
”不信な森”イビリィア編
15/634

魔物のお墓参り

空から見ても、ここは本当に森だけ。

ベンチェルロ広場のような広くて何もない場所はまるでない。



「ホントに森だらけだよね。ライラ」

「そうね。けど、山の方はそうでもないかも」

「え?」


春藍はずーっと下ばかり見て探していたが、ライラはずーっと先を見ており、できそうなところを見つけた。山が禿げているところは人為的にも思えた。


「魔物達の巣かしら、随分と大きいわね」

「えーっと、あれのこと。確かに木があんまり生えてないね。どうしてだろう」

「魔物達の居住地区って考えるとしっくり来るでしょ。魔物にも種類があるから、洞穴で過ごしているような種族がそこに住んでいるのかも」


ライラは雲をそこまで飛ばしていく。近づいていくほど、そこの光景があきらかになっていく。


「!」

「え?」



ライラ達がそこに辿り着いた時。見えたのは魔物達が喰われたり、爪で裂かれたようにされて死んでいる光景だった。すでに何かに襲われた形跡。


「随分と最近ね。3日前くらいかしら?」

「ライラってそーゆうの平気なの」

「ある程度ね。怖い?」


魔物という存在の形はもちろん、その死骸は春藍にとっておぞましく見えた。

ただ渡される材料とは違い、本当の姿を知ると心が病みそうだった。人間の死体とはまた違う。でも、一律に死んでいるのは見ているだけで怖い。



「このやられ方は」



街に辿り着く前に見た魔物達が殺されていたのと同じのだとライラは判断した。

足跡もあるし、爪や牙がそっくりだった。圧倒的な大群がこの世界に眠っていると理解した。

それと出会うのは危険。

だけれど、この場所はとても異世界へ移動するには条件が整った場所。

魔物の巣が壊滅しているのはとても望ましく、やりやすい。死体さえ焼却なり森へ返すなりすればできると思った。



ガザァッ



「!」

「なんだ?」



春藍とライラに届いた巨大な足音。腐臭の臭い。もとい、残飯に等しいのこの死んだ魔物達の肉を喰らう魔物。白黒の姿に角を生やし、三つ目を持った二足歩行の魔物が一体、二体、三体。

悲しい呻き声をあげてこちらへ向かって来た。


【ルイネス、カビンドラ("3匹の巨頭"の一頭)お前等ほどの雄がどうして人間なんぞに死んだのだ。貴様等は我が認めた猛者だというのに】

【頭ぁ。ワシ等は墓参りを続けていいんすか?奴等を殺した奴を探すのでは】

【馬鹿者!そんな奴があんな街にいるわけないだろう!!"管理人"との連絡が切れた事を考えれば以前に聞いていた、異世界からやってきた連中の仕業だと我は思っているんだ!街の連中に討てるわけなかろう!部下達だけで十分墜ちる!!】


"3匹の巨頭"

最後の一頭となった魔物、パンクレネスと呼ばれる魔物。

”不信の森”イビリィアでは、彼等が”管理人”とやり取りをしていた存在である。


【そーゆう奴等は街にはおらん!!この世界を隅々回って探すんだ!!】


強く感情を備えている魔物だ。

彼等は仲間の死は無論、何度も戦った強敵達を倒し、食った後はちゃんとごちそうさまを行うほどだ。こうして散っていた猛者達の魂を静めるかのように各地を回る習性があった。

幹部達を引き連れて、今。カビンドラの拠点までやってきた。



「ちょっと、なんでこんなところに魔物が」

「あれが魔物。凄い、大きい」

【むっ、なんだ。あの人間達は】

【狩人か?】

【いや、狩人ならば剣や弓を持っていると思うが、2人共素手のようだ】



春藍とライラが出会った瞬間だった。

パンクレネスの長はすぐさま2人が、この世界の者ではないと理解できた。

狩人独特の臭いがまるでない。

彼等がなんなのか、言葉を吐いても彼等には通じないだろう。

そして、話し合いなどということは人間と人間。魔物と魔物でなければ起こり得ない。

長は瞬間、そして、ライラも瞬間に反応した。



バギイイィッ



「ッッ!!」

【ぬぅ!やるな、小娘!】


パンクレネスの丸みのある手についている爪には、自分以外に効く神経毒を垂れ流す事ができる。

しかし、それとは無関係に腕力任せの打撃は人間という枠を超えており、直撃は肉体を破壊できる。

ライラが春藍を抱きながら攻撃を避け、すぐさま。


「"ピサロ"」


自分の魔力を放出し、雲を作り出す。山の上だから大気が冷たく、発生しやすく馴染みやすかった。


「ラ、ライラ!」

「邪魔よ!春藍!!」


すぐさま、春藍の身体に雲をくっつけて



ドヒューーンッ



上空にぶっ飛ばす!安全な場所に置いて、自分を戦いやすくする。

"ピサロ"の性質が一対大勢に向いている事を自覚しているからだ。春藍を襲おうとした魔物の幹部達も見上げるしかできなくなった。


「仲間を"ピサロ"で巻き込んじゃ、魔物に襲われるのと同じよ」


7頭の魔物の相手。上空でそれを見た春藍は、あまりにもライラが不利だと分かった。ライラが強いのは知っているけど、こんなのってないだろ。


「ライラ!」


叫ぶしか春藍にはできそうになかった。



【雲を作り出すなんて、これは昔の人間が使っていた、"魔術"では!?】

【この世界は"超人"(身体能力が異常な者)が多く占めるというのに】



魔物達にとっては久しく見た"魔術"を使う存在。

しかし、そんな事はどーでもいいだろう。どんな"魔術"だろうが、"超人"だろうが、"科学"だろうが。この目の前に立っている女が強いというのは、パンクレネスの幹部達には分かった。

だが、それ以上にこっちの長が上だと信じている。魔物達を束ねる3頭の一頭なのだ。


【魔物の世界は弱肉強食だけではない。強い者を狩る時は集団で襲う】


仲間と生き残るためには手段を選べない。非道という言葉は正統である。長が中心となってライラに襲い掛かる。直進的にではなく、ちゃんと四方から襲うように統率されている。

ライラは薄い雲を自分の周囲に飛ばし、発生させている。周囲をしっかりと警戒している。



「"山彦風"」


ゆっくりと周囲を旋回している動きを見せる雲。効果が出るまでは時間が掛かるのは承知した技の一つ。


【畳み込め!!】


幹部達の動きは長に比べれば遅く、荒い。"超人"の身体能力はないライラでも、十分に対応できるレベル。ライラの死角から襲われても雲に触れていれば位置も動きも分かる。



ガオオォンッ



一撃でも喰らえば即終了という状況の中、華麗な動きと包囲を手玉に取る回避能力は上から見ている春藍はライラカッコイイという印象だった。あれだけ囲まれても動きに迷いが無い。



「そりゃぁ!」



しかも、包囲の中で蹴りをパンクレネスの目に叩き込み、一頭を軽く怯ませる。

魔物より強いんじゃないか?って思える怪物っぷり。多少の包囲では仕留めきれないと判断した長はすぐさま、タイマンに持ち込もうと、部下達を下げた。こいつだけは動きが違うとライラも理解できていた。



【ぬうぅ】

「っと!」



コイツはやっぱり別格。逃げても追ってきそうなくらい。森や街で戦うことになったら、厄介でしょうね。けど、この障害物がなく山の上なら私が有利。こいつをここで倒せば後々楽よ。



ピュンッ



一部の雲に強く魔力を込めて、瞬時に長に向かって放たれる雷。



バヂイイィンッ



パンクレネスの白い部分が焦げる黒い色に変化するほどの雷撃であったが、まったく動じずに向かってくる。だが、振り上げた両腕はライラを狙っていない。


ブオオォンッ


「!」


ライラの周囲を纏っていた雲を吹き飛ばすほどの風圧。こいつは分かっていた。雲が要ならば、それを吹き飛ばせば行動力が落ちる事を。そのタイミングを狙って、部下達が総攻撃。回避スキルが高いことを認めるが、分かっていなければ避けられない。



ブシュゥッ



「危なっ、掠った!」



爪がわずかに腕に当たった。けど、これくらいなら全然戦える。むしろ、自分よく回避した。

っ!



ガクゥンッ


痛みではなく毒が回ったと意識できたが。足を踏ん張るだけが精一杯、身体に痺れが襲う。神経毒はかなりの即効性であった。大きく行動が鈍ったところを長が狙い撃つ。

ライラは全力で雲を作り出す。身体が痺れてきているが、魔力に影響はない。全身を包んで



ボミュウンゥ



吹っ飛ぶが衝撃を吸収して攻撃を防いだが、戦えるくらいには動けそうにない。


「危なっ」

【!なんだ!?柔らかい雲!?】



魔力を削るような毒だったら、手はなかっただろう。

最初に張っていた"山彦風"がようやく連れて来た。周囲の大小様々な山の気候を運んでくる。今回は"超突風"である。


「大雨まで呼んだら土砂崩れしそうだしね」


風は見えないけれど、木々の動きで位置と大きさは掴めるだろう。ライラは雲に包まれてダメージを回避できる。だが、パンクレネスは無理だ。跡形も無く、ぶっ飛ぶだろう。



ザラアアァァ



森が大きく揺れるほどの風がここにやってくる。パンクレネス達は恐怖の表情と逃げの態勢をとったが、もう遅い。



ドヒュウウゥゥンッ



【ぬおおおぉぉぉっ】

【ぶっ飛ばされるぅーー】


パンクレネスの幹部達は山から吹っ飛ばされ、遠くへ行ってしまう。


【ぬううぅぅっ】

「!冗談でしょ」


しかし、長はライラの突風を四つんばいになって必死に堪えて見せた。耐え切れば風は止む。風が通り過ぎた瞬間、動き難いライラを仕留めるのは簡単だった。


【うおおぉぉっ、よくも部下達を】

「!」

「うああぁっ、ライラァァ!!」


天気予報みたいにアテにしてはいなかったが。ライラのピンチを目の当たりにして、勢い良く上空から飛び降りて、落下に恐怖しながらも右腕を突き出して、



ガゴオオォンッ



春藍がパンクレネスの頭をぶっ叩き、その場で昏倒。

否。即死の攻撃をお見舞いした。奇襲だったからこそ上手く決まった。


「はぁっ、はぁっ」

「春藍!無茶しないでよ」


雲を吹き飛ばし、風を止ませた。春藍はすぐにライラに向かって来た。


「だ、だ、だ、だ、大丈夫だったライラ」

「あんたの方が心配になるわよ!」


ライラにはその魔物が死んでいるという事が理解できたが、春藍にはそれが分かっていない。心配だからやった。正当防衛のような事だ。

ついさっきまで、魔物の死体に怖がっていた春藍にそれを気付かせるのはマズイと感じた。お礼も今は後の方が良い。


「戻りましょ!この場所ならきっと、次の異世界へいけるから!」

「う、うん」


春藍は興奮したままだった。未だに自分のやった行動の整理がついてないんだと思う。ライラは行きと同じように雲を作り出して、さっさと上空へと飛んで街の方へ向かう。




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