戦争による代償
広がる光景。絶望なり。
フォーワールドの南と西を中心に起こっている、管理人 VS 黒リリスの一団の戦争は強烈な跡を残したというのに終わりではない。
梁河VS蒲生など、派手で強烈な戦闘で滅びた建物の数々、ボロボロとなった土地の数々。戦争とは無縁の世界であったフォーワールドの住民達は心から不安で仕方なかった。人が死ぬ大事故などは見た事があるが、事故とは偶発的なものが多く、その事故を二度と起きないように警告を発したり、対策を練ったりするものだ。任意で引き起こされる戦争は彼等にとっては異常でしかなかった。
「こ、怖い……………これが戦争……」
春藍謡歌は震えていた。彼女は特別に優秀な人材だと定められ、しっかりと安全なところに避難していた。この中にはヒュールや広東、山佐などもここにいた。安全であるがため、フォーワールドの科学力を活かし、外の状況を把握できる映像を入手できた。
「広東達が避難できて良かったです」
「どれだけの被害が出るんだ。フォーワールドは元に戻せるのか?」
「うーむ……今、これだけの被害。多くの職が消える上に、恐怖が生まれる事ですぞ」
フォーワールドの住民達には剥き出しの武力を初めて見た。この映像を見ていない者達もいるが、避難だけしていてもそこに伝わってくる恐怖の振動と音は分かっていた。人間の行動真理に大きく影響する視覚だけを遮っても、無駄だった。
だが、その中にいる人間達にも恐怖以外の感情を持つ者達もいる。
「心配することはない」
「!今、なんと?」
「こんな広い世界が、優秀な管理人達もいて崩れてしまうことはない」
「そうね!タドマールと違って広くて、頑丈なここは潰れない!あれだけの戦いでもあれしか壊せていない!」
「ここに奴等がやってきた時はタドマールの戦士達が戦って、お前達を守ってやる!」
戦いをしていたタドマールの住民にとっては戦争の恐怖を知っているからこそ、恐怖に震える者達を安心させようとした。戦争を止める力なんてハッキリ言ってない。インビジブル様を見捨ててしまった時点で戦士はもう止めてしまったようなものだ。
それでも、戦士じゃなくても人は現実と戦わなければいけない。弱くても、役に立たなくても。隣にいる人を安心させようとするのも大切だ。
「お兄ちゃん…………何処にいったのかな?」
謡歌はここに避難したと聞いている兄、春藍慶介を捜しているのだが……見つからない。戻って来てくれたのにどうしてまた離れてしまうのか分からない。
ヤンデレとしての資質をわずかに出している。
「………………」
この中には春藍、ネセリア、アレク、ロイがいない。だが、ライラがいた。彼女はこの避難所を守るように出入り口でずっと待機していた。振動や音を知りつつも、映像に目を向けない。謡歌はライラに兄の居場所を恐る恐る訊いてみた。でも、内にある感情がそろそろ爆発しそうだった。
「ラ、ライラさん……お兄ちゃんがどこに行ったか知りませんか?」
「…………あの馬鹿達のことは知らないわよ。ホント……」
「嘘を言わないでください!!知っているはずです!ずっと、お兄ちゃんといたならきっと!」
爆発してしまったという口調だった。
しかし、そんなものライラに吐いても困る。ライラだってイライラしている。決してシャレではなく本当にイライラ。言葉を出したのは謡歌の理であり、怒りからの解放。一方、ライラの怒りの解放は単純な暴力だった。床に叩きつけるビンタ。
バヂイイッッ
「あんたを危ない目にさせるわけないでしょ!!」
「!」
「春藍はあんたが怖いって思っている戦争の地に立っている!行っちゃいけないわよ!いい!?」
殴られて痛くて、怒られて怖くて…………。
「お、お兄ちゃんは……無事に帰ってきますか?連れ戻してくれなかったんですか?」
行動する想いだけは消えた。
「知らないわよ。けど、4人がちゃんと帰って来なかったら。あたしは怒る……それだけ」
ライラも謡歌とほとんど同じ気持ち。ギリギリで理を取ってここにいるだけだ。
桂とポセイドン、蒲生、朴、龍などなど。管理人達の主力がこの戦場に揃った時点で多少の被害が出るくらいで、決着がつくと分かる。
パイスーの望んでいる戦争だろうが、それがあまりにも無謀。この戦場で生き抜き、勝者になったら確かに最強かもしれないと言える。ライラはそう思う。
「………………」
だから、ライラはみんなに行って欲しくなかった。しっかりと言葉はかけた。でも、止められない。4人には自分と同じ使命感を発していた。3人は故郷であり、家であり、家族であり、居場所を守るために。1人はただただ弔い合戦へ。
「ちゃんと帰って来なさいよ」
帰りを待つ、ライラ。次の戦場は技術開発局そのものになることは予感している。
ガチャアァッ
「地下通路を使えば技術開発局にも辿り着ける」
「とんでもねぇ迷路だったな。管理人に見つかってねぇーだろうな?」
「大人しくしろって、ラッシが怒ってましたよね」
春藍達はフォーワールドからイビリィアに向かう際に使った地下通路で、シェルターから技術開発局へと向かっていた。アレクはどうやらこの巨大な迷路を熟知しているようだ。管理人のラッシとクロネアから、動かぬよう口すっぱく言われたが、それでも管理人だけにこの戦争を任せたくなかった。アレクとネセリアはこの技術開発局のため、科学のため。ロイは師であるインビジブルの仇を討つため、春藍は…………
「彼等はきっとここが再起不能になっても良いと思っているかもしれない」
「春藍にしては的確な答えだな」
春藍の言葉を正しいと言うアレク。だが、春藍がホントに言いたい事は違う。
ギイィッ
「わぁー、久しぶりですー」
「ここがあの馬鹿デカイ建物、技術開発局の内部か」
地下通路を使い、ようやく4人は技術開発局に辿り着く。ここに来るまで、大きな振動と音は何度も聞いた。どれくらいの被害が出ているか、4人には分かっている。
「行こう」
4人というチームであるが、バラバラな目的を持った4人が到着した。