インティ VS 朴
「あ?」
「む?」
龍と蒲生は1人、いなくなっている事に今気付いた。ポセイドンは少し前から気付いていた模様。
「桂さんはどこに行った?」
「さっきまでここにいたと思ったが…………」
「逃げたというわけではないな。大方、気まぐれであろう」
桂の勝手な行動にポセイドンはにやりとしていた。先手を打ったようで一番やりたい事をしたかったのだ。
「我も動く。龍と蒲生はここで待機し、状況に応じて対応しろ」
「ポ、ポセイドンまで出向くのかよ!!大将が勝手に動いていいのかよ!!?」
「我と桂がいないとあればお前しかおるまい。万が一の事態の時に動けば良い」
そう言い残してポセイドンは技術開発局の方へと足を運んだ。朴達もいない状況で、蒲生も戦闘許可が降りていないことから龍は言われた通りにするしかなかった。どちらかの戦況が変われば龍が出るという状態。
今のところ、動きはないが…………
「これじゃあ俺も、戦う準備をしただけで終わりそうじゃん!!せっかく、超新必殺技を考えたのに!!相手がいねぇーとつまんないよ!」
「つ、次の機会があれば良いではないか龍。俺はあるかどうか分からない……それより、今のは子供らしい発言だぞ」
そして、桂と若。
「お前の"正体"を聞いてきた」
「?」
桂が言葉にしたものは若にとっては疑問でしかなかった。
「どーしてその能力を得たかも理解できた」
「??ちょっと待ってよ。話がついていけないな」
若は逃げようと"ディスカバリーM"を使用するチャンスを伺っていた。若はそれを狙い、桂の話に突っかかった。勝てない相手だが、逃げられる相手だという可能性に賭けているからだ。
「僕は僕だ。何を言われてもね」
「…………そうか」
「それと、誰かに僕の事を聞いたの?僕の仲間はパイスー達以外いない。親もいない。パイスーに聞いたとでも……」
「奴等はまだ来ていない。今は心配する必要はない」
「!」
話しながら"ディスカバリーM"を起動する。この調子で話して時間稼げばいけると思った若だが、桂はそんなに甘くはない。
バギイイィッ
「妙なマネはするな」
「っ……………」
刀ではなく、殴られる若。何かオカシイ。殺す感じの拳じゃない。腹は痛いがな………。
「くっ……桂…………なにが狙いだよ……」
「パイスーと拙者が戦えばどう転ぶか分からん。その前に貴様という希望を守る必要がある」
「?……僕を守る…………?おかしいね、敵だ」
「お前は拙者達の事を敵だとは思っていない。お前の中ではパイスー達の怒りをもて遊んで見ているだけにしか思ってはいないはずだ」
若は痛みの中で本当の気持ちを見透かされている事に驚いていた。特別に、関わっている時間が長いわけでもない奴に見透かされるとは不気味だった。
「お前は知らないが、パイスーは気付いている」
「?」
「今は知らないままで良い。その時が来るまで大人しくしていろ」
ゴギャアァァッ
桂は若を蹴り飛ばし、気絶させた。このまま彼に何をするか読めなかったが。分かっていることは若は死んでいないことだけだった。彼女にはそれが分かり、はるか格上であっても挑みかかった。
「!」
「若を」
ガギイィッ
高速に突き出したナイフであったが、桂には見切られて防がれた。
「返してもらうよ!!」
「小娘…………インティか」
桂はすでに若を担いでいた。今、桂は刀こそ使うが十分な力が入らない。抜刀や剣術にも影響が出てる事は分かる。
「パイスーも来たということか」
桂は用事を済ませたいが、このインティが邪魔だった。こんな状態ではパイスーに殺される上にポセイドンの動きも警戒するべきだったからだ。インティをここで殺したいが、殺す前にパイスーが来る可能性もある。インティが退いてくれるのが理想だが、そーゆう感じでもない。インティを相手に逃げられるとも言えない。
「………………」
桂がやれる事は一つだけだった。大きな砂煙と硝煙が舞っている場所、朴達が戦っている方へと逃げる事だった。あそこには朴とフルメガン・ノイドがいる。桂は"雷光業火"で一気にそっちへ向かい、インティも"韋駄天"で追いかけた。
ドヒューーーーー
"雷光業火"と"韋駄天"の速さ勝負。インティは負けないよう必死に桂を追い、距離を縮めるまで至ったが、ゴールがあまりにも近すぎてスタート位置で優位だった桂が先に砂煙の中に入った。
状況は2人共理解していないが、このような視界が悪い場所であれば速さだけの"韋駄天"より速さと破壊を行える"雷光業火"の方が優位だ。唐突に現れる障害物をぶっ壊せるのと、避けなければいけないのは速さ勝負では重要だ。
「くっ…………」
視界が悪ければ桂を見失う。加えて、
「!」
ガギイィィッ
「あれれ?……私のバットを止めたよ」
「!か、管理人…………」
偶然、インティが通るところにベィスボゥラーが待ち構えていた。これにより、桂の姿を完全に見失ってしまった。
視界が悪いという条件と、唐突に出現した相手とあって慎重な立ち回りをしようとするベィスボゥラー。一方、早く桂を追わなければいいけないインティ。2人の心情は裏と表のようになっており、インティは相手のことなど気にせず、最高速度を出してベィスボゥラーを襲った。
「えっ」
人間をぶっ飛ばせる身体能力を持っても、"超人"ではないベィスボゥラー。インティの"瞬真追廉斬"を見切れない。どこをやられたか記録はしているが、圧倒的な速さを持つインティに一方的な攻撃をもらった。
「がはぁっ………………」
「若!!どこにいるの!!?」
インティはベィスボゥラーを見ていない。止める者がいなくなった途端、再び加速して最高速度となって真っ直ぐ進む。だが、わずか数秒。足を止めたことで完全に桂を見失った。
朴達の戦場から脱した時にはどこにいるか分からない。振り返れば土煙が晴れ始め、リップル相馬の洋服をつけた人形軍団がインティに対して、波のように襲い掛かった。
「邪魔ぁ!!」
その中の数人だけ相手をし、再び技術開発局の方面へと戻ろうとするインティ。どこに桂が行ったか分からないが、パイスーにこのことを報告しなければいけない。"ディスカバリーM"ならばいつでも脱出できるはず。若が生きていればの話………。
再びトップスピードで走るインティであったが、
ギュゥンッ
「!」
「抑えさせてもらいます」
とにかく突然、インティの後方に現れた朴。インティはこれと似た経験がある。粕珠のフェスティーバ・セイントを喰らった時とほぼ同じ。体験したからこそ、この奇襲に対応できた。
バヂイィッ
「おや!」
「くっ…………」
朴の関節技を回避してみせるインティ。"カスタネット・ギバン"の相殺を利用した瞬間移動についてこられた人物と初めて出会い驚きの顔を見せる朴。恐ろしく速いことを理解し、詠唱をしている暇はないと確信。少々、インティが苦手なタイプだということまで理解。
「仕方ないです」
朴は自身の魔力を微風に変化させて、周囲に吹かせる。一流の魔術の使い手であれば魔力を能力以外の存在に変化させることができる。通常よりもコストが高く、効果も微々たるものだ。
だが、朴は相殺という能力を持つ事からただの一流よりもコストを低くして扱える。
インティは朴を仕留めるべく、全速力というより圧倒的な加速で朴の喉を狙った。粕珠戦でこの手の奴は肉体的な動きが得意ではないと理解したからだ。そして、自分より速い奴なんてありえないという自信。朴の視線が自分に追いついてないところまで理解できた。
バギイイィッ
「!?」
その自信が少し崩れる。朴はインティの左手に握られたナイフ攻撃を軽やかに弾き飛ばし、防いだ。気落ちする前に足を狙った攻撃も、朴に防がれる。
「えっ!」
「ふふ」
ガコオォッ
逆に朴がカウンターとして拳を一発、インティの肩にぶつけたのだった。自分以上のスピードで対応されている。この攻撃が自分と似ていて力がないことに救い。パイスーや桂並みの腕力だったら潰されていたら。
「こ、こいつ…………ウチより速く動けるの!?」
そんなわけがない。インティは朴が超人ではない事を分かっている。攻撃を受ける際、並の超人でも目がついていくはず。朴にはそれができていない。動きもなっていない。でも、止められてカウンターまでできる朴の動きはずば抜けている答えでは済まないほど、桂すらも超える身体能力で打ち込んでいる。
「かもしれないですねー」
朴がインティにダメージを与えられた理由は発生させた微風にあった。
"超人"の間合いの詰め方や攻撃で起こる風圧を利用している。発生させた微風となっている魔力がどれだけの風圧を受けたか計測し、自分の体内に秘めている魔力で微風もろとも相殺するように肉体に働きかける事によって、インティよりも素早い対応を行えているのだ。
ただ一つの能力を幅広く、強力に扱える朴の力量は管理人の中でも抜けている。
「ベィスボゥラーの仇はとります(死んではないでしょうけど)」
「くっ」
だが、弱点もいくつもある。それをインティに隠しているのは朴の魔術以外の強さにある。
肉体をインティよりも早く動いているということは身体に掛かる負担がとてつもなく大きいのだ。明日は完全に筋肉痛に悩まされるだろうし、裂傷もあり得る。もう一つ、"超人"と"魔術"では負担の度合いが違う。魔力という枠がない"超人"は体力が続く限り、いくらでも力を使う事ができる。一方で"魔術"は体力と魔力が同時になければ扱うのも大変だ。さらにインティの体力がなくなるよりも先に朴の魔力が尽きる方が速い。コストを落としているとはいえ、インティの動きに対応するための相殺する魔力の量は非常に大きい。最後に…………。