朴、フルメガン・ノイド、リップル相馬、ベィスボゥラーの戦闘
始めの戦場は南の国の近辺。多くの建物が並び、ほとんどが学習や訓練にある建物であった。
ここからでもフォーワールドで一番の施設、技術開発局の様子が見える。
管理人達はそこを潰さぬよう背を向ける。一方、黒リリスの一団達はそちらへと身体を向けていた。あの場所が一番の戦場となると、誰もが理解できたからだ。
バギイィッ
「ぐぅっ……」
リップル相馬が持ってきた洋服を身につけた人形達はそれなりの戦闘力を持っていた。戦士の服と剣士の服を重ね着させれば両方の技術を扱える。無能に一芸を与えると少々厄介だ。それに加え、倒してもなんら得がない人形達。
「か、囲め!こいつ等、意思疎通ができない!」
「チームワークだ!」
若が連れて来た戦士達はそれぞれ面識がほぼない。だが、目的が同じであることが幸いし、2人一組となって一つの人形を壊しに行った。能力を渡すことができるが、連携ができない人形達。戦略的な動きをもたない彼等では数のゴリ押しもそこまで効果がない。
だが、朴達側とすれば時間稼ぎで十分である。
ザッッ
【3番、ピッチャー、ベィスボゥラー】
チーム力の低さを個の強さで補う。
眠った状態でありながら、バットを握って人間達に襲い掛かるベィスボゥラー。背負っているリュックにはボールとグラブ、スコアブックなど野球道具は放さない。2人一組でいるということはまとめて倒せるということでもある。
「よっと」
初めてベィスボゥラーが声を出した。非常に若い声であった。そして、開いた瞳は小さく青色であった。さすがに起きて戦っている。
バゴオオォォッ
振り切るバット。2人まとめて空のかなたにぶっ飛ばすベィスボゥラー。
「だいたい、ツーベースかな?」
「か、管理人だ!!」
「強い奴だぞ!」
野球で身につけたずば抜けた身体能力。打、投、走、守は超一流。近距離戦ではバット、遠距離ではリュックから取り出したボールを放って人間を倒す。野球は神のスポーツだと伝えたいような芸術技と職人技で戦う。しかし、野球道具は相手を殺すためにあるわけではないぞ。バットで人を殴ってはいけない。
バシイィッ
「な、なめんじゃねぇ!こんなボールで倒されてたまるか!"超人"でもない奴に倒されてたまるか!!」
「良い捕球技術だ…………強い打球が来るサードを守ってみない?」
だが、その技術と身体能力は"超人"と比べれば劣る。バットもボールでも倒せない相手も中にはいる。
「好まないな。優秀な選手を潰すのは心が折れてくる」
ベィスボゥラーの本当の力。アレクを一瞬で昏倒させ苦しめさせた、膨大な記録の流し込み。肉体の強さ、精神の強さはカンケーない。意地でどうにかなったら苦労しない。ベィスボゥラーの指から放たれた赤くて短い光。
「"ペナントレース(人類は皆選手)"」
赤い光を浴びた者は記録を流される。記録は記憶とは違い、しっかりと残る存在であり紛れも無い事実。
「ううぅっ、ぐああぁぁっ!」
流された記録は自らの信念を揺るがせないが、脳みそに深刻なダメージを与える。今、ベィスボゥラーが相手に送っているデータは自分の世界で行われている野球の試合の数々。超どーでも良い。だが、その試合数と歴代の年数は1人の人間の頭が記録していい量ではない。管理人に対する憎悪が軽くなるほど、野球というスポーツを見せられる。記録という形で相手は知りまくる。やっていないのに、知らないのに、いつの間にかやっていたような錯乱状態にも陥るほどだ。
「があああぁぁっ!!サードこええぇっ!!」
野球記録は太く、凄く、長く、偉大なものである。それが一気に人間の脳みそに流れると
ボオオォッッンン
頭が破裂するほどの凶器となる。死ぬ寸前になれば頭の中は流された事象だけで一杯となり、大切な物を無くす事もある。エグイ殺害方法。ベィスボゥラーもこの殺害は好まない。
ベィスボゥラーの強さは確かに番号に相応しい力量。多くの敵は葬れないが確実な勝利と強さを出している。
「!」
「次はオイラが暴れるで」
ゴゥンゴゥンと唸る機械音に気付き、上空に浮かぶ飛行船をチェックしたベィスボゥラー。フォーワールドにも飛行船はあるのだが、あれはどー見てもフルメガン・ノイドであると分かった。様々な乗り物に変型できる彼の能力は大勢を相手にするのに非常に優秀であった。
高く浮かんだところでまた変型を始める。重さ、体積、形状、武器を自由自在に変える。飛行船から爆弾を降らせても良かったが、より効率的で絶望を与える手段を選んだ。こいつ等は敵ではないと分かっていたからだ。
『モンスタートレイン』
ドゴオオォォッ
上空から降ってくるのは巨大でなんと200車両にもなる列車。フォーワールドにある建物を次々と崩しながら、車両そのものも脱線している状態で地上に落ちてきた。下敷きになる者達もいた。だが、恐怖はこの後にある。
『地獄列車出発』
転倒や脱輪をしていても、それ全てがフルメガン・ノイド。自在に変型してしっかりとなかったことにする。そして、どんな地面だろうが走ることができるモンスターエンジンで建物を破壊しながら列車は動き出す。加速していく。その際衝突する建物にも一切の傷を負わず、爆発に巻き込まれても溶けやしない頑丈な列車。というより、線路なんて存在しないところを走るため車のような性能ではないかと言いたくなる。
『終点は地獄になっていますぞぉぉっ』
暴走列車。人を轢く為、建物を壊す為にある技ではない。
単純に破壊と絶望を与えるだけだ。人間もリップル相馬の人形もお構いなしに轢き殺す。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
南の国の建物が多く潰された…………。砂煙、ゴミ、血、破片、ガラス、書籍、データ、景色。住民が見たら卒倒してしまうほどの代わり映え。戦場にいる戦士達にとっても、死の重みと恐怖を植えつけられる。
だが、ただ1人だけ落ち着いている奴がいる。
「フルメガン・ノイド……蒲生さんがいるからこれくらいの破壊は見逃しますが、…………私とベィスボゥラーも巻き込まないで頂きたい」
チリンと服についている鈴が鳴る。ビリビリと来る衝撃になっている。暴走列車ことフルメガン・ノイドが朴の方へと向かっている。
朴は白と黒の結界を張った。魔術に対しては抜群の相性を持っている、"カスタネット・ギバン"であるが、フルメガン・ノイドのような科学使いで物理攻撃をしてくる輩とは相性が悪い。馬鹿とは相性が悪いのだ。
「果てにある魂と我が魂、引き合う光の軌跡を照らし、導くデスティニーを発する」
"カスタネット・ギバン"の使い方を応用すれば瞬間移動も可能にする。
「フロクレイス」
ヒュンッ
周囲が砂煙で見えなくても、朴には魔力の濃さや量で位置が分かっている。魔力を持っている者との距離を"相殺"し、零距離状態にして相手の魔力を相殺する技も瞬時に使う。無論、朴だって魔力を消耗するわけだが、管理人の中ではトップ3には入る魔力の総量と回復量を持ってすれば大した出費ではない。相手に抵抗する術を失わせ、関節技に持ち込んで仕留める。自身はこの技で得意な連中だけを相手にでき、巻き込まれそうになればベィスボゥラーとの距離を相殺し逃げられるという一番姑息で確実な殺害を実行できる。
バギイイィッ
「隠れても私がいるので誰も逃がしたりはしませんよ」
"超人"や"科学"の使い手でもわずかながら魔力を保有しているものだ。判別は付き難いが、距離を"相殺"するための魔力を使えば自由に相手に近づけ、自由に逃げられる。
フルメガン・ノイドの派手な暴れ方とは異なるが、理想過ぎる暗殺をする朴。
4名の活躍によって、管理人側は圧倒的な力を見せ付ける。
「お、おーい……そんなに向こうが強いなんて…………」
若は彼等の戦闘地域から外れたところで様子を眺めていた。せっかく連れて来たというのに数ではどうも対応できないようだ。
「これじゃあ、パイスー達が来た時。何をしてたのか、馬鹿にされそうだな」
「そうだ。拙者達を相手に無駄に人間を呼ぶな」
「でも、僕を入れても6人なんだよ。数じゃ不利……」
その受け答えをしてくれる人物が一体誰かと思って振り向けば。すでに抜刀する構えでいた奴。あ、やべ。僕は終わった。あと頑張ってパイスー。
「か、桂………………僕はさっき移動したばっかりなのに……(こいつはホントに神出鬼没だ)」
「………………」
桂は戦闘力がない若に詰め寄るだけだった。




