パイスーの最終判断
春藍は彼がやはり真っ直ぐであると分かった。彼は勝負世界でずーっといたのだ。たぶん、止められない。だけれど、彼がこうして自分達と話しがしたいというのは……。
止めて欲しいとかじゃないんだ。彼は諦めているという意味の意思を持っている。
今こーして話しているのはあくまで遺言めいた形だと……。パイスーと春藍だけが判っていた。
仲間みたいな何か……。
で、あるならば。彼に救いの手を。救える言葉を。救える技術が……必要だ。
「どっちが先なのかな?パイスーが最強になるのと、その人が現れてくれるのは」
「……残り、桂とポセイドンぐらいなら。俺が最強になるのが早いな」
「じゃあ、待っている間。何をしているの?きっとパイスーほどの武術家なら、きっと戦いを求める人もいると思うけどさ」
話しながら言葉を捜している春藍。
これからまた管理人達と戦うというのは変わらないだろう。そして、結果がどう転ぼうが。春藍にはパイスーの顛末を悟っていた。その顛末に転ばぬよう、救える力や強さが欲しかった。
「一緒にフォーワールドとかで過ごそうでも……僕に武術とかも教えて欲しいし…………」
何を言えば彼が止まってくれるか?考えても分からない。実行しても……ダメ。
「パイスーはまだ……早いんだ!きっと、パイスーの力が必要になる時があるんだ!だから、無茶はしないで」
「………………」
「パイスーは優れているし、誰よりも人間達に必要な力がある。だけど、その力を今管理人に向けるときじゃないよ」
止めたい言葉を捻り出しても。
「止まるのはよっぽどの事だ」
「!」
「俺は人間だ。老いたという経験はまだないが、最強でいられる期間には限られている。今すぐ始めるつもりだ。今やらねぇとな。俺は…………俺は特に、お前がこっちに来ないか?ってことを言いたい」
パイスーは止められない。強すぎる…………。誰も縛ることができない人間。
彼は言葉と共に手を差し出したが……。僕は握ることはできない。彼に付いて、生きたい。でも……。
「僕は…………僕にはライラや、ネセリア、……アレクさんも、ロイもいる」
「む」
「パイスーがこっちに来て欲しい。その手についていったら…………僕はみんなの足を引っ張る。パイスーに生きて欲しいから、僕はついていけない」
数に圧された形。春藍は苦しそうな声でその言葉を吐いた。
「まだ、僕は死ぬわけにいかない……怖いこともある。パイスーみたいにカッコよくないんだ」
「…………残念だ」
パイスーは沈んだ声だった。寂しそうな顔だった…………。
「……ふふ」
「!」
けど、その後。彼の顔をよく記憶できた。
吹っ切れた感じの顔になって。ヒーローになろうとするような魂をむき出しにしている闘志溢れた顔に変わった。
「いいぜ。春藍…………」
「ど、どうしたの?パイスー」
「俺。……最後の手段を考えていた。もし、お前がこっちに来てくれないなら。別の方法だ」
「別の方法……?」
パイスーがどうしてそこで僕に関わるのか分からなかった。ただ、特別に思われた事には嬉しいことだ。もし、それが叶うなら。きっと一緒に過ごせると思う。
「約束な。俺は…………お前の故郷と管理人全部を潰してやる」
「えぇっ!?」
「な、何を言うのよ!!?」
驚いた声をあげたのはライラとネセリアであり、僕には分かっていた気がしたので驚かなかった。
「お前が思っていたもん。俺が壊してやるからな、その後は俺に付いてこい。この最強の俺がお前に見せてやる。管理なんかされない、人間の世界って奴をな」
「そんなことさせないわよ!!あそこは、春藍やネセリア達の……」
「ライラには言ってねぇ。その気になればお前も殺す。ネセリアも殺す。アレクっつーおっさんも殺す。とにかく、ぶっ殺す。な?……結局、頼れるのが俺達しか残らなかったら、春藍は来るだろ?」
短絡的で単純。パイスーらしい答えだ。
「きっとそうだよ。ライラ達がいなくなったら、……僕はパイスーについていく。僕はまだ1人じゃ何も出来ない。強くもない。守れる力をつけられない」
「は、春藍……」
「ただ、パイスー。僕は…………ライラもネセリアも、アレクさんも……誰も失いたくない。パイスーもそう思っているから。僕は違う方法でパイスー達を救うからね」
「…………ホントに甘いが。……はは……それでこそだ。春藍自身に興味がある理由だ」
パイスーが最後に自分に向けて笑っていた。
「じゃあな。春藍…………」