パイスーの世界観②
人には役割がある。それは運命とも書くし、望みとも書くし。知らないで死ぬものもいる。
力や技を持ち合わせていながらも、出会うべき人材や場面に出会えなければ無に帰す。貧弱すぎる力や技でも、出会うべき場所に行ければ幸せと感じられる。一方、あまりに強すぎる力や技は暴走を起こすものだ。"それ"を扱える人材がやはり必要なのだ。
中にはたった一人で行える者もいるが、…………上限は決まっている。むしろ、そんな奴は世界からタカが知れていると笑われるだろう。胸を張っていいわけじゃない。友達でも、彼女でも作っていてください。
巨大な爆弾。一個人で世界を壊滅してしまう力はどこに向けられるか、爆弾自身が決めてしまうとは困ったものだ。その爆弾がパイスーであること…………。
「だな。もったいねぇよな」
「………………」
「いたんだよ。俺の、ザラマの、梁河の。もう1人の仲間がいたんだよ」
「ああ」
パイスーの言葉にザラマも頷いて答えていた。
「だがよ。いつまでも待っているのはダメと思っているから、探したりよ、きっと帰ってくる奴を驚かせたい気持ちでいるんだよ。それが俺が最強になりたい理由でもある」
「……その人はもしかして、……管理人を恨んでたりしてたの?パイスーはその人の意志を継いでいるの?」
「…………意志は継いでる。だが、あいつは管理人に殺されたがその前から恨んでいたわけじゃないな。研究というの名の調査ばっか。馬鹿な俺には最後まであいつがやりたかった事は読めなかったな」
「そ、それって意志を継いでるって言うの……?」
ライラのふとした疑問にパイスーは考えてみる。あんまりそーゆうのは考えてなかったかもしれない。そして、答えてみる。
「前々から変えたかった物がハーネットにはあっただろうな」
「えっ!!?」
「どう変えてやりたいか分からないが、……とりあえず、変えてみるってのが」
「ちょちょちょっ!!!あんた今、今……」
パイスーの答えを遮ったのはなんとライラだった。どこに驚くべきところがあったか分からないとライラ以外は思っていた。
「ハ、ハーネットって言ったわよね!?今!!」
「?そうだが……」
「そ、その人は…………"SDQ"やこの"無限牢"、"管理人"達を解析した人間よ!!?なんでそんな奴と知り合いで仲間だったのよ!!!?」
パイスーの考えや春藍の考えが一瞬、飛びそうなくらいライラが喚いた。
彼女にとって、ハーネットという人物は自分が旅に出るきっかけを与えた故人であるのだ。最初にそーゆうのを人間で発見した人物であり、解決しようとした人物。だが、危険な一面を持っていると判断され、管理人達に謀殺されてしまったという。
「っていうか、……そのあんた達。やっぱり、あたし達とは違う。故人の名前を出すは、死んでいる奴を待っているは……」
「リアも確かその………………恨んでいる事があったよね?ネクストステッパーで見たあの研究の……」
そーいえばこうして普通に喋ることはあっても深くまで話していなかった。春藍達はまだ彼等を知っていない。そこがもう、話し合うということが破綻しているといえる事だろうな。
「リア……話すがいいか?」
「……別室に行かせてもらいますわ。お気遣いありがとうございます、ザラマ」
リアは不機嫌な顔を出し、立ち上がって別部屋へと向かっていった。彼女の聞きたくない言葉が飛び交うからだ。まともな精神じゃいられない。虫唾が走ると身体が爆発してしまいそうだ。
リアが部屋を出てからパイスーではなく、ザラマが3人に説明を始めた。
自分達が患っている"RELIS"という病床について…………。
「あら……」
リアが別室に向かう途中、梁河が頭を抱え。インティがナイフを抜き、ロイも拳を構えるという奇妙な光景を見た。猿同士が喧嘩をしそうと思っていたが……。
「な、なんだよ!この小娘がー!!」
「………………ふん」
いちお、決着がついているようだ。ただし、勝敗ではなく保留であった。インティがナイフをしまった。
「こんな程度まで、落ちぶれてしまったのね…………ロイ」
「!」
「あのライター使いに敗れたのも納得がいくよ。ウチはあんたを目標にしていたのに……ガッカリだよ」
「なんだと…………」
ロイには今ここで因縁ができたが、インティにはずっと前からある因縁だ。この身体やこの技術では出会わなかったが、因縁がある。
「俺は女とは戦う気がねぇーんだよ」
「ウチを女の子とは思わないで!!まったく……………」
しまったナイフをまた取り出してロイに向けたインティ。
「そのふざけた根性!!次、ウチに向けたら四肢を八つ裂きにするからね!!甘ったれた気持ちで本気のウチを止められると思わないで!!」
「!…………どーゆうこった?俺はお前とは」
「戦うから!!ウチが…………ウチがあんたを倒す!!それ以上は言わないから、次戦う時は本気を見せなさい!!それがタドマールの戦士としての役目でもあるでしょ!!?」
そう言って、インティはどこかへ走って消えてしまった。ロイはそれを追う事ができなかった。インティのような子も守備範囲内である。
「……昔、どっかで会った事があったか…………いや、どんな女子でも俺は記憶するんだぞ。忘れるわけがねぇ。つーか、インビジブル師範も何か……」
「テメェは馬鹿野郎だな」
「な、なんだと!!?男子なのにスパッツを履いた変態野郎!」
「お前には言われたくねぇ………………。ともかくだ。インティがお前をどう思っているか俺は知らないが、インティは……俺達はな」
「なんだよ?」
こっちの方でもどうやら"RELIS"の話になりそうだと、リアは直感的に感じてインティを探しに行くことにした。パイスーとザラマ、梁河と違って2人はこれに振り回されている形なのだ。
「"RELIS"……………」
「生まれ変わってきた……ってこと……」
「そ、そんなの"科学"の力じゃできない事ですよ」
春藍達はザラマからその説明を受けた。
「証拠はないが。今言ったことは事実だし、辻褄も合うだろう?」
「俺は桂に一度殺されたな。ははは、ザラマはどいつにやられたんだ?」
一度死んでおいて、その死の間際すら笑い話にしてしまうパイスー。
「ま、驚きの経緯だが。そんなの今の話にはそんなにカンケーねぇな」
「そ、そうかしらね…………」
「?」
「桂に殺されたなら。あいつの強さくらい分かるんじゃない?……あんたを殺す奴はおそらくいない。だけど、勝てない奴がいる…………その拳。別の道で使えるはずよ」
ライラは桂の強さを信頼してパイスーに伝えたが、
「あいにく。今じゃ一番戦いたい相手なんだよな。今度はやられねぇー。不意打ちさえなければ」
それを愉しんでいるパイスー。自分では計りようがないが……こいつは桂と対等に戦えるという自信を察するに単独で止めるには難しいと思う。桂もいくつか手勢でいかなければ危うい。
「えーっとなんでこんな話になったっけ?……あー。そうそう…………まぁ、俺はハーネットが"RELIS"となって戻ってくるのを待っている」
そう言って春藍の事を見ていたパイスー……。彼にもザラマにも予感はあったからだ。
「?」
「なかなか出会えないが、きっと来るって信じている。それまでにちょっとは豪華な称号を見せ付けてやりたいな」
まだ彼はここにやってきていない。どうしてなのかは2人には分からない。でも、待ち続ける。いつまでも、傍にいて………。また、世界で暴れてやろうぜ。