パイスーの世界観①
パイスーは単刀直入だった。つーか、それ以外できない。遠回しに何かを言う事は苦手だ。
「なぁー。やっぱ、お前等。このままじゃつまんねぇーから下克上と行こうぜ」
「?」
「管理人。残り10人狩れば間違いなく、人類は管理社会から自由になることは間違いない。たった10人だ。俺に、ザラマに、梁河に、リアに、インティに、……春藍に、ライラに、アレクに、ネセリアに、ロイが加われば10人。この10人で残りの管理人を蹴散らせばいい。簡単な話だからよー」
「わ、私は非戦闘員ですよ。というか、勝手に加えられてる」
話がストレート過ぎて唖然としている春藍達。無論、リアもザラマも驚いている。ん?ザラマはまたやったなという顔をしていた。
「つまりだ。粕珠もインビジブルも、ガイゲルガー・フェルも俺達は殺した。残りは10人。えーっと……1番の奴と、ポセイドン、桂、龍、蒲生、朴…………あと知らないが3人いるな」
「?……パイスーさ。残り9人じゃない?」
ライラの指摘にパイスーは手でちゃんと数え始める。頭はポセイドンに指摘された通り、あんまり良くないのだ。戦闘以外では基本ダメ人間とも思われる頭のスペック。
「え?マジ…………?……1,2,3,4,5,6,7,8,9…………あれ?10番目ってどいつだっけ?殺したっけ?」
「10番目は英廉君だ。お前が殺しておいて忘れるなよ」
「手応えあったか?………どーゆう奴だったかな?」
ひでぇパイスー…………。ちなみに英廉君は両肩に砂時計を乗せ、平っべたい帽子を被った少年であり、スタイルは魔術。スタイル名は"ニノ"。指定した時間帯を維持する能力である。死因はパイスーの"天獅子"に踏み潰された。そりゃ覚えてないな。
「まー、何人でも良いや。ともかくあと少しってところ。要の管理人が残り9人ならほんの少しで手が届くところ」
パイスーはもうすぐ自分の野望が達成されると確信していた。それは昔から誓ったこともそうだし、最強という地点に辿り着きそうというのもそうだ。
「世界全体が終わっちゃうんだよな。俺は管理人達とは戦い続けるつもりでいるが、お前等とは戦うつもりはそんなにねーって事でよ」
「…………パイスー。あなたって相当恐ろしい奴ね」
「野心のためなら何でもすんのが、俺のモットーだと思ってる」
最初に会った時と同じであるが、ライラはこのパイスーがとんでもない危険だと認識している。強さという一点でもそうだし、この自分さえ良ければという主義。
この男には管理人に抗うだけの、世界を覆すほどの力を秘めている。危険度で言ったら、自分が解決しようとしている"SDQ"に匹敵するヤバさ。すでに管理人の中にいる上位の者達を次々と殺害しているだけで超危険人物。
だけど、パイスーも気付いてたし、ライラにも分かっている。
パイスーには力があってもその目的があまりにも矮小であり、その先が見えていないし、あり続ける事ができない。覆すという力を持っているだけでしかなく、覆った世界を維持するという事もしないのだろう。革命者でありながら革命後の世界を見ていない者など、混乱を生み出すだけなのだ。
「自分で言っている恐ろしさより上にいると思うわ」
「…………そうか。まー。そうなのか」
ライラの心の中で警鐘が響いていた。
仮にザラマもリアもこちらの味方になったとしても、パイスーを力で制することはできない。
管理人と戦い。自分の師である桂、マリンブルーにいたポセイドン等が敗れるとは思えないが、万が一の事が発生すれば"無限牢"のシステムは狂い始め、多くの世界が流通や経済などを見失って破綻、滅亡というシナリオになるだろう。
「あんた達。自分達がやっている恐ろしさを理解してるの?」
「俺は思ってるが…………ザラマとかはどーだ?」
「俺はパイスーについていくだけだ。お前の考えについていく。梁河もそうだろう」
「ワタクシは恨みを晴らすまで。クラゲ娘にはワタクシの苦しみを理解できないようですわね」
浅はかだ。
ライラは3人の言葉に呆れてしまう。恨みや何かで、大切な存在やそこにあった大切な物を崩してしまう事は自分だけじゃない済まないのだ。
…………こいつ等、性質が悪い事に特攻や神風の類の精神をしている。別の意味でライラはこのメンバーが欲しいのに…………。
それでも力で抑えるわけではないが、話をするべきだと思う。こうして彼等が話し合いの場を設けたということは何かしら……特にパイスーはらしさがないと思いつつ、招き入れたのだと推察した。
この強大な暴を食い止める、言葉が必要だった。ライラが考えている間に
「僕は危ないと思うな」
「!…………」
「まぁ、心配してくださるのですね」
春藍がライラの考えを読んでいないが、彼なりに3人とは話しをもっとしたかった。近くまで来て一緒に行動して、敵を倒して。……意見ができた。
リアの言葉はあまりに耳に入っておらず、パイスーだけを春藍は見て言っていた。
「パイスー。危ないって…………もっと別の方法をあると思うんだ」
「ほー……どんなことだよ。春藍」
何を言うのかな?ってネセリアは春藍を見て、子供の発表会を見に来たお母さんみたいな表情をするライラ。
「パイスーの野心と世界の均衡を崩す考えは違うと思う」
「ほーー」
「最強になりたい、強くなりたい……。僕もパイスーのようになりたいんだ。だけど、その。……やっぱり平和的な戦いでできないのかな?」
「平和的?」
「うん。ただの勝ちと負けしかない……ただそれだけで良いと思うんだ」
春藍は自分に言っている言葉に責任感を加えていない。甘ちゃんだな。って思いながら、髪を弄ったパイスーは答えた。
「お前の良いところで悪いところだな」
「そ、そうかな……?」
「春藍。お前は勝つ事の重さと、負ける事の重さをまだ理解できていないんだ。この世に勝敗が軽いってのはねぇー。感じているのは弱者だけだ」
それぞれの価値観。
戦闘を続けて来たパイスーにとって、勝利とは生存であり、敗北とは死である。とてもシンプルである。創作や労働を続けてきた春藍にとっては勝利という継続や楽しさ、給料アップ、自由、仲間といったなにか。敗北とは労災とか、不自由や、つまらさ、一人ぼっちなのではないだろうか?
お互いの勝利や敗北の価値、意味が違うからこそ意見は反してぶつかった。だが、それも楽しいとパイスーは感じていた。
「俺の素手、俺の戦闘経験は。殺し合いっつー土俵じゃねぇーといけねぇーんだ。勝ちとは生き残る事、負けるとは死ぬことだって分かってんだよ」
「…………す、凄く重いね。僕はそこまできっと考えてないよ」
パイスーの血は色こそ赤いが、中身は黒く染まっていそうだ。
「パイスーは戦闘以外では何があるのかな?」
「!」
「僕も同じだよ。物を作り出すことしかできない。パイスーも戦うことしかできないんじゃないかな?失礼だけど、……」
「そうだな。事実に失礼はねぇーよ」
「パイスーの力を信用し、信頼する人がこの時間にいないことがもったいないなぁって…………」
もし、……もし……。そーゆう人がいてくれたら……




