魔物練成実験とRELIS実験
春藍やパイスー達が去っていた後のネクストステッパーに残っていた男がいた。
「やはりここは実験場だったか…………」
アレク・サンドリューであった。
すでに城の形を成していないが、地下にはまだ十分な資料や研究成果が残っていた。フォーワールドは生活面での研究が多いが、ここでは魔術と科学の分野の実験が多いようだ。
ザラマ達が発見した実験中の人間達、生息していた魔物達の異形っぷり。
「人体研究か…………趣味が悪い」
アレクは資源や素材の可能性を探している。だが、ここにいた人物は人間を研究していた形跡がいくつもある。罪人として呼ばれた人間達を別の生命体に変えていたり、脳みそを弄るような研究も平然と行われていた。これは粕珠ではなく、前任が担当していた研究のようだ。
その中で興味深い物をアレクは見つけた。
「"人生を繰り返す研究"か……研究タイトルは"RELIS"……魔術に関する実験だな」
アレクはネクストステッパーに転がっている研究資料を全て"掃除媒体"で収集していた。何か役立つかもと思ってのことだ。
「……科学が最先端と考えているが。こーゆうところにも発見があるだろう」
今手に取った"RELIS"の研究内容を読んでみた。
【RELISの構造】
人間が死亡した時点での記憶と精神構造を精密に作り上げる構造である。コピーでは経験を思うように引き継げないため、一から作りだし生前と死後を体験してから新たな命を宿す方式をとっている。命を宿すまでには時間が掛かるが、知識や経験、動作、などなどは姿を変わったとしても引き継がれる。
【RELISの失敗作】
精神と記憶を精密に作り上げる際、生前の肉体までもリアルに作り出してしまう事がある。これでは二度目の人生が活きない。
【RELISの感染症】
"RELIS"を患った者と遭遇した場合、非常に低い確率で遭遇した者も"RELIS"となってこの世に生まれる。どれほどの度合いかはまだ調査中。
【RELISの治療】
現時点ではない。が、"RELIS"は無限に繰り返されるわけではなく、何度も生き死にをループする事で記憶力のオーバーフローにより無くなることができる。
ネクストステッパーは実験の宝庫。
ザラマ達が出会ったベッドに横たわっていた人々は"RELIS"を簡易で行える装置を付けられていた。研究者が投獄されたことにより実験は常時観察という方向になった。様々な人生を歩み、経験から選択肢を変化させて世界に影響を与える。
人間を魔物に練成する実験も、"RELIS"が関与しており、魔物となってしまった人間の感情をチェックするために用意したのだった。
全てはその時期が来るまで、管理人達は人類のために用意してくれているのだ……。
そう理解できる人類はまだ数少ない………………。
………………………
そして、同時刻。
アレクを除いた連中は"黒リリスの一団のアジト"にやってきていた。
「俺は気に入らないぜ」
ロイは不満気で殺意を出していたが、ぎりぎりで抑えてくれている。パイスーと出会った瞬間、殺しに行くと宣言していた。
ザザーーー
"閉ざされた列島"という名が付いていた。若が見つけた異世界であり、いくつもの小さい島が並んでおり、一つの大きな島に建っていた館を彼等が占拠している状態である。
海の音がとても綺麗であり、魚が生息している。梁河は暇なとき、ここでよく釣りをしているという。春藍、ライラ、ネセリア、ロイの4人は招待という形でここに入り、ロイを除いた3人は共同部屋へと案内された。そして、黒リリスの一団側もパイスーとリア、ザラマの3名だけがこの中にいる。梁河とインティがロイを抑えているという状態だ。若は何処に行ったか知らない。
「助かったぜ……おかげで俺は仲間を失わなくて済んだ」
「べ、別に良いわよ。…………ロイは怒るけど、あんたにはイビリィアでの借りがあるからこれでチャラよ」
「こんなクラゲより春藍くんがワタクシを守ってくださったのですね。無事にこの身体も元に戻れた事に感謝していますわ」
「い、異常は無いかな?破損したところを補ってはみたけど…………」
「全然、問題ないですわよ。何かお礼をしてあげなければ」
「べ、別にいいよ。リアの身体の事を知れて、難しいけど遣り甲斐があることだったよ。もし困ったら僕がまた診てあげるからさ」
「は~る~あ~い~。その言い方はとても失礼だと思うんだけど。無自覚でヤらしい事は言わないでよね」
「変態チック…………でも、それが春藍くんですわね」
「う~~ん……なんだか、ちょっと複雑です」
軽い雑談や感謝はここまでとした両陣営。パイスーから口を開いたことで始まったお話。ここでただただ話し合うだけのシナリオに過ぎない。