そいつはどこかにきっといるんじゃねぇーの?
ドゴオオォォォッ
「はははっ……とんでもねー、バズーカを使いやがってよー。焦っちまった」
「………………」
「さー、まだまだ面白いもんを見せてくれるんだろ?ポセイドンよー。全部見せてから……」
「なぜだ?パイスー」
パイスーVSポセイドン。
戦況は未だに互角であるが、客観的に見ても不自然なところがこの2人にはある。その疑問の答えがなんなのか知りながら、ポセイドンはパイスーに尋ねる。どこで彼が知ったのか。
「何故、貴様は本気を出さん……?我や桂とは状況が違うのだ」
「なんだよお前?」
「貴様は最初の数秒ほど、我を殺しに来る気持ちでいたが…………その気持ちが先ほどから感じられない。何のつもりだ?」
戦闘狂で、最強を目指す男が。"科学"を最強と掲げたい男と勝負しないのはオカシイ事だ。
「出すさ。だが、今度な…………」
「…………」
「テッキリ、テメェーがハーネットの言っていた。"時代の支配者"って奴かと思ったが、ちげぇーな。戦って分かる。お前にそれは無理だ。弱すぎるぜ」
「…………舐めたことを言うな、ゴミ」
若が避難した状況。
2人以外、間合いには誰もいないからこそ。言葉が通じ合えた。
「我がそれになる。貴様には絶対にさせん」
「俺は元から興味ねぇーよ。支配より最強が好きなんだよ。だが、進むところまで同じで……テメェや桂とは敵にならざるおえねぇー。人間や管理人、カンケーなしに相容れない主義を掲げる者同士だ。衝突は必死だ」
似ているようで似ていない二人だ。使う言葉がちょっと違うだけなのだろう。
「まー。お前も誰か分からないか。俺達と同じ予感だけってとこか?」
「貴様等もそのようだな」
「桂や俺達を"RELIS"にした管理人には分かるのか?」
「分かるわけがないだろう。我よりも下等な連中なうえ、我々よりも志が低い。資格も器も、強さも、勝利も足りん」
人類と管理人の最強レベルの対決は言葉によって終了する。ポセイドンにとっては粕珠の援護だけに過ぎず、現在のパイスーがどれほどの奴か計りに来ただけでもある。パイスーもまたポセイドンへの興味が減ったところで握っている拳を解いていた。ここから2人が不意打ちを仕掛けるとは思えない。むしろ
「我はこれから会議という用事がある。このへんで退くとしよう」
「…………じゃあ、今度戦う時はマジで来いよ。つまんねぇーぞ。桂にも言っておけ。あと、不意打ちもすんなってな」
「貴様もな」
十分な間合いを取ってから、ポセイドンは異世界へと逃げていってしまう。パイスーはそれを見送っただけにしていた。共通の目的がある事を知れたパイスーにとっては大きな事だった。
この全てにある不可解。
「次だな、ポセイドンと桂…………へっ」
パイスーは状況の整理をしてみた。
ドヒュンッ
そして、ポセイドンがやってきた異世界は当然、エクスピーソーシャル。自分がやろうと言って結局やって来たのは8番目。蒲生のせいでメチャクチャで、龍のせいで酒臭い。不満そうな顔を出している朴。ポセイドンの姿を見たくないのか、ずっと目を閉じている桂。
「ポセイドン様、ご無事で何よりですわってのー」
「オイラ達、心配してたでっせ」
リップル相馬
管理人ナンバー:008
スタイル:科学
スタイル名:裏表同刻堂
スタイル名:賃貸便利屋
男のようで女のような容姿でオカマさん。ファッションには力を入れており、インビジブルがよく通っていた洋服店のオーナーでもある。
フルメガン・ノイド
管理人ナンバー:007
スタイル:科学
スタイル名:OVER・P&SW
オイラ口調で始めるゴーレムのようなカッコイイロボット。ガイゲルガー・フェルとは雲泥の差がある、綺麗な容姿なロボット型の管理人。
「最後はやはりあいつか…………」
「朴ー、お前がベィスボゥラーを連れて来いよー。ヒック……」
「遠慮します。まぁいいでしょう。ねぇ、桂さん。9名中7名揃えば十分じゃないですか?」
「…………拙者は良いが、ポセイドンはどうだ?」
「我も構わない。あの者に意見が出るとは思えん。地位は能力を買われてのことだ、本望ではないのだ」
蒲生はデカ過ぎてずーっと立って止まり、フルメガン・ノイドもかなりの巨体を持つため立った状態で始まる管理人の会議。
これほどの集結は久々というか、ここまで生きてあったかどうか疑問に思うくらいだった。
「皆も知っての通り、管理人が多く亡くなっている。現在、粕珠が黒リリスの一団と交戦しているが。どこまで持つか分からない」
「…………………」
「やられる可能性があると……」
「オイラ達のほとんどはそー感じているんじゃ」
ポセイドンの言葉の意味を分からない者達はこの中にいない。ポセイドンは視線を少し桂に向けながら言っていた。
「なかろうがあろうが。我もここで手を下す。くだらん、ぶつかりもあって被害が広がっていたともとれるが」
「拙者を見るな…………」
「ふ……ともかく。9名、009~001の管理人ナンバーを持つ者達が、次の"黒リリスの一団"を討伐する部隊とする。これは絶対であり、異常事態であることはご理解できるはずだ。手を退くことは絶対にさせん」
前置きから、本題に入ったポセイドン。
呼ばれた理由がそれなのだから全員、断るつもりはない。中には慢心する者、愉しもうとする者。そして、生真面目に戦おうとする者など様々だった。
「ならば一時停止が必要ですね」
「そちらの方が時間が掛かりそうですわねってのー。戦うのは当分先ってのー?」
「俺達は甘い世界を管理していないからな」
黒リリスの一団の討伐にあたって、問題なのは奴等の戦力よりも。自分達が不在になる異世界をどう動かし、万が一の事態への対応策だった。ポセイドンは戦力として彼等を集めたが、ここでの業務は"無限牢"の運営方針の話し合いが目的だった。
まとまるまで時間がかかりそうだ。
進行は早くはないが、参加者全員がバランス感覚についてしっかりと話し合っていた。そして、中盤頃に桂や朴、龍、蒲生の四名がポセイドンを同時に睨んでいた。一回、たった一回だけ。
「皆の物ひとまず、休憩とするか」
「賛成だ」
ポセイドンの中断の提案に桂が乗り、10分間の休憩を挟んだ。桂は朴、龍、蒲生と話をし、ポセイドンはリップル相馬とフルメガン・ノイドと話していた。業務こそ意見を整えるが、それ以外であれば派閥のような物を作り上げる。
「ポセイドンは待っていたようだな」
「やはりそうですか」
「インビジブル達がくたばるのを狙っていた。空いた10つの席に誰をいれるか考えているだろう。自分の派を沢山取り込んで優位にこの世界の運営を動かそうとするやもしれん」
「ひっく…………それって、桂さんの仕事じゃん。違法や思想が入ってるんじゃない?」
「証拠は出てないんだぞ、龍。桂さんが動ける状態ではない」
「いちいち姑息な方ですが……桂さんも同義ですよ。望んでいるんじゃないんですか?」
一見、仲が良さそうな4人であるが、ポセイドン達との決定的な違いはそれぞれ独立しているということ。崇拝というものがない。朴には桂がポセイドンを殺すチャンスを待っていると思っているようだ。
「……否定はせん」
「!」
「いつか、拙者が奴を殺す。パイスーに殺されてたまるものか…………」
強気な言葉と気持ちを朴達に教えた、桂…………。別の衝突が起きそうだというのはここにいた誰もが理解できた。
話し合いの裏で多くが気付いていないこと。そのさらに奥を読んでいたのはポセイドンと桂ぐらいだろう。
崇めるべき実力者達が認めている管理人、粕珠。こいつがインビジブルやゼオンハートより強さで劣っていても、タダでは死ぬとは思えない。というか、死を抗いそうな鬼畜なクソメスガキだ。この話し合いが無為になることもありうる。
全員、粕珠は悪名が目立ちすぎて実力を甘くみている。
"邪悪幼女"と…………。
手を打って来た桂と、念を入れて確認したポセイドン。どちらが早く勝つかがポイントだった……。