グローミ・シソーラス②~崩れ落ちる物語へ
『死ね、テメェ等…………』
堕ちた先がここだ。
ありえねぇ。ありえねぇ。ありえねぇ。
『ありえねぇーーーだろ!!!』
奴は叫ぶ。全否定。
鬼の面を常にしていた。何が。奴をそうさせたか?生まれた事か?働く事か?学ぶ事か?悟った事か?笑えない事か?
他者から観ると、持って生まれた"何か"が……奴にはなかった。……というより。自分以外が持っていなかったと奴は思っていたのかもしれない。
奴の"何かの"欠如と冷血さはネクストステッパーの後任に適していた。残忍に葬り、強者達を殺し、……。頭はそこまで良くはないが、野心の強さがカバーしていた。目的はないが、何かを求めていることが奴なりの欲求なのかと思われる。
『あはははははは』
怒りを感じた回数より笑える回数が多い。だが……………。
その笑うことができたのは他者とは相容れない時。生まれた瞬間にそれが笑えることだと、奴が思えたことは一種の才能だ。誰もが持つ個性としてみるべきだ。たとえ、それが狂っていても。非常識でも。自分がそうだと突き通せることだから。
ただ、同じ才能がぶつかり合った時に生まれる優劣と。まったく違う才能が出会った時に生む歪はまるで違う。歪が産む感情は違う。
………………………。
ザラマと梁河はまた地下を探っていた。先ほどの気味悪い病室とは違う、まともな光景を見た。梁河にとっては月本を思い出しただろう。あれとよく似た囚人共が収容されている牢屋だ……。
「だ、誰だお前達……」
「ひいぃっ」
「さっきから上で起こっている事を説明しろ」
「うぇぇ~ん、お母さーん。あたちー怖いよぉぉ」
50名以上の囚人達。だが、本当の罪人はここにはいないだろう。彼等は罪人や家族、友人だ。大人、老人、青年、少女、少年、幼女などなど。年齢も身分も関係ない。
犯罪者が出た場合、それを止めるべき者達は知ろうが、知らないが関係なしに同罪に近い。犯罪者を生まない環境を作ってみるのが人間達の新たなルールであるべきだろう。
リングのように繫がれてこそ、小さなことですら責任感が生まれるのだ。
「ちっ」
「!」
梁河はその牢屋を殴り壊した。見てらんねぇというのが気持ちだからだ。
「好きに出ろよ!俺達は別にテメェ等の命は取るつもりはねぇー!」
「梁河…………」
梁河の言葉に牢屋にいた者達は億劫さを見せたが……。
「出ろ!!動け!!自由にしろ!!」
さらに、梁河が押した事によってみんなが動き始めた……。戸惑いばかりだったが、牢屋から出てどこかを歩き回った者達。自由になっても何をどうすれば良いか分かっていない。
「いいのか?梁河……」
「かまわねぇさ!俺は全部を救う気はねぇーよ!つーか、行くぜ!ザラマ!粕珠をリアに任せてらんねぇーよ!!」
「…………そうだな。さっきのあれで死んだかもしれないからな」
梁河とザラマが人々を助けた、ほんの少し後だった。2人の強者が気付けなかった。インティのスピードとは違うことは認知できたが、簡単に2人の肩に乗る天使達。
「!」
「あ?」
『君達は罪人だぞ~~』
『判決を言い渡すぞー!お前等、糸グルグル絞殺の刑ー!』
天使達が微笑み、イラッて来る飛び方をしていた。梁河は短気に突発的に、ザラマは冷静にその状況をみていた。
「なんだかしんねぇーが。テメェ等は撲殺だ!!」
バギイイィィッ
手応えはあったし、梁河に殴られた天使は吹っ飛びはしたが、痣も傷もできない。
『いったーい。っていうのかな?』
『でも、あたし達にはどんな攻撃も効かないよー!』
「あぁっ!?なんだこいつ等!?」
「梁河!お前が助けた連中達にもこの生物がいるぞ」
「!……まぁいいさ。効かないなら効くまで殴ってやるよ!!」
再度、天使を殴り飛ばすが……ケロッとしている。
『無駄なんだよねぇぇ~~』
『あたし達、特に何かするわけじゃないの』
『罪人様達がこれから行う処刑をお伝えするだけだから!』
『あたし達が現れたその時点で刑は確定だよー!』
だが、梁河だけじゃなく。ザラマも冷静に見るだけではなく、試しにやってみる。天使を握り締め、"リアルヒート"で灼熱のダメージを与える。ガイゲルガー・フェルが葬った技だ。ザラマは直接触れ、魔術を発動して気付く。
「!」
『おじさんは熱を操作する能力だっけ?』
『それもダメだよー』
『だってあたし達にお熱なんてないもんねぇー!』
余裕を見せる天使達であるが、
「どうやらお前等は"科学"の何かか。何をやっても死なないというのなら、能力者を殺しても生きられるのか?」
『!』
決断した時のザラマの行動は半端ではない。天使達の出現からかなり分析をしていた。
「お前の能力は、設置型に属するタイプだ。本体は死なないように相手が罠に掛かるまで待つだけ」
『あ、あははは。でも、おじさんは罠に掛かってるんだよ』
『だっさー』
「そうか。それでもいい。テメェの刑は丸焼きだ」
ザラマは瞬間、全力で発動する。
「"王族墓地を守護する熱"」
梁河や周囲にいる人々達には熱を与えず、それ以外の地面の温度を灼熱に変える。姿が見えないインティやリア、春藍が喰らったら。まぁしゃーないかもしれないが……。なんとかしろよという表情を出すザラマ。
『ちょちょちょ!危ない!危ない!!』
「第二段の熔解と行くぞ。管理人、粕珠……お前しかいないだろう」
酷く。圧倒。
梁河の殴打が軽すぎるほどだ。ポセイドンが放ったミサイルを再現しようとしていたことを、梁河には分かった。
おそらく、粕珠も冷や汗を流しただろう。
巨城の一階から上を完全に破壊したポセイドンだが、下にある部分まで攻撃は届かなかった。ザラマの"リアルヒート"はその部分を強く焼き、空に浮かぶ黒雲を梁河がいる位置でもハッキリ見えるように、コンクリートでできた天井を焼き溶かした。天使は大丈夫でも、本体が無敵であるはずがない。刑が実行される前の攻撃だった。
『わわわ!危ない!』
『マジで止めて!お願い!!死んじゃうかも!!』
「うるせぇぞ、死ね」
「へ…………粕珠ってのはコソコソ隠れて潰す奴だったのか」
天使達の動揺から粕珠の様相を感じるザラマと梁河だったが、
「もう遅いべぇ」
「!」
「!」
「執行猶予は終了だべぇ」
2人の実力者が最後まで気付けなかった粕珠の気配。ザラマと梁河を含め、この場で50名以上の者達が天使達から伝えられた刑が実行されたのだ。刑が実行されればザラマも、"リアルヒート"を解除してしまうほどのダメージを負わされた。