青天井の目
2VS2。アレク+ロイ VS リア+梁河は終盤を迎えた。
20分という長丁場の戦いはリアと梁河のタフネスさと、アレクとロイの回避によるものだった。アレクは底が見えない強さを引き出し、リアが繰り出す兵器攻撃を回避し続ける。ロイも持ち前の身体能力で梁河の巨体を活かした攻撃を華麗に避けていた。
2人を倒す決定打が現れるよりも先に世界が悲鳴をあげた。
「うふ、うふふふふふ、お強いですわねぇぇぇ☆、ステキなおじ様ですわ☆」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「ちっ…………」
「おいおい、やばくねぇか?」
「退くしかないみたいだな」
「なぁにぃ!?せっかく、追い詰めてんだぞ!!あと少しであの機械美少女が俺の物に!!」
「誰が猿の玩具になるものですか」
「馬鹿だな……」
揺れがさらに増している。もうこのダグリオンは崩壊する。
「あの2人は異世界を移動できるあの腕輪を持っている。リアという女は堂々とつけているな」
「!」
「俺達は持っていない。残り時間であの2人を倒して奪い取るのは至難だ。それにネセリアと春藍も探す必要がある」
「うおっ!た、確かにやべぇ」
「まずはネセリアを見つけなければ全員逃げ切れない。あいつ等も手を退くことを考えてるだろうな、俺達を倒すより先にこの世界が終わるんだから」
ダメージは梁河とリアが沢山もらっていたが、二人の攻撃が直撃していれば逆もありえる。
戦闘好きのロイも状況が厳しいと判ればすぐに動いた。
「じゃあ、ネセリアちゃんを探すか。ついでに春藍と……妹というのも見てみたい!!」
「やれやれ……。じゃあ、春藍とネセリアと春藍の妹の回収を任せるぞ」
「任しとけ!!」
ピューーーーンッとこの戦場から立ち去ったロイ。一番速いからこそ頼まれた役目。
「じゃあ、退きましょうか。梁河」
「そうだな……。一旦、小さくならないと腕輪がつけられない」
リアと梁河もクールダウンをして、アレクから離れていく。ところがこの崩壊しかけている世界にやってきた1人の、アレク以上に歳を食っているおっさんは近づいた。
「!お前は…………」
「今の作戦はオカシイだろう」
「ザ、ザラマ!!テメェ、療養してろよ!!」
「あら。珍しい」
ガイゲルガー・フェルを倒してみせたザラマがいた。2人がクールダウンを始めたが、この3人なら……いや、さすがに時間が厳しいか。だが、ザラマにはアレクから聞けるくらいの時間があることがわかっていた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
「なぜ、お前は管理人を連れて来なかった?」
「…………そこにいた管理人達は弱いんだよな。お前等に殺されてたかもしれないしな」
「嘘だな。事情を説明したのかどうかすら怪しいな」
おかしな話だし、面子もおかしい。
ネセリアの"掃除媒体"ならラッシもクロネアも連れて来ることができたはず。確かに時間が掛かるだろうが、若達の目的が春藍慶介である以上。一日待っても平気だった。
アレクは打てる手を全て、打たなかった。それを高い分析力を持つザラマに見抜かれた。
「判らないな。お前の強さもそうだが…………。狙いがもっとも掴めない」
「……ふっ…………着いた世界が悪かっただけだ。まさか、ちょっと暴れたら壊れる世界だとは思わなかった。俺達の帰りは辿り着いた世界の管理人任せようと考えていたのにな」
「俺達が管理人を殺しているという可能性は考えてなかったのか?お前のような、頭が切れる奴は考えるだろ?(実際、殺す余裕がなかったが)」
…………………………
しばらく、無言。だが、3人が汗をダラダラと流してしまうほどに青く燃えているような、アレクの殺意の目。
「刺青野郎に言っておけ。春藍は絶対にお前に渡さない」
絶対に…………な。
その殺意は結構だが、……アレクの宣言は虚しく。まさかの春藍自ら若の方に向かっていった。だが、それが微妙な奇跡を生んだ。
「わ、若さん」
「な、なに!」
「僕はここで待ってるので……その。ネセリアにあの腕輪を渡してください。……ここの管理人に頼んでフォーワールドに戻る予定だったから」
「…………ったく、なんつー考え!!じゃー条件ね!」
というものの、条件を言うよりも先に実戦させる若。春藍に腕輪を填めて、起動。
「先にインティに会ってね!!」
「!!う、うん!」
春藍を黒リリスの一団のアジトに向かうように"ディスカバリーM"をセットし、飛ばした。若を来た道を引き返そうとしたが。意外にも向こうからやってきた。謡歌がネセリアを引っ張って……じゃなく、ネセリアは謡歌を止めようとしたい顔をしている。
「あ、若さん!お兄ちゃんは…………」
「……先に行かせちゃったよ。悪いね。これは俺達の問題なんだよ」
若は"ディスカバリーM"を、ご丁寧に四つ用意した。それもフォーワールド行き。
「四人だけだろ?つければフォーワールドに戻れるから、……今は戻りなよ。お兄さんはしばらく、こっちで預かる。あのおっさんにも言っておいて」
「あ、預かる…………?」
「僕の役目はそんなもんだよ」
ま、続きを楽しくやるだけさ。
「じゃ」
若も、ネセリアと謡歌の目の前で消えていった…………。
黒リリスの一団は春藍を連れ去る事に成功した……。だが、それになんの意味があるか多くの者達は知らない。本人だって知らないのだから……。




