ダグリオンの住民達と謡歌の反撃と、彼の決意
ドガガガガガ
"土方暮らし"ダグリオンは、一度春藍達が訪れた"銀座山脈"チヨダと似ている。チヨダはレンヴェル・ハウバスという魔物の中で鉱物を採取している世界。一方でダグリオンは建築の異世界だった。
カンカンカン
シメジメとした洞窟でできた異世界であり、誰も太陽という眩しさを知らない。そして、雨や雪といった天気も知らない。暑さも知らず、寒さも知らない。一定の気温で行われる土木作業。外の労働の大きな敵は天候であり、天候という概念がないこの世界はこういった業務がしやすかった。
主にダグリオンはモデルルームや建築技術の発展、日用品の開発、重要建造物の補修などなど……フォーワールド寄りの職人達が揃っている異世界であった。
ここで造られた建造物はダグリオンの管理人チーム。通称"6建"と呼ばれる6人チームにデータを売られる。
見澤
管理人ナンバー:976
スタイル:魔術
スタイル名:チェッカーポイント
詳細:指定した範囲内に指定された被害を発生させることができる。
関粋
管理人ナンバー:938
スタイル:超人
スタイル名:伝説大工職人
詳細:トンカチと釘を持つことで発動する条件型の超人。たった一人でデータ通りの家を作ることができる。規模の大きさによって所要時間が掛かるが、タワーや豪邸とかも1人で仕上げる。
青井
管理人ナンバー:944
スタイル:魔術
スタイル名:ネリー・ペンタクト・シミテクト
詳細:建造物だけに掛かる病を発生させる事ができる。病に冒された建造物は静かに朽ちて、白く静かに壊れる。生命体には影響がない。
私加
管理人ナンバー:982
スタイル:超人
スタイル名:積木の如く
詳細:空に投げた複数の鉄筋の棒が、綺麗に重なり合う。地上に突き刺さった時には建造物の骨組みが出来上がる。これを応用し、餃子の皮と中身を投げて落ちた時には餃子が出来上げる事も可能な、謎の芸当ができる超人。
ヘ~ヴェル
管理人ナンバー:903
スタイル:科学
スタイル名:NEWLY-MARRIED LIFE(愛した二人が住む家)
詳細:設計図型の科学。ヘ~ヴェルが造った設計図で作られた家に住んだ夫婦は長く幸せに住む事ができる。子宝にも恵まれやすい。
MUUSO
管理人ナンバー:963
スタイル:科学
スタイル名:クリーミー・パッケージ・アートジャスト
ホイップクリーム(食用)型の科学。MUUSOが造ったクリームは数分でコンクリートのように固まる。
この6名の管理人の手に渡り、異世界にいる大工職人や建築会社に売られる。マンションや一軒家のアイディア、並の技術では造れない高層ビルや防災に適した建造物はこのダグリオンの目玉。
リアが作り出した炎と爆撃をもらってもなお、形は崩れずに炎を広げなかった。問題は煙だ。洞窟という密閉された異世界では煙は凶悪。人間の足よりも速い煙に皆、苦しんだ。
「人材の確保を急ぐのだ!!」
「避難を優先させよ!」
「"黒リリスの一団"とは戦うな……って言われてるけど、ボロボロにやられて良いのかしら?」
彼等はタドマールのインビジブルがしたように、住民達の避難を急がせた。リア、梁河、ロイ、アレクと派手に暴れる戦闘集団がもうダグリオンの崩壊を確定させた。
建築技術がどうこうでなんとかなる状況ではない。
「我々の避難も…………誤ったら大変でしょう」
「うん。死ねば誰がここの住民達を護るのやらね……」
死者は多く出たが、救える者は救った管理人達。20分後にはダグリオンの管理人達も避難をした。4人の戦闘が長引いている。
「勘弁してよー!怖いのにさー。人も護るのは大変だよ」
「あ、あの若さん!」
「離れちゃ危ないから!洞窟が崩れ始めてる。ここの空洞以外は全て土とかでできているから、生き埋めされちゃうんだ」
若と謡歌は洞窟の崩壊に巻き込まれないように慎重に避難していた。"ディスカバリーM"で別の異世界に飛ぶアイディアもあるが、……春藍が取り残されてしまい、死んでしまったらパイスー達に何を言われるか分からない。
謡歌を守るのは彼とのトレードのためだけであり、それ以降は知らない。
「今、厄介な2人を止めてくれてるわけだし」
「……………」
今までずーっと大人しくしていた。話も聞いた。謡歌には詳しいことは分からない。春藍にも分からない。ただ、自分がこのまま大人しく捕まっているのはみんなに迷惑だというのが分かった。何人かが、自分を救いに来ていると分かったから。
ガブウゥッ
「いたーーーーーー!!」
「ううぅっ」
とても古典的な。謡歌は若の腕に噛み付いて、彼の手から離れて逃げ出した。
「うあああぁぁっ!!危ない!!超危ない!!謡歌、離れちゃダメーーーー!!」
「はっ、はっ」
若の言葉を無視してとにかく闇雲に走った。きっと、兄も来ていると思って。それを頼りに走った。兄だけを探して走った。
初めて異世界に来て、町が燃えるところも見て、怖かったなーって思えたのに……今。
ダアァァンッ
この世で一番の絶望した。って思ったんだ。
自分にも、兄にも見えた。とても似ている目がしっかりと合っていて、立ち止まったあたしと走り去った兄。
「お」
「わ、若さん!!」
あたしよりも。出会いたかったと、言いたげな顔をしていた。ここに来た全員を裏切るかのように兄、春藍慶介は妹の春藍謡歌を守ることよりも、若という男を選んだ。
ダキイィッ
「わわっ!危ないですよ!大丈夫ですか?春藍の妹さん」
「えっ……え?え?」
春藍謡歌には理解できない。何が起きたか分からない。兄ではなく、ネセリアに保護される形となり、春藍は若の方にいて…………ネセリアがちょっと怒った顔で春藍に向けていた。
「春藍!!アレクさんに怒られちゃうよ!!」
「おいおい、何がどーなってんの?」
「…………」
若も困惑していた。本当ならトレードだと思っていたのに、まさかターゲットの方から来るとは思わなかった。少しだけ無言を貫いた春藍だったが、
「い、妹は無事だろ…………。ネセリア」
「そ、そうだと思うけど」
「僕達はそのために来た。それだけなんだ…………。少しだけ。ズルイけど……その」
見てみたい物と、聞きたい物、知りたい物、話したい人、出会いたい人に
「会ってくるよ……けど、また戻るから」
今度は春藍が若の腕をとって、どこかへと走っていってしまった…………。
そんな姿を一度見た事がある妹の謡歌には、ショックだった。またどこかに行ってしまう。家を飛び出した時と同じ表情と決意を感じた。あんな顔は嫌いだよ。
「ホントに怒られても知らないよー、春藍」
ショックが大きい謡歌とは違い、ネセリアは暢気な表情と言葉を吐いていた。ダグリオンの終わりは近いというのに………