家族と友達と上司と後輩との順位
「うおおおぉぉぉーーーー!!大変ですぞーーー!!アレク!!」
「な、何事だ。ヒュール…………」
「ウチの職員が1人行方不明なんですぞ!!昨日の夕方から姿が分からなくなってしまったのですぞ!!」
ヒュールは朝まで春藍謡歌を探していたが、結局見つからないことで何かがあったと分かった。出勤しているのにまだタイムカードが切られていない。放送を何度もしても来ない。真面目な彼女がずーっと現れないのはおかしな事だ。友人でもあるアレクに朝一番で相談をしにいった。
「落ち着け」
「ゆ、誘拐や!もしくは…………」
「とにかく落ち着けよ」
ヒュールに対して、アレクはタバコを一本吸った。自分もヒュールも落ち着くようにした。
「タドマールの連中が攫った可能性もある」
「う、うむ」
「だが、俺には別の奴の仕業という展開も頭にある。タドマールの連中に紛れて全然違う奴等がここに来ている可能性もある。奇妙な視線も感じていたからな」
フォーワールドの科学力を持ってすれば姿の見えない人物を探すのは容易い。だが、それはフォーワールドにいてくれればの話だ。
「名前はなんて言うんだ?」
「は、春藍謡歌だ!君の部下にいる春藍慶介という奴がおるだろ、彼の妹ですぞ」
「!…………そういや、昨日。その名前を春藍から聞いたな。……ヒュール、お前はタドマールの連中を調べろ。だが、そこまで疑うな。疑えば関係にも影響する」
「わ、分かったですぞ」
「俺はこのことを春藍…………慶介に伝える。もしかしたら、向こうも知っているかもしれない」
よく考えれば"春藍"と呼んでいるため、下の名前で呼ぶのは違和感がある。アレクでも感じる。ぎこちなく慶介と呼んだ。
ヒュールと別れ、アレクは真っ直ぐに春藍の寮室へと向かった。春藍には自分やクロネア、ロイなどが傍にいたから難しいと判断したのだろう。だが、このやり方は自分が戦ったパイスーのやり方とは思えなかった。あーゆう連中は正面から堂々やってくるだろう。別の誰かの可能性もあると、アレクにはそれが不安であった。
「春藍、いるか………!」
「ア、アレクさん!!大変です!!」
「おう!そうだぞ!!よく分からないが、大変なんだぞ!!」
春藍の部屋には自分よりも先にロイがいた。そういえば、春藍とロイは一緒の部屋になっていた事を思い出した。
「よ、謡歌を攫ったって手紙が!!それと何か分からない腕輪も!!」
「こいつの妹が攫われたってよ!」
「お前が攫ってないだろうな?猿」
「しねぇーよ!!こんなしょっぱい事はしねぇーよ!!状況を考えろよ!!」
冗談で言っている感じではなかったアレク。ロイ達、タドマールの健全な男子ならやりかねない。
「手紙を貸してくれ」
「こ、これです」
春藍宛に若が書いた手紙を読んだアレク。春藍に腕輪をつけさせろと書かれている。"科学"ではないと理解でき、異世界に移動するような感じは腕輪を見れば分かった。装着することで自動的に発動するタイプならば、強敵と戦わずにターゲットを捕らえられるだろう。ターゲットは間違いなく春藍…………。
「……………」
黒リリスの一団全体で春藍を攫いたい理由をアレクは少し考えたが……………。
「俺がこれをつけて春藍の妹を連れ帰ってやろうか!」
「えぇっ!?ロ、ロイが!?危ないよ!」
「時間が経てば危ないぜ!!」
ロイが若の"ディスカバリーM"を装着しようとするところを見て、すぐに止めた。
「馬鹿止めろ!これを付けてフォーワールドに戻ってこられる保障はない」
「!!だ、誰が馬鹿だ!そんなことは分かってるが、管理人がなんとかしろよ!」
馬鹿のせいで危うく機会を潰すところだと思ったアレク。彼には一つ、策があった。
だが、その前に春藍に確認をとる。これから向かう先は確実に罠がある。春藍を捕まえるだけの戦力が向こう側にあると分かる。
「春藍。お前は妹を救出したいか?」
「!」
「例え、同じ血だとしても。もうお前と妹は大人だろう。妹が俺やライラ、ネセリアよりも大事か?救いに行く事は危険なんだぞ」
「それは……」
再会したのは何時以来か、答える事に数秒以上も掛かる。
「家族を捨ててここに来ただろう?」
「それは……。それは、……」
妹は嬉しい顔を出した。けど、自分はそこまで何も。感じられなかった。捨てた者に愛着があるわけないと、自分自身もアレクも感じている。
「ダ、ダメですか……?」
「………………ダメだ。俺はお前の上司で、俺はお前の父親をしていると思っているからだ。捨てた者は捨てたままにしろ」
危険な目にあわせたくないという、アレクの顔つきが春藍には怖かった。だが、アレクの言葉に初めてNOと言った気がした。
「あーーっ、もぅよー!なんだよ、テメェ等!!」
「ロイには関係のない事だ」
「俺には分からねぇーな!!攫われた子が春藍の家族だろがー、なんだろうが知らないが!!困ってるって思ったら助けるもんじゃねぇーの!?」
「!!」
フォーワールドの事など、春藍やアレクの事などまだ分からないロイの言葉に春藍は自分の決断を少しまた変える。怯えた声でアレクに伝える。
「よ、謡歌は…………ここに来たのは僕に会う事より、子供達に色々な事を教えに来たはずです」
「!」
「僕が、ここに来た時とは方法も状況も違った。だ、だけれど。僕の妹は僕と同じ気持ちでここに来たなら。あの時みたく、アレクさんは助けてくれる!僕も助ける…………ち、違いませんか?」
春藍の声には力がなかったが、言葉に力があった。アレクは少し考えて……。成長を感じ取って、
「……分かった」
「ほ、ほんとですか!」
「お前も妹もなんとかしよう。…………ロイも手伝ってくれ」
「おうよ!!……って、馬鹿かお前!この腕輪は一個しかねぇーーーぞ!!」
謡歌の救出にアレクもロイも協力してくれるのだが、肝心な"ディスカバリーM"は一個しかない。これでは3人の中で1人しか行けない。
「心配はいらない。こーゆう罠を回避できる"科学"の持ち主がいる。腕輪は春藍がつけろ。"科学"を馬鹿にするな」