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RELIS  作者: 孤独
”土方暮らし”ダグリオン編
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教育現場



世界はたった一つ。それはそうだ。

生まれて育った場所は、母さんや父さんに言い訳してもしょうがない。兄と違ってそこに立ち止まった。行きたい方向がまだその時、決まらなかった。当時、5歳なんだからしょうがない。言葉を喋れて下に誰かがついたというだけなんだ。

それだけだった。

兄がいない日常が幸せだったわけじゃない。ただ、いたから幸せというわけでもないだろう。ただ謡歌には兄の行動を見て知りえたことがあった。



希望や夢はただ待ってもやってこない。



希望とか夢は大きな事じゃない。心の中にある欲だ。歩みたいところに向かいたい。理由は何でも良い。楽しいから、楽だから、儲かるから、生活できるから、恥ずかしくないから。

兄がいなくなってから寂しさを知った。それから何日か経って、謡歌は帰り道で猫を見つけて抱き上げた。親はいるけど兄がいない。だけど、拾った猫には親もいないんだろう。そんな寂しさを共有できた気がして家に連れて帰った。親も息子がいなくなったことに寂しかったのか、猫を飼うのを許してくれた。

それから猫のことを好きになった。それだけの理由で猫好き。出会えて、持ち上げて、餌を食べさせて、一緒に過ごしてから好きになった。

兄は人に何かを伝えるのは苦手だ。兄が思っている狭くて決められた世界が嫌いと感じているのは同感できる。いつかチャンスがあればと思い、力を蓄えて……何万分の一以上の確率でやってきたチャンス。ただ、勉強してきたからチャンスなんだ。

自分を変えたいと思って兄と違い、妹も妹で。世界を変えてみたい。世界をもっと広げたい。



「こんにちはー!春藍謡歌先生でーす」



異世界があることを初めて知った。見た事もない服や、個性的な子供達。彼等を学ばせたいし、自分も彼等から学びたい。

先生がいて生徒がいる。生徒がいて先生がいる。



「わー!女の子の先生だー!」

「おっぱい大きーい」

「可愛いー!」

「猫耳いいなー」

「五月蝿いよー男子ー」

「むぅ……………」

「静かにして欲しい……」



大人と違って子供達は綺麗に不満を言い合っていた。元気で活発なタドマールの子供達と、内気で大人しいフォーワールドの子供達は全然違う。声の大きさがまず違う。喧嘩にならないように気をつけるようにヒュールに言われた。暴力では大人でも勝てない。

謡歌は50名の男女を1人で受け持つことになった。

先生というのは親と生活の次くらい、子供に影響を与える。友達と同じくらいだと謡歌は考えている。ただ知識を与えるだけでなく、理解と行動もしっかりと教えたい。


「おほん、改めまして。今日からあなた達を受け持つことになりました。春藍謡歌です。まだみんなと同じくらい戸惑いがあるけれど、先生として生徒達をちゃんとした道へと進ませたいと思っております」



教科書通りの教員は多くいる。それはフォーワールドの人間に浸透している宗教染みたものだった。間違いはなく、フォーワールドの子供の多くを救えるまともな指導という奴だ。だが、謡歌の指導は教科書を活かしながら自分なりのやり方で伝えていく。彼女の教えで良くなった子もいれば悪くなった子もいたが、誰一人として見捨てたりはしなかった。

人材育成の責任者であるヒュールは彼女のやり方が理解できると判断し、理解から価値に替わるかどうか試すためにこの重大な任務を与えた。別の人種が入ればフォーワールドの教科書はあまり上手くいかない。子供を育てるというだけでなく、新たな教科書作りという役目も密かに彼女に与えられていた。

教科書は世界を作り出す重要な一つだ。



「みんな、分からない事はきっと多いと思うから。先生は答えを出し続けようと思います。困った事があれば遠慮なく、声をかけてください」



謡歌は兄と違って言葉が上手に使える。


「それじゃあ、みんな。自己紹介を始めましょう!自分を紹介しないと何も始まらない。1分間あげるから、この場で何を伝えたいか考えてくださーい!」

「はーい!」

「私に指を刺された人が自己紹介するのよー」





謡歌やヒュールなどを含め、南の国からやってきた教員達は総勢24名。ロイ以上に他の文化と交流し、慎重に共有しあう。意志を尊重しながら、未来の教科書を作る。

人材育成に特化した人材達もまた成長する事となる。未来を見据えればアレクよりも責任重大だ。

初日の学校は自己紹介や交流だけで終わった。授業はまだ先。体育などはタドマールの師範代と共に行いたいというのもある。話すことと、友達を作る事から始める。……最初でこれは知識を優先するフォーワールドの教育からズレている。

遊ぶ事を大切とさせた。




「今必要なのは交流ですぞ。我々のやり方を子供に貫くというのは支配に値するのです」

「…………難しい事は分からないが、ともかく。俺達のガキの面倒もしっかりとやってくれるんだな。運動や戦闘をしねーと、ストレスが溜まるガキが多いから本当にありがたい」

「むふふ、ロイ殿。教育とは人生の一つに過ぎません。全てではないのですぞ。ただ、人生の一つくらい愉しめなければ生きていくのは辛いと感じるのは当然でしょう」



ヒュールの心は読めないが。



「管理人が思う教育とは離れていっております。全員が望んでおるわけではないですが、可能な限りは多くの子供達の希望を叶えるのが大人というものですぞ」



未熟者や子供達の喜びに共感しているようだっだ。何かが変わるということは、この徹底した管理のフォーワールドでは大きな変化だ。機械のように知識を与え続けただけでなく、久しぶりに人間に心を与えたような風景になっていた。

そんな日常が始まろうとしていた矢先のこと、…………。



春藍の部屋に一つの手紙と腕輪が置かれ、春藍謡歌が黒リリスの一団の若に誘拐されてしまったのだ。手紙の内容には『春藍慶介のみ、この腕輪を装着しろ』………であった。まだ始まったばかりの交流にいきなりのトラブルが発生した。



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