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RELIS  作者: 孤独
”土方暮らし”ダグリオン編
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春藍謡歌、登場


パァァン……………



タドマールが崩壊してから2週間が経過した。当初は不慣れな世界の流れもゆっくりと進み始めた。仕事をもらい、話し、時には理解しあい、理解できないところもあったけれど、人類は対話と共にして温かさを知る。閉鎖され、向こう側にいた人類達の共存は思った以上に良好だった。

ロイの尽力もあっただろう。彼が拳以外で初めて主張した。言葉とは薄いものだが、伝わったとき拳以上の影響力を知った。



パリィッ…………



居住地区の方も、タドマールの男達が持ち前のパワーを活かし、フォーワールドの技術者達が案と作業計画をしっかりと立てて運営してくれる。住宅を空に作るという絵空事だが、アレクが本当に総力を集めて実現させようとしていた。

また彼の表情はとても楽しそうだと、春藍には思って見えた。




パキィッ………………




まだ春藍達の知らない異世界に、クロネアやゼブラなどが交渉を持ちかけて食料の確保や資源の輸入をお願いしていた。管理人内でも意見が別れている今回の件。ある者は救うべきと答え、ある者は捨て置くべきと判断を出していた。保留という形のまま、タドマールの人間達は生存と仕事、生活を得る事ができた。



「お兄ちゃーーん!!」

「?」


タドマール出身の子供達はフォーワールドの人材育成プログラムを受けることになった。恵まれた身体に良き知識を与えるべきと、ヒュールの意見を採用した。家族連れでも勉強に参加するように工夫を凝らしていた。また、タドマールから避難した武術の師範代達から、武道を取り入れてみたいと異世界の技術交流に意欲も示していた。



「え?」

「久しぶり!お兄ちゃんだよね?」



変わっていく中心にいる春藍の前に現れた、自分と同じくらい小柄で自分よりも子供の体をしている猫耳がつけられたフードを被った少女。猫のぬいぐるみを持って、久しぶりと言ってくれる少女の顔を見てやや考えてから自信なく、尋ねる声を出した。



「よ、謡歌ようか?」

「うん!慶介……お兄ちゃんだよね!」



嬉しさはそんなになかった。あまりにも唐突過ぎてポカーンとした空いた兄の口が、謡歌にとってはちょっと残念だった。血が繫がっていても、心まで共有するわけじゃない。

兄の春藍は逃げ出して、妹の自分は残っていた。どっちが正しいか分からないけど、春藍にとってはそこは生まれた土地なだけであり、本当に命を育てた場所ではない。だから、妹ほどではないのだ。



「ほ、本当に謡歌なのか………?け、けど、どうしてここに?」



南の国で過ごしているはずの妹が、この西の国にある技術開発局にやって来た事に疑問を出した春藍。


「私はどこからかやってきたか分からない人達の中にいる子供達の、教育係として選ばれたの。お兄ちゃんの名前も出てたし、ヒュール様からの推薦もあったし」

「そうなんだ。謡歌がタドマールの子供達の教育係を……」


ということは自分が家を出てから猛烈な勉強を行って、相当な地位と力をつけたのだろう。自分には人に何かを教えるというのは苦手で、押し付けているような感じがして、向いていなかった。

妹はどう感じていたか、思い出せないが。思い出せないがここにやってきた事は感じたものはあったのかと分かった。

兄妹だけれど、容姿以外はロクに似ていない。



「頑張れよ、謡歌。僕も僕で頑張っているんだ」

「うん!」

「猫…………好きなんだな?」

「うん!」

「今度、謡歌が好きそうな服を作ってあげるよ」

「ホント!?ありがと!!」



多くの人間は誰かに使命を授けられている。謡歌は間違いなくそれだ。

春藍が想像したとおり、彼女も立派な教育者としての人材になっている。わずかな人数しか気付いていない、人類の歩みがフォーワールドから始まる。馬鹿ではないが、事の重大さを理解しきれていない多くの人材。

異世界の人間との交友どころじゃない、今のフォーワールドの状況。果たして上手く行くのか。久しぶりに出会えて、春藍は一度捨てた物の価値観に気付けた。仲間と家族は違うけど、



「それじゃあ、行くね」

「うん。また会って話そうね」


妹はきっと、この会う瞬間まで。文通でしかコミュニケーションをとらなかった自分の事を心配に思っていたんだ。心配されて初めて重さを知れた。

少し、辿り着いた場所を間違えていたら愚かだった。とても愚かだ。


軽やかに仕事場に向かう謡歌の背を春藍は見ていた。とても嬉しそうだ。自分と一緒にいた時はあんな歩き方をする子だったか?

教えることの楽しさというのもあるのかもと思って、今度。時間が空いた時に話したいことを決めておこうと思う。




「……っと、僕は何をしてるんだ…………」




パリパリ…………



復興の光景と、感動も何もない。妹との再会の風景を先ほどお店で購入したポテチをつまみながら双眼鏡で春藍を覗いている男がいた。



「うんまぁ…………。このポテチ、美味しいー」



管理人ではない。だが、異世界を本当に自由自在に移動できる魔術を持っている、黒リリスの一団の一員。若は春藍を監視していた。



「こうも春藍くんを見つめていると、リアが惚れちゃう気持ちも分かるもんだねー。さっきの可愛い猫の女の子と大差ない可愛い顔、純粋で無自覚のど助平と来たら」



パララララ……ガシィガシィ……



「菓子食ってる場合ふぇーねよ」



若は紳士的で優しくて、丁寧で、慎重で、冷静である。単なる自己評価でもある。他の連中と比べれば弱いので実力行使はしない。春藍という可愛い小動物でも冷静に覗いて観察する。



「ねー、あそこにいる人はなんなのかしらー?」

「さー?変態じゃないのか?」

「通報しましょうか?」



さすがに町を双眼鏡で見ている人を見かけたら、周りに変態と思われる。だが、若は動じない。春藍の観察を続ける。というか、度胸がない…………。

勝てない連中が多すぎる。特に春藍と一緒にいる確率が多いこの男。



「!!っと…………なんだよ、あの白衣のおっさん!!」



結構離れているというのに正確に睨んだ。思わず、視線を外してしゃがみこむ。不思議に思うが、男ばかり見てるな。自分。


「ビックリして視線を外しちゃった。いやー、ビックリした。パイスーが認めるだけある、あのおっさんは只者じゃないな」



頭を抱えるほど、チョクチョク双眼鏡からの視線を感じ取るアレクが強敵だ。ライラの姿が見えないとはいえ、ロイやラッシ、クロネアなどの姿も映る。



「怒ったリアを諫めるためとパイスーに送るプレゼントを連れて来るのも命懸けだねー」



若は一旦、作戦を考える……。幸いなのはアレクもラッシ達も、若の存在に構っていられない事だった。



「どうしました?アレクさん」

「いや……なんか、分からないが視線を感じてな」

「アレクさんは立派でカッコイイ男ですからファンがいても仕方がないですよ!」

「たぶん、俺じゃねぇと思うが…………」



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