人類への問い。生産と消費
"闘技島"タドマールの崩壊。
そこにいた者達は管理人に言われなくても分かっていた事だった。異世界に避難した時点で分かっていた。だけれど、インビジブルという心の支えを含め、帰郷を望んだ。右も左も分からない世界で導く者もいない、握っている札束も無価値に近い。
「か、帰らせてくれ!!」
「そうです!タドマールに戻してください!」
フォーワールドへ避難してきた住民はおよそ4万人。生き延びたとはいえ、本当にこれから何をすれば良いか分からない上、友達や家族を失った者達だっていた。
とりあえずの食事配布と治療はここで行えたが、肝心な居住する土地が用意できない。どこも研究施設などで埋まっている。
4万人の人類をどう確保するか、フォーワールドの管理人達5名と技術開発局主任のアレク。それからこの事例に関わった春藍、ネセリア、ロイ。さらにはフォーワールドにある各国の主要拠点の重要人物達が集まり、合計12名の会議が始まった。
「この世界で4万人の受け入れとは絶望的なものだ」
フォーワールドの南の国。
そこは春藍とネセリアが生まれた国である。本来、生まれたらそこでの環境に適応し、社会に溶け込まなければいけない。
「天下のアレク様といえど、今回はいささか事が大きいですぞ」
南の国の人間代表、ヒュール・バルト。東の国の人間代表、広東。北の国の人間代表、山佐。そして、西の国の人間代表はアレク・サンドリュー。
四つある国の主要達が集まったのは史上初めての事だった。
「考えはあるのでしょうか?あたし、広東は記憶力だけが取り得ですよ」
「居住地帯を造るのは土地の限界というものだよ」
叔母様というイメージがある広東と、こんな会議でも青色のつなぎ(会社のユニフォーム)でいる山佐。
「ネセリアのような異空間がある科学に閉じ込めるというのはどうだろう?」
「人類の健康とストレス的によくないです、ゼブラ。閉じ込める発想というのも酷いかと」
「今井の言うとおりだ。長期化すると余計に大変な事になる」
クロネアとラッシの影に隠れるが、3人共3桁の管理人ナンバーを持つゼブラ、今井、麒麟も知恵を出す。だが、管理人である彼等でもいきなり4万人の住民を預けられるわけがない。
「ふむ」
「ちっ……手なんてあるかよ」
クロネアは無言で、ラッシは苛立ちながら奴の方を見た。この状況を作り出した奴とは言えないが、ある意味この事件の最高責任者。アレクの判断を待っていた。
その事には春藍もネセリアも分かっていた。
パチンッ
「ふーっ…………」
タバコを一本吸いながら、頭の中で策を練り上げる。嫌にムカつくとラッシとヒュールは思っていた。だが、こいつの頭のキレ方は異常であり、頼りになる。こいつがフォーワールドから飛び出しただけでこの世界は大混乱を引き起こすのだ。
「仮設住宅を設けよう」
「だからテメェ!!どこにそれを作るんだよ!!」
「そうですぞ!土地は探してもないですぞ!!無償で土地を譲ってもらえるところなんかないですぞ!!」
言い方が悪いのかと思ったが、ラッシとヒュールの2人がツッコみが速すぎる。
「土地は確かにない。だが、空はどうだ?」
「は?」
「技術開発局総出で、空中に浮かぶ住宅地を作る。空に4万人の人間を暮らせる環境を作ろう」
「はぁぁーーーーーーーーー!!?」
4万人の住民を住まわせるというだけでも大変で嘘みたいな出来事であるのに、そいつ等を空に住まわせるという異端を超えて、馬鹿じゃねぇのと言ってやりたい発想。
「た、確かに空に住宅街を作れれば…………」
「健康面や共有する面においても、異空間より理想で良いと思います」
「問題なのはそれができるのか?アレク……ってとこだ」
「ア、アレクさん。空に人なんて住めるのでしょうか?」
発想だけなら一人前の馬鹿である。誰も信じようとしない。全員を納得させる必要はないと思ってアレクは自分の経験を言う。半数以上は知っていたり、経験しているはずだから言ってみた。
「俺が5つ以上の異世界を回った内の一つの世界でだが、そこは海の中で人類の活動ができた世界があった。全て"科学"の力だ」
「!!」
「あ、マリンブルーのことですね!」
「"科学"の力を持ってすれば空に町を作ることくらいできる!」
知らない人間もいる。ロイなんかは信じられないって顔でアレクを見ていた。だが、クロネアやラッシ達は当然。ポセイドンのマリンブルーを知っている。
「あれができるから、お前ができるとは限らないぞ」
「じゃあどうする、ラッシ?お前には案がないだろ。殺す以外にな」
「あーー。うぜぇな、お前」
ラッシからは言う事なし。やってみろじゃなく、やってくれって顔になった。一方でクロネアは別の意味を持ってアレクに訊いた。
「それが完成するには何日掛かる?」
「クロネア……………」
できると言った以上。それができなきゃいけないぞっとプレッシャーをかけてくる、クロネア。アレクはどうすればいいか計算も理論も確立していない。だけれど、
「一月でまず、1000人は入れる住宅地を造り上げる。あとは人海戦術で2ヶ月。……3ヶ月には全員が住める状況にする」
「……3ヶ月か…………。うん。では、管理人と他国の代表者達には住民達の健康や人権、一時的な生活ができる財源を用意する話をしよう」
「うーぅ、……いきなし4万人だからバランスを崩しそうですぞ」
「肉体派が多いなら配送を専門とする俺のところでも見てみたいな」
「食料は今より輸入しないと全員腹ペコになりましょう」
住宅だけではない。これから受け入れができるよう準備を整えるのは数々の難題がある。タドマールの代表として、ロイがこの場に出席しているが手厚く対処してもらえるのに自分達に何ができるか検討もつかない。右も左も不思議な科学ばかりのこの異世界。自分だって思うように過ごせるか分からない。
「ロイさん」
「お、おう!」
「あなたには住民達の健康管理と、法律の理解、食事制限……などなど。総じて、タドマールの住民の安全を最優先に見てください。私達ではどうにもできない」
「分かった」
「ストレスで死ぬ人もいます。医療面でもどこまでやれるか分かりません」
トップ会談は2時間ほどで終わった。
各国の代表、管理人達はとてつもない重大な責務と任務が与えられた。報酬は特になし。クロネアはこの場では言わなかったが、異世界からの移動よりも重い、転居は死刑にも等しい。パイスーの襲撃というどうしようもない出来事だったとはいえども、受け入れる側にはとんでもない被害だ。こちらも巻きこまれて世界の運営ができなくなる。
「……大丈夫なんでしょうか?タドマールのみなさん、………」
「うーーん。僕達には分からないよね」
この場では凡人(いつも凡人)である春藍とネセリアには責務も任務も与えられていない。ただ関わったという事での会議の参加。特に意見は出せず、相変わらずアレクの補佐に回ることになった。
「空に住宅を作るって発想は本当にできるのかな?」
「私はアレクさんならやってくれると思ってるよー。理論や理屈は分からないですが」
「言葉だけの人じゃないよね」
他の現時点での主な状況として。
ライラはタドマールの住民を避難させるため、数百人ほど異世界に移送させた。桂はライラの回収へと向かった。
2人共当分、自由には動けないようだ。
アーライアの問題のどうのこうも進展できない。そして、春藍にもアレクにも見えたことだが、異世界と異世界が交じり合う事は問題が起きた。向こうでの法律や生活とこちらの法律と生活は全然違う。言い争いや時には食事や居住などの問題で口喧嘩も起きた。暴力までも発生した。それだけみんなが困り、迷い、不安を抱いていた。
人類はまだ共有できるような状況ではない。救った後の世界が必ずしも幸せになれるとは限らない、その人次第、その後の世界次第でしかない。
フォーワールド側はアレク、タドマール側はロイが相談窓口となって改善を取り組んでいるが、血の気の多く、大雑把な人間が多いタドマール側と、控え目であるが多忙で正確な仕事を毎日のようにこなす人間が多いフォーワールド側では溝は大きかった。
春藍やアレク達が住んでいる独身寮に今、3人以上も同時に住んでいる状況。これも仕事の内とアレクは説明したが、24時間も仕事なんてできるわけがない。口には出せないが、アレクに多くの不満がいった。
「あーーっ、それはここだよ」
「そ、そうなのか。すまん」
「データの打ち込みは……あれ?ちょっとこれは違うよー」
「な、なんだと!俺は言われた通りにしたぞ!!」
人材不足の仕事をタドマールの成人達に斡旋した。だが、フォーワールドの強力な人材育成プログラムを受けている者達と受けていない者達の差は確かな差があった。学力という点はとくに酷く、簡単な四則演算もできない者だっていた。科学がご操作で破壊したのもあった。
環境に提供できないことはどちらにもストレスを溜めた。
争いが起こればどう考えても戦いに特化した道を歩んでいるタドマールの人間の方が勝つ、一方でこの世界を回すために行う仕事ではフォーワールドの人間が有能である。適応するまで我慢ができるだろうか?お互いの良いところだけがでるだろうか?