タドマールの最期……
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
再び、巨大な揺れがタドマールを襲った。
まだ住民の避難は完全に終わっていない。
山が崩れ、海は荒れ、島は外からも内からも崩れていく。
「ロイ」
全員がダメだと分かった。これはもうどうしようもない事実になる。インビジブルは自分の意志をロイに託す。男として、弟子として、圧倒的な強さの差を目の前にしても男を貫けるインビジブルの戦い様を目に焼き付けた。
「君もこの世界に出るんだ」
「!!インビジブル師範!それは俺が拒否します!!師範と共に、この世界を支えた俺が逃げて何の意味があります!インビジブル師範こそ、1人でも異世界へお逃げになってください!そこでまた、俺に男を磨かせてください!!」
「管理人は面倒な生き物だと言っただろう」
「俺は男!!面倒な生き物だって思っています!」
ここで逃げるという選択がとれればいいが、それは自分としても悔いしか残らない。また、問題児として決められているのは性格だけではなく、"無敵艦隊"の能力にある。無限に自分自身を生産できるインビジブルの能力は管理人側からも危険な存在としてマークされている。
パイスーから上手く逃げ延びたとしても、その先で管理を行えるとは思えない。ポセイドンがまず手を下し、親友兼恋人の桂でもインビジブルを護ることは難しいだろう。
後ろ盾がない状態で同じ管理人との全面戦争のような事態になりかねない。"黒リリスの一団"の問題が終わり次第、処分は言い渡せるだろう。
ゴガアアアァァッ
「ホントに良いのか?」
強烈な音と衝撃がロイの体に起こった。"雷光業火"を持つ、桂の奇襲がロイに炸裂して一瞬で気絶させた。ロイを持ち上げ、最後にやはり確認する。
「拙者も手を貸す。男の戦いと言っていられる奴ではないのは理解できたはずだ」
「ふっ…………桂ちゃんは青いな。アホと思ってくれるな」
人間だったら望んじゃいない。決して望まない事だ。インビジブルの本心も嫌だって言っている。まだだけど、また、女とヤリたい。だが、問題を持つが管理人としての意見を出した。
「人類が進化するのか、変わるのか分からない。だが、小さくとも先へ進んだ」
「!」
「これから先で何が起こるか分かるか?……その時には管理人はいなくなるだろう」
「…………………」
「ふっ…………俺達に寿命はないが、役目の終わりがある」
ちょっと早いし、役目だってこなせていないだろう。だが、役目というのは曖昧だから目に見える敵と戦うことに集中する。
役目が終わってからの処分はゴミそのものだ。
「俺は桂ちゃんとは夜だけ、戦いたいよ」
「余計な事は言うな」
「ああ、そうだ。余計だった」
苦笑するインビジブルもそろそろ戦いに向かうため、前へと進んだ。
「ロイを頼む。キッチリと鍛えてやった俺の弟子だ。きっと、人類のためになる男だ」
「任せてくれ。丁度、ライラが出来の良い"超人"を探していたんだ」
パイスーをここで討つのが管理人の務め。だが、彼が持ってくる強大な流れは間違いなく新時代の到来だ。管理人を支配者と勘違いしてしまう輩もいるが、それは違う。管理人は人類を保護するため、製造されたのは人類の絶滅を防ぐためだ。
パイスーを殺さなければいけないのは確かだ。もし、彼が管理世界を開放する事態になってしまったら、あの戦闘狂は全世界を滅ぼし、人類が破滅する。それこそがある意味、彼が求めている最強という形なのかもしれない。
彼じゃダメだと管理人達は分かっているのだ。
「負けるな、インビジブル」
「ああ」
桂も、ロイを連れてこの世界を去る……。残った住民と数多くいるインビジブル達。そして、パイスー。
島も半壊した。インビジブルの"無敵艦隊"は広大なフィールドでは圧倒的な強さを有するが、行動範囲が狭くなる室内などでは本来の力は活かせない。島(世界)をぶっ壊すという発想はパイスーの力量を持って可能なだけであり、インビジブルのミスはなかった。
「海上は苦手じゃないが、綺麗な肌には良くない」
「逃げ場を少なくするとは」
「逃げ場?おいおい、お前は俺か?」
「戦うだけしかない。本当の戦闘なんだよ」
インビジブルは生殖と共に強くなれる。しかし、パイスーも多く長い戦いによってさらに強さを増した。持久戦に強いインビジブルを相手に、挑み続けられる精神力とスタミナは恐ろしい。
パイスーはまた強くなってしまうだろう。
だが、インビジブルに勝てたらの話。
「あーーーーー」
「はーーーーー」
3人ほどのインビジブルが両耳を押さえ、苦しみの顔を出す。腹や頭、右腕からどんどん生殖に生殖を重ね続ける。
「頃合か」
「犠牲を受け入れるしかない」
「タドマールの戦士として」
「敗北はない」
他のインビジブル達もそれに続いて異常な生殖動作を起こす。自分をガンガンと生み出していく。速度が計り知れない……分離せず、数と大きさだけがドンドン増えていく。本来ならば生まれる者に送られる記憶や経験すらも渡さない。
「"世界を紡ぐ性樹隊"(イヴ・ア・クリスマス)」
切り札は隠し持つもの。だが、それはレベルの低い者達のやり方だとインビジブルの戦闘理論で言える。彼の切り札はあまりに強すぎるという枠ではなく、止められない生産と破壊であるため使えないからだ。インビジブルの強さは粕珠やゼオンハート等よりも凌ぐ。もし、桂がこの世界にいたのであれば道連れにしたかもしれない。
本来ならば懲戒免職や死刑に等しい雑な人間管理を免れているのは、いざという時の必要な戦力だからだ。
「あひゃひゃひゃひゃ!!なんだなんだ!!?」
絶対に倒せない男。それがインビジブルという男だ。それをパイスーは思い知る。
「ああぁっ………」
生まれてくるインビジブルは意識がはっきりしない。産むだけの存在と理解している。戦っているパイスーのことも、弟子のロイのことも、自分が管理人である事も理解できない。
ただ少しだけ。ほんの少しだけ。
多くのインビジブルが使える頭の容量で遺書を描いた。
『まだあと、4000億年は女とヤッていたかった』
『女って最高だぜ、たまんねぇぜ』
『死ぬわけにはいかねぇーぜ。負けるわけにはいかねぇーぜ』
『愛も良かったが、一つだけに時めく恋もしたかったな』
ブチィブチィとケーブルが切れていくように下にいるインビジブル達は、自分達の新たな生命を誕生させる重さで潰れていく。それで絶命する。だが、能力はそこまで失われずに心を持たない重さを持った存在を産み続けた、速度は止まらない。ブクブクと生まれ行く。
「ちょ、おまっ」
全力を出し切っているパイスーが動きを止めてしまう。"キング"やら超人技でどうにかできるレベルを超えている。速過ぎる多すぎる、でか過ぎる。
「て、テメェ!!この世界を自分で埋め尽くす気か!!?」
インビジブルも狂っている。"無敵艦隊"を活かした最強の技は異世界を自分だけで埋め尽くし、破壊させるという自分も全滅必死の戦法。負けはないため、パイスーを倒すためにとった。
「クソがぁぁっ!絶対にぶっ倒すぞ!!」
フルパワーでパイスーは増え続けるインビジブルを殺したり、散らした。強さではパイスーが上だった。
メキョメキョ
「!!」
だが、インビジブルの"無敵艦隊"は死体となった存在からも、生命とはいえない物を生み出し始めていたのをパイスーは確認した。大きさはないが、同じくらいのサイズをどんどん生み出す。
「くっ」
おそらく、自分より大きいのは生まれない。だが、塵みたい細かく刻んだとしても塵がどんどん増えていく。皮膚なら皮膚を産み、血は血を産む。パイスーは焼却や冷却をしても、おそらくこの生産を止められないと悟るのに時間が掛からなかった。
どうやって止まるかは…………パイスーの経験でも分からない。
"無敵"
「ホントによぉぉ、そーゆう名がつくだけの力だな」
埋めに埋もれるタドマール。海に埋もれるインビジブル、半壊の島にインビジブル、山よりインビジブル。パイスーの足場となったインビジブル。世界全体が彼となった……。
「倒し甲斐がまだあるぜ……」
気が済むまで。パイスーも彼の生産に付き合った。無敵という名を冠する相手に勝たなければ、パイスーが求める最強にたどりつけない。もっとも、パイスーにとっては無敵と最強の違いが分かっている。インビジブルにも分かっているだろう。
バギイイイィィッ
「さーーっ!!ぶっ殺すぜぇぇーー!!!無敵艦隊!インビジブル!!」
この日。
長い長い戦闘を経て。"闘技島"タドマールは崩壊したのだった。それまであった日常があっという間に終わった。
多くの被害と多くの問題をまた生み出した。