光臨する者。その時、世界が震えた。
「やべぇよ」
闘技場の観客席の誰かが言った。予選の時から異常だった。目の前で英雄であり、チャンピオンであるロイが敗れたこと。パイスーという住んでいる世界が違う超人、奇妙なライターを操ってロイを火葬し、大会のルールや日程を無視して仕掛けてくるアレク。
「身があぶねぇよーーーー!!!」
「逃げろーーー!!」
「きゃーーーーー!!」
観客はバタつく。焦る。華麗な勝負を見に来たわけだが、自分達の命や身体の危機を体験しに来たわけではない。絶対に違う。違うぞ!!観客達も超人の端くれであり、ダッシュで逃げ出す。
「アレクさん!!パイスー!!」
「春藍!!ネセリア!!あたしに捕まってなさい!」
結果、ぶつかってしまったこの組み合わせに春藍は戸惑っていた。だが、ライラには分かっていた。なんとなくだけど。春藍とネセリアよりも、アレクの気持ちが分かったから。この戦いが始まった瞬間には"ピサロ"を使い、闘技場の観客席から空へと逃げた。
「ええぇっ!?ライラ!!止めてよ!!2人を止めてよ!!」
「できるわけないでしょ!今のあいつ等に言葉は通じないわよ!それに……」
アレクに代わって春藍の頭を引っ叩くライラ。
「アレクはあんたの上司でしょ!心配すんのも、応援するのもアレクしかいないでしょ!」
「う、………う、う………」
ここで春藍は言葉も頷きもできなかった。見たくはないし、決められなかった。最初に戻ったような気分だけど。この世には選ぶ事ができないこともあると分かった。理解できた。
そして、ライラはアレクの戦い方と強さを見て感じた。最初の時から薄々感じてたが、
「それよりなんなのよ。あいつは…………」
それしか言葉が出ない。ロイを倒した時、まだ見た事がない強さを見せつけた。今のアレクもライラの予想を上回るのが理解できる。
ただ………………。本当に残念で残酷だと理解している事がある。パイスーの強さはとにかく狂っている。アレクがどれだけ余力を隠していても、強さでは上回れない。
ガゴオオオオォォォ
「と、闘技場が…………」
「燃える……壊れる…………」
「俺達の場所が……」
パイスーとアレクの手加減がない戦いは闘技場をボロボロにさせた。特にアレクはパイスーとインティが戦っている間に闘技場内に自分の"焔具象機器"をいくつもセットしていた。それを全て同時に起動し、一気に全てを燃やし尽くす。
観客や住民、予選で負けた戦士達が悲しみしかできないほど、酷い燃やし方をした。濃く発生する黒煙は誰にもその戦いを映さない。中で行われている戦いにお客様は入ることができない。いや、死にたいなら入っても大丈夫であるが、両者の実力と精神の異端ぶりには震える。
ガジャアアァァッ
4分後には全ての観客は逃げ出すことに成功した。同時に闘技場は半壊かつ全焼。インビジブルとロイの城にも火の手が回った。早めに炎を消さないと対処ができなくなるほどだ。
この世界の住民の誰もが闘技場の心配と、自分達の心配した。明日はやってくるだろうか?
「!!」
「あ…………」
黒煙が上がってよくは見えなかったが、空から様子を探っていたライラ達には異変が分かった。炎がもう上がらない。爆発が上がらない……。黒煙が徐々に薄くなっていく。
目はそんなに良くないが。春藍とネセリア、ライラの3人が何も考えられないという目をする光景だけは色だけで分かった。闘技場でも白衣を着て戦うおじさん、アレクの身体は腹を貫手で貫かれ、意識を失いぐったりとした顔をしていた。
「お前の強さがわかんねぇなー」
パイスーは尋ねるも、もうアレクが意識を失ったとなってはそれを調べる事はできないだろう。
「確かに強ぇよ。全力を出せてなくても、俺の戦歴で2番目には入る強い人間だ。あいつの次はマジですげーぜ」
シュパァッ…………
アレクの血がどっぺりとついたパイスーの右腕。未だに不思議な顔でアレクを見ているパイスー。
「!」
インティと似ている加速力で二人に向かう男。対応してやろうとパイスーの身体は動いたが、向かってくる奴はアレクに意識がいっていた。素早くアレクを連れ去った。
ダァァンッ
「て、テメェなんか救いたくねぇーからな!!インビジブル師範の命令だからな!!」
これはできるなら、ライラやネセリアだったら超嬉しいのだがと思っているロイ。なんでおっさんを救わなきゃならない。パイスーが見過ごしてくれるとはラッキーな事だった。
アレクを助けられる病院まで一気に走るロイ。
「……………………」
パイスーは追おうと思えば二人を殺害できた。強い奴との戦いは好きだが、アレクもロイも人間であることが自慢の豪腕を止めた。春藍の気持ちも考えるなら、自分がアレクを殺せば二度と会わせてくれないだろう。
一番の目的はやはり……
「管理人をぶっ殺すことが先だよなー」
「おめでとう、パイスー。君が俺と戦う権利がある。だが、勝利はない。決して…………」
パチパチと拍手をし、ついに戦う意志と構えを見せるインビジブルがロイの元へ行かせないと立ちはだかった。
「どうする?休憩でもするかい?俺は構わないよ」
「いらねぇーな、こっちはルール通り、日曜日まで待った。もう待てねぇーな」
「君は野獣だが、俺もそっちの方が興奮するマゾだよ。恋はもっと燃え上がると肉体が躍動する」
これが月光祭の最終戦となった。パイスー VS インビジブル。
あの性欲の固まりで、日ごろは女性ばかりを攫ったり、○○たりしているインビジブルが戦うことがどれだけ異常か。年間異世界から女性を攫って玩具する数は10万人にも及び、最低1日。四人と○○らないと○ニスが苦しみだすという。ちなみに管理人にはペ○○は本来ない、人工的につけてもらっただけに過ぎず、子供は生まれる事はない。
なんでこんな奴が管理人として特別扱いを受けるか……誰もが認めるイケメンというのも分かるが、何より優れているのが単純な戦闘力の高さを買われているからだ。
ダアァァンッ
一方、ロイはアレクを抱え、闘技場を出てから山の方へと走っていた。
「はぁっはぁっ、くそ重いな。このおっさんは!!」
優れた速度だが、持久力がない。町の医者ではアテにならない。山の修行場にいる医者の方が腕が良い事を知っているロイ。
そのロイの前に降りて来たのは春藍達だった。
「ロイ!!アレクをこっちに貸しなさい!!」
「な、なんだ!?お前等!!なんで雲の上に…………」
「早く!!僕が治療するんだ!!」
「急いでください!!」
3人に急かされ、どうにでもしろよという形でアレクを春藍達に渡した。すぐさま春藍は決死の顔でアレクを治療する。
「死なないでアレクさん。あなたは僕の、僕の師ですから!」
「!」
春藍の賢明な治療が行われる。ネセリアもまたそれを心配そうにしているしかできなかった。だが、ライラは闘技場の方で何かの異変を感じ取り、ロイに尋ねた。
「……今、誰が戦っているの?」
「聞いて驚くなよ。"無敵艦隊"インビジブル師範が戦ってるんだ」
「言われても分からないわよ」
「く」
だが、壮大なオーラを感じ取れる。また、インビジブルが戦っていることに気付いた住民達の歓喜の声も上がった。
「ついにインビジブル様が戦いに…………」
「インビジブル様ーー!!この世界を守ってください!!」
管理人の役割としてはクソ性能であるインビジブルだが、ここの住民達から男女問わず絶大な人気があり、信頼されている。最高の男だ。
戦場に光臨しただけで戦いの恐怖と別の、英雄のような光を感じている。タドマール全体が良い意味で、震える出来事だ。
「…………負けるわけがねぇ、インビジブル師範が負けるなんてありえねぇ」
「……それでも勝負は分からないものよ」
「このおっさんを二人に任せて良いなら、俺も自由にさせてもらうぞ」
ロイはすぐさま闘技場の方へと向かった。聖域に等しい1対1。男のタイマンだ、加勢に入るわけじゃない。男として、弟子として。師が戦う姿を見るためにロイは向かったのだ。




