アレク・サンドリュー VS ロイ
「すごーーい!!アレクさん達!!すごい強いよ!!!」
「お、落ち着きなさい春藍……」
3人の活躍に立ち上がって喜ぶ春藍。それを母親のように落ち着かせるライラ。男なら楽しめるところだが、女のネセリアは少し複雑な顔をして見ていた。
「負けた人達、痛そうです。ライラ…………」
「…………つ、辛かったら止める?」
「い、いえ。アレクさんが頑張ってるのに私だけ、そんなことはできないです」
ネセリアは堪えてみる。次は、アレクさんが自分のために戦うと決めた相手だ。
「ロイって人。力もスピードも凄かったです。弱い私でも分かります」
「!……………」
「アレクさん。勝てるのかな……?」
「勝つわよ。ロイにネセリアを絶対に渡さないって、アレクは思っているはずよ」
ネセリアの言葉よりも前からロイの強さを知っているライラ。多少向き合えば強さというのは分かる。アレクが想像以上に強いのにはちょっと驚いているけど、ロイの強さは今のアレクに匹敵する。この広いようで障害物のない戦場はハッキリ言って、身体能力がずば抜けてる"超人"が有利だ。連戦の疲労はなくても、……………。間違いなく、強敵。
「タバコを落とせ」
「あ?」
「それが今回限りのスタート合図だ。俺は貴様の好きなタイミングでいいぜ。なにせ、俺の方が格上でイケメンだからな」
余裕と慢心をさらけ出すロイ。アレクはタバコに手をかけた瞬間。落とすのだろうと誰もが思っていた。だが、
ドガアアアアァァァ
ロイのルールでやってやるほど、アレクは暇ではない。ルールなどというのに縛られる柄じゃない。いきなりロイの身体を発火させる。アレクのライター型の科学。"焔具象機器"が起動し、半径20mの範囲であればいつ、どこでも発火可能。
「な、なんだあの"科学"は!!?」
「反則じゃねぇーか!!これじゃーロイもきついぞ!!」
「つーか、タバコを落としてねぇーー!!」
観客達もアレクの"科学"の凄さに驚愕した。自由発火に加え、連続性能も非常に高い。容赦なくロイに向かって炎を生み出す。
ゴガアアアァァァッ
「!!」
手応えは確かにあった。だが、炎の中にいる男の顔は完全な戦士。火傷になろうが、傷を喰らおうが立ち向かってくる。そのスピード、インティが強く吹き荒れる風のように誰にも捉えられないとしたら、ロイは見えた瞬間には手遅れである光、そのものだった。場に何も衝撃を与えずに、纏わされた炎すらも置いていく。
「っ!」
「お前の時間は終了だ」
見た目や言葉とは裏腹に、ロイの"紫電一閃"には静かで高い技術力を持った走法があり、動きがある。アレクの前にやってきたと凡人達が気付いた後には、
バギイイィィッ
アレクの顔面をロイがぶん殴り、パワーによって壁際まで吹っ飛ばされるアレクが映り。
サッッ
飛んで行く方へすでに先回りしているロイ。
「はっ!速ぇぇっ!!」
「ロイ様ーーーー!!」
観客達には遅れて状況が見えている。もうすでにアレクの後頭部を蹴り上げて、逆方向の壁に叩きつけていた。アレクもいきなりの連続攻撃に状況把握するのが遅れた。
気付いた時には壁に叩きつけられていたという屈辱。
「どーした?もう終わりか?」
桂の"雷光業火"と似たタイプでもある。
あらゆる細かい動きまでが洗練されていて、初動から最高速などに達するのも速い(加速力がある)。速さに特化したインティ、破壊に特化した桂。その中間にある万能な身体能力。よく言えば万能だ。
「悪く言えば器用貧乏な"超人"だな」
ロイの動きを光と表現したが、長くて激しく動け、最高速度もインティが上回る。加速と技術ならインティに匹敵する。パワーはインティに大きく勝るといえ、どう考えても桂に敵うわけがない。
「もうないぞ。残念だ」
ロイは言葉を吐かせようと思い、待ったんだろうが。アレクは降参なんてする気なし。なんだろうと焼き尽くす。
「"炎帝"」
アレクは闘技場の戦うフィールド全てに炎を発生させた。本当に全て……。温度は高くはないが、高く昇る炎であり、黒々な煙は会場をパニックさせるほどだ。だが、もっとヤバイのはこの中にいるアレクとロイである。
ガギイイィィッ
「!!」
「少しだけ"リミッター"を外してやる」
ロイの動きは確かに速い。アレクにはとても捕まえられそうにない。だが、今。ギリギリとはいえロイの拳を避けた。この目で見た。壁を殴ってしまった。
速さも技術も、ロイの方が上だ。だが、なぜアレクは強い?
「火斬!!」
ライターから出る炎がさらに高くなり、形も変型する。ロイのスピードに対応するため、広範囲に炎を伸ばす。その分、火力と熱が下がる。炎で斬る現象を引き起こそうとするモードだが、要の火力と熱が下がっては再現できるだろうか?
ブシャアアァァッ
「うぉっ!?」
斬られたという感覚だ、とロイは思ったが。ロイほどの超人でなければ完全に真っ二つにされていただろう。
「やろぉっ」
焼かれても、傷ができても怯まずに拳を握り。今度こそ正確にアレクの顎へ狙い済ませる。
「螺旋拳!!」
バギイイィィッ
打ち込む瞬間、強力な拳に回転をかけて相手に吹っ飛ばしと回転をかける技だ。空へと上がったアレクをさらに追撃するロイ。華麗な連続攻撃が彼の魅力だ。
アレクが発生させた炎よりも高いところから繰り出す。
「流星掌!!三刺貫指!!烈風肘!!地砲滅投!!」
流星掌、上空にいる敵を叩き落とす。強い平手であり、当てたところを剥ぎ取る技術までもある。
三刺貫指、三本指の貫手。高い貫通力がある。
烈風肘、肘攻撃を加えつつ、その肘を当てた瞬間には"紫電一閃"で伸ばし相手を吹っ飛ばさずに掴んだ状態に持ち込む。
地砲滅投、ただ思いっきり地面に向かって投げつける。
(さすが、アレクとインティと同じく中二臭いもんだから大変だ)
ドゴオオオォォォッ
アレクが発生させた炎がロイの攻撃で大きく揺れた。地面に叩きつけられた時の衝撃も凄まじく、アレクが墜落した跡ができていた。だが、それでロイは手を止めない。地面に着地した瞬間にはチェックメイトにする連続攻撃で終わらす。アレクの命を奪う…………
「!!」
落下中でもアレクの顔を見逃さなかったロイ。
アレクは笑っていた。地上ではロイの動きを捉えるのは難しいと判断とした。"炎帝"で下準備と、奴を上へ行かせる誘いもかけた。ロイは戦士といっても、"闘技場の中にいる戦士だ"。本当の戦いに特化した戦士じゃない。
ロイに隙があったわけではない。単純にアレクが彼の上をいっただけに過ぎない。
大量の炎の形が変化していく。まるで生まれるかのようだった。
「なんだ?」
ロイが落下する地点には口のような形が出来上がる。雛は産声を上げ、炎をさらに吸い込み巨大化していく。
「六紅鳥」
出来上がった巨大で美しい炎の鳥はロイを丸呑みにし、地上の熱と炎を全て空へと運ぶ鳥。
「綺麗な鳥…………」
「飛んでいってる……」
花火のように綺麗に舞い上がる鳥はとても美しかった。観客が魅入ってしまう耀きがあった。
「うおおぉっっ!!?熱っ!?爆発もっ……」
鳥の中は高熱だけでなく、爆発も起きていた。外と中ではまったく別世界。高温と大爆発に巻き込まれ、脱出もできない。ロイの身体は焼かれ続けた。
ドオオオォォーーーンンッ
炎の鳥が散った瞬間、中にいたロイが黒焦げとなって残り、コロシアム内に落ちてきたのだった。
「ごふっ…………く、くそが…………」
「この猿はまだ息があんのか?」
あれだけの攻撃を喰らってなお、意識を保っていたロイ。さらにはゆっくりと立ち上がり、アレクに立ち向かおうとした。だが、ダメージが大きすぎる。動きが"超人"ではないアレクより遅い。
負けを認めるしかない。自分の土俵での敗北。遅い拳だが、アレクの力が込められた一発で再びロイは地面に叩きつけられた。
「本来ならテメェを殺してやりてぇが。そーすると、困る奴もいるようだ」
「くっ…………こ、こんな………ところで……」
「お前の負けだ。諦めろ。俺に3度目はない」
ロイはアレクを見上げる形で、とんでもなく悔しい顔を出しながら宣言する。悔しさだけでは見苦しいと、師範からも言われている。
「お、………お、俺の負けだ…………」
アレク・サンドリュー VS ロイ。
勝者、アレク・サンドリュー。