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RELIS  作者: 孤独
”闘技島”タドマール編
103/634

月光祭の異変と町で出会った犯罪者達のリアル


"闘技島"、タドマールのお昼。いつものように闘技場では月光祭の予選が行われていた。ロイはいつものように号令を発し、54名のバトルロワイヤルが開催された。

日曜日が本選なだけに近づくほど人数が減るのは当然だった。休む時間が長いほうが良い。また、それもあるが昨日の予選で勝ち抜いたパイスーの圧倒的な強さを目の当たりにした者達が諦めたというのもある。


だが、それでも異彩を放つ人物が中にいた。



ジャキィッ



闘技場のルールとしては最後まで勝ちあがれば良い。美しかったりカッコよかったり、強かったりなどは観客の応援が増えるだけだ。

武器の使用は禁じられていないが、激しい拳の打ち合いを望んでいる観客からは冷たい目を向けられる事が多い。



「ナイフ…………か」



54名と少ない人数だが、……減った人数は雑魚だけだ。強者達は引かない。その強者の中に混じったこの日、初めての女性の参加。



「開始!!!」



ロイには既視感がした。予感めいたものに過ぎないが、現実になったのはすぐのことだった。



フオオォォォッンッ



会場全体に風と砂が巻き上がる。音を置き去りにし、血しぶきのショー。歴戦の"超人"達ばかりが残ったこの日の予選。姿を一度たりとも捉えることができず、彼女の持っているナイフに切り刻まれる。しかも、急所を正確に外されている。



「ウチは誰も殺さない……あなた達が優秀な"超人"達だと分かっているから」

「ぐっ……………」

「なんだと、なめやがってぇぇ!!」

「次があれば挑戦しなさい。ただ、あそこに座っているのはもうロイじゃないけど」



ドバアアァァッァッ



昨日のパイスーに続いて無傷の勝ち上がり。"黒リリスの一団"インティが、金曜日の予選を突破した。

武器を使用するとはいえ、圧倒的なスピードを活かした攻撃はパイスーのそれよりも華があった。なにより、予選で女性が突破するのは何百年も前の話であった。

月光祭では珍しく、あのロイと互角に戦えそうな相手が2人も現れたことに会場全体が異様に盛り上がっていた。ロイは鋭い視線でインティを睨んだ、それはライバル意識があるものだ。そんな顔をするロイに近づいたインビジブル。珍しく、城内で○○パーティーをしていない。



「プレッシャーがあるな、ロイ」

「インビジブル師範……大した事はありません。両者共、俺がぶっ潰します」

「ふっ……………今週もいつものように強さを見せつけ、勝て」

「承知してます……特訓の付き合いをお願いします。多くの仲間が敗れ、死んだ者もいる。恥のある勝利は望んでいない」



普段はふざけている2人だが、戦闘の関連にはストイックな面が出る。



一方で春藍達は


「ううぅっ……吐きそうだよ」

「大丈夫?」

「春藍にしては珍しく腹がよく膨れたな」



町へと出向いていた。元々、滞在期間は一週間以上もあった。闘技場で予選が行われているが、本選を見れば良いとライラの判断で、先にこの異世界がどーゆうところか歩き回る事にした。

インビジブルが言うとおり、優れた"超人"達が町には住んでいる。



「上を見ろよ、……人間が跳びまくっているぞ」

「ほとんどの人間が他人の家の上を走り回っているなんて……秩序がなさすぎでしょ」

「足場が悪い道ですね、ここ………………」


4人は固まって行動している。町に入っただけで分かるが、インフレや法律なんてあったもんじゃない。高級な城で住むインビジブルとロイと比べたら、クズ過ぎるボロ家と道、お店ばかりだ。


「管理人は何をしているんだ?本当にこのままで良いのか?」

「インビジブルさん……………」



管理というものがおそらく一番できていない。人類の安定などといった物はこのタドマールには存在しない。過酷とは違う、無法地帯というのがやはりしっくり来る。


「アンタさぁ!!金が足りないって言ってんでしょ!!」

「うっせーブス!!女は身体しか取り得がねーだろうが!!」

「はあぁっ!?」

「お前なんかこうしてやる!!」



バギイィッ


「痛っ、イタッ」

「別の男に売りつけて○○○にでもなってろ!!」



男の方が圧倒的に強い。なにせ力があるからだ。女性のほとんどはインビジブルに売られたり、別の誰かに売られるだけ。容姿やそれなりの特技があっても、決して自分が望むべき道は選べない。男のための娯楽に過ぎない。



「ぺっ」



平然とこの世界では死体が転がっている。城と違い、町では犯罪が起こらない日々はなく、ソレをくい止める機関は何一つない。



「ううぅっ…………ちょっと嫌な臭いがするわね」

「清掃なんてまるでしてねぇーのな」

「が、骸骨が転がってます……………」



ここは訪れたくない町だ。4人共、それが理解できるほど腐敗しきっている町並みだ……。管理人の中で一番、管理をしていない。



「闘技場いかねぇとな。今日は誰が勝ったんだ?」



住民は闘技場だけに縋りきっている。握った札束も明日にはただの紙かもしれない。

本来ならば禁止されている人間だけでの異世界への派遣が平然と行われ、仕事という名の貢物やら時には誘拐が行われている。ここには職と呼ばれる物がほぼない。

インビジブルが毎日のように○○パーティーを開き、彼の代わりに職務をこなしているロイも闘技場を運営するだけしか能がない。ここをギリギリで回していたのは、なんとあのガイゲルガー・フェルであった。腐りきった世界でありながら、優秀な人材を輩出している"闘技島"タドマールは異世界で必要とされている。上手い事仲介し、仕事を斡旋し食料や女性、お金の供給も行っていた。だが、インビジブルにとってはガイゲルガー・フェルのやり方など一切気にした事はなく、自分に得があるからそうさせてもらっただけだった。

彼が死んだと知っても、インビジブルがなにも思わないのは頭の中は一時のことしか考えていないからだ。



「酷い管理人もいたものね……」

「ライラ…………」

「これじゃあ壊れているようなもんじゃない。みんなは生きているけど、世界が回らないんじゃ潰れちゃう」



ボロボロの街並み……でも、もっとそれ以上にこの世界は壊れているんだって分かる。そして、4人の前に現れる15名の集団。



ゾロゾロ…………


「なんだお前等は?」

「金か酒を持っているかー…………」

「女もいるぞ。とっ捕まえて貢物にしてやれ」




追剥など日常茶飯事。闘技場では活躍できず、仕事が上手くいかなくても"超人"である男達は手強いのが多い。追剥の集団にはボロボロに傷付いている女性もいれば、闘技場で腕などを失った者達もいる。アフターケアは何一つない、一度転落すれば這い上がるのは難しい。今日を生きるため、春藍達に襲い掛かる追剥集団。



「どうする、ライラ?」

「パーッと返り討ちにしましょ。殺しはなしよ」



こんな奴等には負けない。"ピサロ"は使わずにライラは立ち向かおうとしたが、数で上回っている上にどいつもこいつも身体能力がライラ達より上だった。



ガシイィッ


「!」


一度捕まれると逃げられない。ここから投げ技をかけてやろうと思っても、上手くいかない。調子の悪そうな春藍、拳銃を向けるだけで震えているネセリアにも襲い掛かろうとしていた。



「ちっ、燃えてろ」



アレクも極力避けたいと感じていたが、周りが危ないと判断しライターを付け、



ドガアアアアァァァァッッ



追剥集団だけが燃えるように仕向けて撃退した。


「ぐおおぉぉっ」

「熱いっっ!!なんだ今のは!?」


全員がもがき苦しんでいる。春藍も苦しそうな顔を出しているが、彼等の事が心配になった。


「ア、アレクさん!治療をさせた方が良いですか?」

「止せ。助けてもロクなことにならん。それに全員、死にはしない」

「一般人が微妙に強いとか迷惑だわね。もう少し奥に行ってみましょう」


春藍とネセリアは視線と声を向けただけで、先に行くライラとアレクについていった。2人に助けなくても良い人間という基準が初めてできた。

ボロボロな異世界ばかりだ。


「本当に純粋な、強さだけが通る世界なんだな」


通り過ぎる人々の多くが闘技場で活躍できず、他人の現金を奪い取ったりする。中には殺してから衣服などを纏めて奪い取る輩もいる。

生きているだけで苦しいような世界ではないのかと、……お腹を抱えながらも春藍は心の中で感じていた。



「山の方には修行をしている"超人"もいると言っていたが…………」

「行ってみようかしら」



タドマールには漁業も農業も、資源も乏しい。だが、乏しいというのはやってもでないという結果ではないのだ。人間がやってすらいないからとれていないだけだ。まともに職業を動かすという事をしないから、町は崩れていた。(っていうか、町ですらなかった)

ここに住んでいる者達の多くは戦闘と呼ばれる技量と心を無くし、楽しさだけを求めた連中。



悲壮な目で町を見送った春藍。4人は今度、山の方へと足を運んだ。山へ登る入り口に辿り着いただけでそこには活気溢れた気合の声が響いていた。


「おおぉっ」

「町とは違う感じね」


急な階段を昇っていくとそこに広がっていたのはお寺のような建物が一軒あり、その近くで子供達が拳法を修めていた。


「オッス!!」


まだ幼いが、この中には闘技場にいるロイに挑もうとしている者達もいる。才能は人それぞれであったが、どの者も町にいた者達よりも励んでいた。


「可愛いなー。子供が遊んでいるのを眺めるのは癒されますね」

「あれは修行をしているんだぞ、ネセリア……………」


稽古風景に癒された目で眺めているネセリア。タドマールの町は裏の顔で、山が表の顔である。



「さぁ!!前蹴り、1000本じゃ!!気合も大事だが1回1回、動き方にズレがないか確認するんじゃぞ!!」

「ハイッッ!!」



このお寺の師範代は随分と歳をとっているご老人。昔は闘技場でバリバリ活躍していた御仁。


「鍛えねば健康と女、お金にも満たされる未来はない!!!者共やれぇぇ!!」

「オッス!!1!……2!……3!……」


なんだろうか。この世界の良い部分が見れたと思ったのに少し残念な気持ちになるネセリア。4人の稽古風景を眺める視線に気付いた少年達が振り向くと、


「!!見て!!誰だろうあの人達!!」

「可愛いお姉さん達が見てるーー!!」

「あんなおっぱいが大きい人と結婚したい!!子供生みたい!!」

「隣のクラゲねーちゃんも悪くないはずなのに天と地の差がある!!」

「コ、コラー!!集中せんかあぁっ!!」

「師範代理!!あなたもおっぱいに視線を向けてますよ!!」

「大人になった男の本能じゃ!仕方なしじゃーー!」



どいつもこいつも、ここの男って奴は…………。本能が剥き出し過ぎる。ギャップに驚き、ネセリアは胸を隠すポーズをとった。


「あ、あはははは…………子供、可愛かったのに……」

「ホント、残念な奴等ばっかね」


そーいうライラはしょんぼりしているネセリアの胸をイヤらしく見ていた。




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