馬鹿2人乱入、許すまじ
今日の夜。変態が2人、この城には住んでいる。いつもならば変態2人は女性達に囲まれて眠っていた。だが、この日は違った…………。
来客の中に女性がいるだけでこうなるのだ。
ギイィッ…………
「くふふふふ。まさか、この俺が夜中にネセリアちゃんと伽をするとは思ってはいまい。ライラちゃんも俺が頂いてやる」
いや、全員が分かっていたよ。ロイ…………。
「ふふふ。男を知り始める歳になったライラちゃんはどんな○○顔になるか、気になるよ。○○現場を桂に送りつけて彼が慌てる様も面白い。ネセリアちゃんに○○○○をお願いしたいな」
あんたはもっと酷いよ。インビジブル…………。
ロイは堂々とドアの鍵をマスターキーで開け、インビジブルは先ほどライラ達と出会った時のように窓から侵入してきた。とんでもない奴等である。
「い、インビジブル師範!!」
「ろ、ロイ!!」
2人は出会い驚いた。
「な、何しに来た!こ、ここはネセリアちゃんとライラちゃんが寝ている部屋だぜ!けしからんぞ、インビジブル師範!!ホント!!」
「そ、それはロイの方だ!!なぜマスターキーなどを使い、あまつさえ女性達を連れ去り、○○○や○○○○しようとする魂胆が見え見えだぞ!!お、俺はその。ネセリアちゃんのおっぱいとライラちゃんのお尻を護るために来た!!」
相当酷い言い合い。だが、変態達は理解する。両方共とれない時は双方に大ダメージである。幸いにもまだライラとネセリアは眠ったまま。ロイとインビジブルが協力できるのは師弟関係があるからだ。
「ネセリアちゃんは弱いが、ライラちゃんは強敵だ。確かに俺1人で抑えられるとは思えない。インビジブル師範もいれば確実に抑えられる」
「一理ある。あの桂ちゃんが弟子の育成に手を抜くとは思えない。ここは一時協力し、連れ去ってからの楽しい宴をしようじゃないか。ふ、ふふへへへ、あのおっぱいの○○○○楽しみやでぇ」
「涎出てますインビジブル師範」
「そーゆうお前は○○キンキンじゃないか、人間の生理現象だから仕方ないとはいえ」
女は独占しない。共有し合える変態的な友情がある。速やかに息を合わせたように二人が一緒に眠っているベッドに近づいた。
暗くてもエロパワーなら正確にその寝顔と寝巻きの姿を捉える。この幸せそうな顔と、これから女性として幸せな顔を拝めるロイとインビジブル……そのはずであったが、
「むっ!?」
「なあぁっ!!?」
ベッドの中にいたのはなんと3人。一瞬、2人共分からなかったが…………。ネセリア、春藍、ライラの順に窮屈そうにベッドに入っている。
「すー……………すー…………」
「むにゃ……………」
「…………………」
中央に春藍が眠っていて、彼の両腕には手錠が掛けられてネセリアとライラに繫がっていた。しかも、ライラもネセリアも、春藍に拠りそって寝ていた。この光景にロイとインビジブルの声のボリュームは限りなく無音であったが
「このクソガキテメェェェェ!!そこ代われーーーーーー!!!」
「まだ子供過ぎる彼に2人は早すぎる!!どくのだ!!中央は俺の席だ!!」
「無自覚ハーレムとかぶっ殺すぞ!!!一番嫌いなんだよぉぉぉ!!」
「幸せそうに寝ているのがまた腹が立つ!!夜の時こそ燃え上がるのが男だろう!!」
怒り。圧倒的な怒り。女を別の男に取られた時のショック。久々に2人は、女を取られたことを知った。悔しさがさらに男に磨きをかける。
「明日からは特訓をするか、ロイ。月光祭本戦への調整には良いはずだ」
「はっ!男を磨かせてください。インビジブル師範」
「全世界の女性を魅了するファイトを心がけるのだ」
「承知」
…………変態2人はこの怒りを明日の特訓にぶつける心構えにした。そして、2人が去ってから数分後。
「……いったわね…………」
「ホントに2人共来たからビックリしました~」
ライラとネセリアはホッと溜め息をついた…………。マジの実力行使で来たら溜まらなかった。馬鹿な2人であったが、ライラにはしっかりと2人の実力が理解できる。特にインビジブルはあの容姿で変態な癖に本気の自分が戦ったとしても勝てそうにない相手。冗談か本気か分からないが、桂を相手に逃げ切れずに捕まってぶっ殺されない相手を知ったのはインビジブルが初めてだった。
「それにしても……春藍は普通に寝てますね~。ちょっとはその…………」
「…………こーゆうところはまだ分からないんじゃない?無頓着な生活だったんでしょ?」
「頭の中はきっと"科学"とかアレクさんの事でいっぱいな気がします」
「あははは。笑えないけど、こいつならありえるわね」
ライラは春藍の頭をなでてあげる。ネセリアもそれを追うようになでてあげる。
「春藍は可愛いね…………よしよし。護ってくれてありがと…………」
「本人に自覚はないと思いますけど…………。何度もみんなの危機を支えてくれましたね」
ネセリアは少し嬉しそうな顔をしてライラに言った。
「春藍とは昔から付き合いがありましたけど」
「!」
「こうやって旅をしていると、思っている気持ちが短い間で大分変わりました。転機で変われるものなのですね」
宣言は意外とアッサリで本人が寝ていても関係なしに
「こーゆうのが"好き"…………って感情でしょうか。触れ合うと温かいと思えます」
「!…………ネセリアはやっぱり、春藍の事を」
「友人としてではなく……。一歩先での"好き"です。ライラはどうなのです?」
「わ、私は」
そんな感じは両方分かっていたライラ。こんなことまでしている。本人はどーせ分かってないと思うけど
「本当に良い奴よね。私もネセリアと同じくらいの事を思っているつもりよ」
「…………じゃあ、お互い良いって事なんでしょうか?」
「あはははは。それは私達が決めるより春藍にいずれは決めてもらいましょう。その時はネセリアは友達じゃなくて、敵となっちゃうからね」
なんだか難しい感情だと、ネセリアは思っている。一方でライラはそーゆうところ(当たり前というべきか)で育ったからこそ、敵になる可能性もあると言った。
「…………寝ちゃおうかな、このまま。ライラと戦うなんて考えられないから」
「それが良いわよ。私もネセリアと争いたくはないのが本音だから。ふふ」
2人はこのまま眠りについた…………。自分達の事に整理なんてネセリアもつけないし、ライラもつけない。そーゆうことは本当に何かが落ち着いてからじゃないとダメだと、ライラは思っていた。ずーっと続くのかな?とも……不安もあった。
でも、そんな小さな不安で眠りにつけないって事はなかった。まだそんな程度の感情なのかも。
チュンチュン…………
そして、朝は来た。朝食の準備はもう整っておりますと、ロイの使用人の1人が春藍達の部屋まで来て教えてくれた。すでに別室にいたアレクも、城に住んでいるロイとインビジブルも待てずに朝食を摂っていた。
ライラは"超人"ばかりの肉体派集団と思っていたが、二人共意外にバランスのとれた食事を摂っていた。魚、肉、卵、野菜、米と…………しっかり今日を動ける食事内容だ。
「バランスが良い食事ですね」
「ライラちゃん、"超人"の資質を持つ者もちゃんとした食事から始まるんだよ。肉ばかり食べても血が溜まるだけさ。野菜だけ食べても美しくはならない」
「カロリーの消費は半端ねぇーし、戦闘ならなおさら食わないとな。死ぬぜ」
食事のバランスもそうだが、食べる量も凄い2人。ロイの食べ方は雑だが、インビジブルの食べ方はとても優雅で綺麗に箸を持ち、口周りもテーブルも一切汚さない。しかし、積みあがってご飯とおかずの皿はロイの1.3倍くらいはある。恐るべき大食感。
「うわぁーすっごーい」
「人間にあれだけの食べ物がお腹に入るんだねー」
食べっぷりに驚いている春藍とネセリア。恐ろしい胃袋だ。
そして、使用人が3人の朝食を持ってくる。
「お待たせしました、お三方。朝食はしっかりと摂っていただけるようこちらで最高の料理を提供しました」
ドンッ、ドンッ、ドドドーーンンッと置かれる食事。ライラとネセリアは美味しそうと目を煌かせるが、春藍のだけは2人の食事を足しても足りないくらいのとんでもない量。山盛りのご飯、大きな焼き魚、多くの野菜を使った炒め物、コップじゃなくてバケツみたいな容器に入っている牛乳。見ているだけでお腹がいっぱいになってくる量に春藍は恐怖した。
「うわあああぁぁっ!!お、お、多すぎます!!食べきれないよ!!」
「殿方!!……確か春藍くんと言いましたね!」
「は、はい!」
「あなたはあまりにも痩せ型です!!この世界では男とは思われないほど貧弱ですわ!!まずは食べ物のバランスよりも量を摂り、全体的に太らなければなりません!!」
「えええぇぇっ!」
「これでもロイ様やインビジブル様に出す量の半分にも満たないのです!!」
きゅ~きゅ~と、食べる前に目を回して倒れそうな春藍。使用人の熱い言葉に押されかけていた。
「とにかく食えよ、春藍。残すとか考えずに男ならガブッと、ガーーーッと腹の中一杯に入れろ。残ったら俺が残さず食べてやる」
「!あ、……ありがとう。ロイさん」
「ロイ様!!お言葉ですが、この子羊のために私が提供しております!!逃げ道を与えては勇気は育ちません!!」
「まーまー、…………あの人は誰にだって成長して欲しいと思って料理を提供するんだよ。修行時代はよく俺も世話になったもんだよ。とりあえず、食えるだけ食え」
「!…………い、いただきます!」
ロイのアドバイスと使用人の心意気を胸に感じ、思い切りよく食べていく春藍。食べる事に夢中になる。っていうか、それ以外のことを考えたら戻してしまいそうだ。
「アレクはもう食べたの?」
「お前等と同じ食事だったからな。軽く食べた」
「わ、私達の量も結構あるのに軽く食べちゃうなんて、さすがアレクさん」
アレクは食後の休憩気分で白衣からタバコとライターを取り出す。
「お、アレクくんはタバコを吸うのか。俺も遙か昔は吸っていたよ、流行には乗るタイプだからさ。健康のために止めちゃったけど」
「食後には吸わないと落ち着かなくてな。元喫煙者が管理人にいるとは思わなかったぞ……」
「アレクさん!!お食事を摂っている方々の前でタバコは吸わない!!」
「いいだろう。爪楊枝を使うのと同じだ」
使用人を無視してタバコを吸うアレク。押しが強そうな使用人にも押せないアレク。
「恵まれた身体を持っているのにも関わらず、勿体無い御仁です!!」
「俺はインテリ派なんだよ。肉体は長期間研究するために必要なだけさ。"超人"の資質はないもんで」
「それでも人生は身体と健康が資本です!!」
「長生きも大切だが、楽しみも大切だろう?生きてる内に楽しまなきゃならん」
ギャーギャーと朝からお互いの持論を言い合っている。
「とても元気な異世界ですね」
「何事も盛んなところだと思っているぜ。ネセリアちゃん、俺の仕事が終わったら一緒にお出かけしない?」
「結構です!」
「な、な、なんでライラちゃんが答えるの?」
振られた事にショックな顔になるロイ……。
「ところでライラちゃん」
「お誘いは結構です」
「ごめん、真面目な話なんだけど」
「あ、ごめんなさい。インビジブルさん」
いつもならロイ以上にふざけている人物、インビジブル。その彼がいつになく真面目な顔を出していた。
「"超人"の人物を何人か探しているんだろう?この世界には沢山の"超人"がいる、町や山に出て探すのも良いと思うが、ここでは毎週のように闘技場が開催されている。そこで探すと効率が良いと思うよ、フリーパスを貸そう」
「!ホ、ホントに!?」
「俺は女性の悩みは早く解決させてあげたいのさ。そしてすぐにでも俺に夢中になって欲しい」
「な、なんか複雑なんだけど…………」
ともかく、4人分の闘技場入場フリーパスをインビジブルから貰った。
「ところで"超人"を集めてどうするんだ?数合わせじゃいけないのか?」
「誰でも良いってわけじゃないし……強いは最低条件ね。理由としてはその…………」
インビジブルには言っても大丈夫だろうが、ロイや他の使用人にまで伝えて良いのだろうか?と考えているライラ。
「ともかく、仲間が今欲しいの。いろんな異世界に行くから…………」
「…………ま、色々事情があるって事か。それなら頑張って探してくれよ」
ロイはグルグルと右腕を回していた。
「春藍、大丈夫かー?食えないなら早めに言えよ」
「ぐふっ」
「俺はあと10分で出かけなきゃならないんだ」
「ご、ごふぇん!!食えません!!」
「おーぅ」
ロイはこの後、わずか2分で春藍の倍以上の食事をした。恐るべき早食いだが、早食いは健康に悪いと使用人に注意され、春藍はその後酷い説教もうけるのであった。




