好きだーーーーー!!お前の子を生ませてくれーーーーーー!!!
「"未来科学"フォーワールドとかいう異世界からお客様がやってくるそうです。インビジブル師範、ご準備は?」
「聞いていないな。テキトーにやっていい、ロイ」
「承知しました」
ロイは人間である。しかし、インビジブルからは信頼されており、いつでも女とヤリたいインビジブルに代わって管理人の業務を行っている。インビジブルの権威と美しさが後ろに控えているのもあるが、彼は…………この世界で一番の人間。
コッコッコッ
インビジブルの城の隣に作られている巨大で血が染みこんで匂っても、熱さが沸いている競技場。そこの玉座の前に彼が現れた瞬間。全て人で埋まった観客席から揺れるような歓声が飛んだ。
「ロイ様ーーーーーーーーー!!!!!」
「ロイーーーーー!!!」
「ロイ様ーー!!こっちを向いてーーー!!」
闘技場のチャンピオン。それがロイの地位であり、この世界で最も偉大な地点。女は彼の強さも加え、魅入ってしまう容姿にはファンが多い。男としたら、"超人"としての強い憧れがあった。
インビジブルが務める世界であるが、人々にとってはインビジブルがこの世界の神で、ロイはこの世界の王という認識が高かった。
「皆の者!!元気にしているか!!!」
「わーーーーーーーーー!!!」
「はやくロイの戦いがみてぇぇーーー!!」
「ロイ様ーー!!!」
「日曜日が待ちきれないわーーーーー!!」
闘技場は9時から入ることができ、10時からは本当の業務が行われる。
「これより月光祭予選会を行う!!!この日も数多く集まった猛者達の宴を盛大に応援してくれ!!そして、猛者達も宴の大舞台に立つ者!!恥のない戦いはしてはいかんぞ!!」
月光祭とは……。
闘技場で行われる戦闘大会の一つ。月曜~土曜の間に予選が行われ、6名が選ばれ、現チャンピオンであるロイがシード権を持ち、日曜日に全7名で行われる戦闘の宴である。
予選会の内容は百数人にも及ぶ猛者達の壮絶な、1人が勝ち残るまでのバトルロワイヤルである。
このバトルロワイヤルにはタドマール出身者が多いが、稀にガイゲルガー・フェルなどから連れて来られてくる異世界人もいる。
多くが"超人"、そして観客達のほとんども"超人"という分かりやすい強さを望んでいた。
"闘技島"タドマールの世界が上手に回っているのはこの闘技場があり、常に飽きることのない男の、いや、戦士達の熱き戦いが住民達を滾らせ、盛り上げようとしていた。
参加する戦士達も必死だ。死ぬかもしれない予選を通り、奇跡でクリアしても。待ち受けるのはチャンピオンであり、名も実力も恥じないロイが待ち構えるという敗北しか感じない。
が、それでこそ。戦士としての血が燃え上がるのは当然だろう?強敵に挑むのは戦士の宿命。過酷に立ち向かうのは人間の本能。その本能が成就した時、全ての願うが叶うに等しい、お金と女と、食い物と、……そして、この闘技場が待っている。
「戦士入場!!」
ワーーーーーー
今日は木曜日。参加する戦士の数は104名。
全員が入場し、各々が闘技場に入って場所の確保を行う。立ち位置が重要。右も左も、どこを向いても強敵ばかり。いつも、血が観客に飛び散って1,2時間近い死闘になることも珍しくない。
「?………なんだ?」
ロイは玉座の位置から感じ取った。どうやら堪えているようだが、……隠すことができない異質すぎる戦闘力。
「開始!!!」
バトルロワイヤルが開始され、盛大な歓声が上がった瞬間。
獅子の刺青と黒髪のオールバック、左耳に銀色のイヤリングが印象的な恰好であるが、それよりも強烈に残ったのは彼の圧倒的な強さ。姿を忘れ、恐怖だけを戦士や観客達は見た。
ドゴオオオォォォッ
綺麗に人が殺された。
「あひゃひゃ……数だけじゃ待てねぇーよ」
胴体を腕力で貫かれ、この場で誰よりも速く、力があり、勘がよく、戦闘を知り、強かった。奴が通り過ぎると殺される。
ガジャアアアァァ
「しめえだ。"超人"の世界のくせにこれじゃ、ガッカリだぜ」
喰らった傷は一つもなく、圧倒的な強さで1分も掛からずに103名の戦士を殺害。観客の熱気が急激に凍りつき、ロイも玉座から見下ろすところにある手すりを強く握り締めて壊してしまうほど……あまりにも残忍な行ない。
バトルロワイヤルだからといって、勝者以外全員が死者になることは一度もなかった。
「テメェは面白いんだろーな。闘技場、チャンピオン。ロイ」
帰る間際に指を差した男は…………
「パイスーとやら……………どうやら、俺を怒らせたようだな。多くの戦士と仲間を殺した罪はデカイぞ」
パイスーの顔を間違いなく覚えるロイ。ロイもまた、日曜日まで待つことはできない心情であった。怒りと屈辱に包まれた事を強く認識していた。
ともかく、木曜日の予選を勝ち抜いたのはパイスーであった。
「準備は良いかな?」
「大丈夫だ」
「結局、あんた達。あんまり教えてくれなかったわね。いったいどんなところよ」
「行ってから知るんだな。インビジブルには会えねぇーだろうから、側近と親しくしろ」
「ライラー!私は新しい異世界は秘密にしてた方が面白いと思うんだー!」
フォーワールド。夜に管理人、クロネア達が移動させる手続きを済ませた。だが、向こうからの返答がない。本来ならば断りの連絡があるはずなのだ。しかし、いい加減な管理人であるインビジブルの事、用件すら見てないとクロネアは判断し4人を連れて行かせることに決めた。
事情で自分達が傍にいられないのがやや不安であるが…………。一週間後には迎えに行けるはずなため、それまで無事でいて、仲間も見つけられると良いだろう。
「"闘技島"タドマール…………」
そこにパイスーがいるんだよね?これから僕も向かうよ。
春藍は出る直前まで、その事を周りに伝えていなかった。ザラマの情報が正しいかどうかは現地に行かないと分からないからだ。
ゴアアアァァァァッンンッ
春藍達が行ってからのこと……。クロネアはラッシに確認してみる。
「本当に監視をつけなくて大丈夫でしょうか?」
「……さーな。奴を信頼できねぇのか?それとインビジブルもいるんだ。性欲馬鹿が本気を出せば、あいつ等が起こしそうな問題も解決できるだろ」
「そうですが。果たして彼が動きますかね?……インビジブルを倒せる者は存在しないと思いますが…………本気で動きませんからね」
「性欲馬鹿だからな……………」
ゴアアアァァァァッンンッ
「っと…………」
「ととと」
そして、春藍達がタドマールに着いた時。初めて出迎えというのをしてもらった。玉座のようなところに春藍達は立っていて、綺麗な女性達が囲んでいて奥の方にいる男性。
4人の印象はとても高慢というか、王様といったら若すぎるので王子に近い。青い髪に"超人"の世界の住人に恥じない引き締まった肉体の持ち主。ついでにライラとネセリアは思ったが、春藍とアレクと比べれば服を選ぶセンスと着こなせる男だと分かった。
「君達がフォーワールドとか言う世界から来た者達か」
「……なんだお前は」
「俺の名はロイ!管理人、……いや。インビジブル師範は今、お忙しい(性欲処理中)。代わりに俺が………」
ちょっとしたイケメンのお出迎え。かと思いきや、
「!!!」
「え?」
まるでロイに稲妻が落ちたかのように心が燃え上がって、それも電光石火に等しく、ネセリアの前へと瞬間移動し両手を掴み、馬鹿デカイ声で宣言。
「好きだーーーーー!!お前の子を生ませてくれーーーーーー!!!」
俺は変態ですと、アピールをするのは十分過ぎる言葉を吐いた。
「え?私の子を………?」
「な、何よ。こいつ…………絶対、胸を見たな」
「馬鹿の出迎えってムカつくな」
「アレクさん。子供ってコウノトリが運んでくるんじゃなかったんですか?」
これが春藍達と、ロイの出会いであった。こんな出会いが許されてたまるかという出会いだ。