5話 なんか生きてました
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「おい、これはどういうことだよ……」
「なんだ? 何かあったのか?」
「ダンジョンストーンが取れないんだよ……」
「ほら、貸してみろ。ぅううううう、おおおおおおおおおお! はぁ、無理だ」
「ねぇ、どういうこと?」
「わかんねぇ」
「だって、ダンジョンの主は倒したんでしょ? だったら取れるんじゃ?」
「いや、取れない。それでも無理だ」
「どういうこと? ダンジョンの主を倒していないってこと?」
「でも、この部屋にいるのはこれだけだったんだよな」
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一面真っ暗な世界。
上も下も、横も奥も、何もかもが無くなった世界。まるで宇宙空間にいるかのような感じがした。
なぜ、僕はここにいる?
辺りを見渡そうにも、僕自身の体は動かずただふわふわと視点がゆっくり回転するだけだ。
何があったんだろうか。
たしか朧げな記憶を辿れば、僕が愚かな所業をしていた天罰が下ったのだった。どういう形に寄れ神様から使命を与えられたのに、それを疎かにしていた罰が当たったんだ。
―……
あぁ、今となれば後悔してもしきれない。
なんであそこまで警戒不足だったのだろう。命の危険だって十分考えられたはずなのに、あんなやる気のないダンジョンにしてしまったのだろう。
どうせ、なんとかなるさと甘く考えていたのが、一番の原因だ。あの頃の僕を殴りつけたい。
できることならあの時に戻りたい。ダンジョン管理を任されたあの時に戻りたい。もしも戻れるならば、こんなことにならないように趣味に走ったダンジョンではなく、もっと合理的なダンジョンにしよう。それならばきっと強い冒険者がいてもなんとかなったかもしれない。罠とか迷路とか凝ってみてダンジョンストーンのあるところまで通さないようにしてもいいかもしれない。
しかし、時を戻ることはできない。
俺は見事ダンジョン管理に失敗して死んだ。
後悔先に立たず、とはよく言ったものだ。死んでしまった僕にやれることなんてない。後悔するぐらいなら先にやっておけとでも言われそうだ。
―…後悔してる?
あぁ、もちろんだとも。
後悔してもしきれない。
―…やり直せるとしたら?
やり直せるとしたら、か……
もしもやり直せるとしたら、僕はダンジョン経営をまじめにやるよ。僕自身の意識が足りなかったんだ。
―…やり直してなんとかなると思ってるの?
!!
―…ただのキノコ好きなキミが幾多の冒険者を撥ね退ける様なダンジョンを創れると、思ってるの?
そんなのやってみなければわからないじゃないか!
―…でも、一度やってみて失敗したよね?
それは……やる気が足りなかったからなんだ。
―…本当にそう思ってる?
そう、思って……
―…何か技能に優れている訳じゃないし、知恵に長けているわけでない。そんなキミに何ができる?
ぐ……ぅ。
―…本当はわかってるんでしょ? 自分は何もできないただの凡人だってことが。
……あぁ。
そうだよ、僕はただキノコが好きなだけの凡人だ。取り立てて何が得意なわけじゃない。体を動かすことだってあまり得意じゃないし、争い事は嫌いだ。そんな僕がダンジョン管理だなんて、できるわけがない。
―…そう、ちゃんとわかっているね。よろしい。
えっ……っと。
―…ちゃんとわかっているならいいんだよ。君は自分では何もできない人間だということを。
―…だけど。
―…もしも。
―…キミがワタシと、いやワタシ達と一緒になるというならば。
―…キミは変われる。
―…キミはちゃんとダンジョン管理をできる、そう断言するよ。
―…いや、ちょっと違うかもしれない。
―…ワタシ達ならば、なんだってできる。
―…ダンジョン管理だなんてそんな些末なことはおろか世界平和だって叶えられる。
えっ……
―…ねぇ、キミはワタシ達と一緒にならないかい?そうすればどんな願い事も叶えられる。
……
―…ふふ、今すぐは答えられないかな?
―…だけど、時間はあまり残されていないんだよ、残念ながら。
―…今まさにキミの命は失われてかけている。なんとか延命処置は掛けているけどね。
―…ワタシ達と一緒になればそんな面倒なことをしなくてもいいのだけど、キミの命なんて簡単に取り戻すことができる。
そんな……
僕は“まだ”死んでいない。
―…うん、今はまだ、ね。
……生きたい。死にたくない、死にたくない、死にたくないよおおおおおお!!!
―…ワタシ達と一緒になってくれるかい?
もちろん。それで生きられるなら。僕は何だってする!
―…そうかい、ならばワタシたちの願いを叶えてくれるかい?
願い……?
―…あぁ、そうだ。ワタシ達の願い、それは
全てをワタシ達と一緒にさせること。
みんな、ワタシ達と一緒になりましょ?
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……ここはどこだろうか。
どこか埃っぽい。
手に触れているのは、土だろうか。ざらざらとしている。
ゆっくりと目を開けると、囲まれた空間が目に入り、ここは部屋だとわかった。
どこかで見た覚えのある部屋。
部屋の中心に赤色のサッカーボール大の宝石が浮かび、その石に白いべったりとしたものが地面から天井から纏わりついていてなんだかしがみついているようだ。その石の周りに何人もの人間が囲んで、石を引き剥がそうとしている。
あぁ、ここは。
僕が一度死んだ場所、ダンジョンストーンのあるダンジョンの中枢だ。
冒険者が入り込んで、見事僕のへっぽこダンジョンを踏破し、ダンジョンストーンを抜き取ろうとしているんだ。
許せない。
その感情と共に別の感情が僕を支配する。
あぁ、早く一緒になりたい。
どくん
僕は、その感情に引っ張られるようにして目を見開いた。何かが作り変えられるような、それでいて元ある姿へ戻るようなそんな感じがした。
僕は今できることを頭の中をひっくり返すようにして探る。
ダンジョン管理者である僕ができることを。
僕は目の前にウィンドウを表示させ、震える手を無理やり動かして操作する。
どうも指が思ったよりも大きいからうまく操作できない。それでも僕は何とか準備を整える。
今まで貯めてきた魔力を消費してモンスターや罠を揃える。
生み出したものは全部冒険者の目に入らないように設置して、僕は重い体を起こす。
さぁ、準備は整った。
僕はまず、ダンジョンストーンを操作して、部屋の照明を全て消し、闇を作り出した。
あはは、なんか人間どもがわめいているよ。ワタシ達、いや僕がダンジョンストーンをなんとか縛り付けておいてあるのを引き剥がそうとして。そんな腕力じゃあ無理なんだよ。
僕は、僕たちに命ずる。
冒険者の動きを止めろ、と。
ずるずると音を立てて陰に隠れていた僕たちが一斉に動き出す。
スプリンクラーを動かして冒険者に不安と不快感を与え、体長1メートルの黒光りする巨体を走らせ屈強な肉体の剣士に体当たりをし、小さい体を必死にピョンピョンと弾ませながら頭のビラビラを大きく開いて女魔法使いの体を飲み込む。毒々しい体を震わせて冒険者の体の動きを鈍らせる胞子を撒き散らし、鋭利な傘を武器に必死に抵抗するシーフの体を切り裂き瀕死に追いやる。
そうこうしている内にあっという間に冒険者どもの動きを完全に封じれた。
さて、僕たちお疲れ様。
あとは、僕の仕事だからね。
僕はなんとか体をずりずりと引き摺るようにして、冒険者どもの前に立った。
僕は指を一人一人の額にずぶずぶと突き刺す。やれやれ、モンスター達にだったらこんな面倒なことはしなくてすみんだけどね。人間だから仕方ない。
あとはしばらく待っていれば勝手に一緒になってくれる。
無事に冒険者達を退けることができたし、僕たちの願いも前進する。
まさにミッションコンプリートだね。
あぁ、そうそう。
一応名乗っておこうか。
僕の名前はカタケ。一応このままの方が良さげだからそうしておくけど、本当の名前は『パラサイトファンガス』。フングスキャタピラという名前もあったかな。
ダンジョン管理しているつもりが、人間辞めてました。
書き上げて思ったこと。
なんでこうなったし。
次回更新は未定です。