「2030年後」
ショートストーリー:時を止めるような未曾有の副作用で、シビト化してしまった子どもたち、やがて来るその後のお話。
流行り病のために開発された薬が原因だった。
特定の年齢層にだけその症状は現れ、
強烈な副作用でシビト化。
心臓も脳波も新陳代謝も全てが止まり、
体温は気温と同じになり、
生命としての活動は止まったのだ。
もちろん話すことも、
何かを考え表情を変える事もなく、
ただ棒立ちにユラユラ揺れ、
1日中ただ突っ立っている彼ら、
映画などにありがちな凶暴性は一切無く、
空気感染もしない事は、
科学者の調べで始めから分かっていたが、
だが肝心の人間に戻すことは、
長く長い間、
今に至っても研究されてきたが、
開発成功のニュースにはほど遠く、
治療薬が開発されるには数十年かかると言うのが
もっぱらの噂として飛び交い
これは正しく病名として定義され、
それはシビト病と命名され、
この病に罹った子供は全国に数百名おり、
その全てが14歳~17歳までの未成年。
男女の比率もほぼ均等で性別による差も無く、
ワクチンの成分がその年代の彼らの
ホルモンバランスか何かに深く作用し、
亡者とされ、
病が発生してから20年が経過し、
彼らは今や大人の年齢になっていたが、
生命活動は止まり成長出来ず、
時が止まったままの彼ら。
そして今彼らは、
大きなドーム型の施設にほぼ全て移され、
莫大な医療予算がかけられた上で
一括管理されている。
何も食べない、運動もしない、息すらしない
ただの棒のようなシビトに行われる医療行為は
無いに等しく唯一あるのは、
彼らが皆、同年代に近く、
若い頃のままなのがせめてもの救いだと、
残された家族への配慮もあり、
望みは薄いが心理療法として
当時流行っていた音楽や
ドラマやアニメなどの映像作品を毎日垂れ流し、
彼らがそれに興味を持ち、
何かしらの変化が無いか追い続けていた。
だがやはり変化を起こした者はおらず、
今はもう日に数回幾つかのパターン映像が
巨大なスクリーンに流れる日々となり、
初めのうちは医師も、看護士も、介護士も、
数十組の医療チームが待機し
少しの変化も見逃すまいとごった返していたが、
長過ぎる年月、
今ここを管理してるのは人ではなくAI。
巨大なドーム型の球場を改造したこの施設、
シビトたちは縦横キレイに等間隔で立たされ
今の今もユラユラ揺れている。
健常人の親や家族たちは治る見込みが無いと悟り、
見舞いにも疲れ果て、
早々に戸籍に死別と明記する者も増え、
見捨てられない両親や兄弟たちが、
ごく稀に思い出したように訪れていた。
今日も数組の家族たちが訪れ、
彼らの好きだった菓子や手作りの好物だった食事、
元気だった頃の思い出のビデオなどを持ち込み、
息子や娘に見せていたが、
その様子は静かな花見と同じ。
家族はまた来るねと言い残し、
あるいは無言で帰って行った。
今もAIチョイスによる、
あの頃の音楽が映像と流れはじめ、
可愛いアイドルグループが
歌って踊る映像が写し出された時だった。
「No.117に身体的変化あり。
腕の一部から奇妙な突起を確認。
詳細な立体データを送る。
過去データと比べても98%の確率で異変と捉えられる。
以前のような紛れ込んだ鳥の死体などではない、
管理者の指示を待つ」
AIの監視カメラはそれを見逃さず本部へ通達。
そして数分後、
巨大なスクリーンで派手なロボットアニメが流れ始め、
「あぁ断続的ですが複数の個体にも
同様な変化が起こってます。
足からも、頭からも、
これはすごい身長が伸びてる者も。
医療チームの出動を要請します!」
AIの人口音声も心なしか沸き立っているように聞こえ、
しばらくするとサイレンを鳴らし、
数台の車に分乗したチームが到着し
データを精査し始めると、
「No.27を見てください!」
看護士の1人が声を張り上げ指をさしている。
「あぁあああこれは一体。
どういう事なんだ…」
「…に変態しようとしてるのか?!」
「かかかかか顔が!
人として重要な部位がどんどん変化していくぞ!
目も口も消えてしまったら…」
「人ですら無くなる…」
その様子に医療チームは
何もできず呆然と見てるしかなく、
施設で何かが起こった事はすぐこの界隈に
居を構えてしまった家族にも、
テレビ局の報道にも知られ、
警察への通達が遅れたせいで、
何人もの家族や報道陣でごった返していき、
チームの管理者は彼らを追い出そうとしたが、
頑なに動こうとしない家族と、
対立するような図を必死に捉える報道陣。
「私たちもつい先程到着したばかりで、
解明などには至っておりません。
ですから今は混乱を避け、
特にご家族様には申し訳無いのですが、
速やかに施設外への移動を、
現場を荒らさないよう速やかに」
管理者は彼らを説得し、
するとそこへやっと警察は到着し、
まず報道陣を追いやるとゲートに警官は配置され、
許可の無い者の侵入は阻まれていったが、
親族の1人が、
「せめて何かあったのか何でもいいから…」
教えてくれと懇願すると、
複数の別の家族たちからも声はあがり、
「何十年も待ったんだ」
「子供たちがこの手に帰って来ることは無いと、
とっくに心の準備は出来てる」
そこまで言われても話せる事は少なすぎたが、
「はい。それは重々分かってますが、
これは大事件に等しい状況で、
ご家族様に至りましては…」
管理者は話し始めた。
「前口上なんか要らん一言だけでいい。
あんたに家族や子供が居るかは知らんが、
胸が張り裂けそうなんだ。
大事な子供の事を考えない日は無いんだ!」
言われてハッとする管理者。
「今データを精査してる最中で、
正確に判断するのは数ヶ月かると思いますが、
彼らに思いもよらぬ変化が起きてます…
それは…彼らは皆、一様に
木のようになろうと、
土に根も下ろそうとしています…
植物になろうとしてるとしか思えません…」
管理者が言い終えると、
「な、なんだって…」
「そもそももうシビトなのに…」
「今度は植物…」
初見の答えではあったがどよめきが起き、
「あぁ私泣いてるよ?
悲しいのか驚きなのかもう何も分からない、
枯れたと思ってたけど涙が…泣いてるよぉ…」
さめざめと泣き出す母親を介抱する家族たち。
「わ、分かったまた何かあったらすぐ連絡をくれ」
「どんな些細な事でもいい…」
「迷惑をかけてすみませんでした…」
家族たちはそれぞれに自分の子供の方を見ると
本当に木の様だと認識し、
それぞれに帰って行きそして、
医療チームや科学者による分析が
本格的に始まっていった。
そして一ヶ月が過ぎ、
植物に変化するシビトたちの状況は変わらず、
遂に全員が木になってしまい、
政府は最終決断を下そうとしていた。
それはそもそも人ですらない物に、
これ以上の予算支援は廃止。
病への対策研究だけは継続が認められたが、
この国家の威信をかけた一大プロジェクトは
廃止される事となり、
植物として公園に植え直す案も出たが、
その後何が起こるかやはり管理が必要で、
火葬案が大部分の意見として通ってしまい、
家族へその通達は出回ったが、
反発する家族などおらず、
これは大々的な国の行事になるようで、
世界へ向けた放送。
首相のスピーチに始まり、
多くの宗派を越えた僧侶たちの祈祷、
大掛かりな葬儀は開始され、
シビト一人一人に火が付けられていく。
テレビやネットではその場面が切々と流れ、
鎮魂歌を歌う流行りの歌手も登場し、
シビトたちは燃え盛り、
最後をまっとうしていった。
だが数名の母親たちが、
「私も一緒に燃やしてくれ」
と騒ぎ出し騒然となったが、
家族や警官たちに宥められ泣いていた。
そして全てのシビトが燃え尽き、
廃はかき集められ、
特殊なコンクリートで硬め墓碑を作るだけとなった。
墓碑にはシビトたちの名が彫られ、
巨大なモニュメントが建立され、
儀式、集団埋葬の日付は、
2030年6月4日と記されていた。
終
読んでくれてありがとう。




