第90話 「眠れない夜」
深夜十一時半。
玲緒菜の家。
リビングには、 まだ参考書が広がっていた。
でも。
勉強は完全に止まっていた。
篠田玲緒菜
――だから俺も受けねえ。
その言葉が、 頭から離れない。
玲緒菜はソファへ座りながら、 マグカップをぎゅっと握る。
向かいでは、 雷斗が英単語帳を見ていた。
武田雷斗
普通。
いつも通り。
でも。
さっきの言葉のせいで、 全部意識してしまう。
沈黙。
静かな夜。
時計の音だけが聞こえる。
玲緒菜が耐えきれず口を開く。
「……雷斗くん」
「ん」
「さっきの、 ずるくない?」
雷斗が視線を上げる。
「何が」
「“知ってる”とか」
雷斗が少し笑う。
「事実だろ」
玲緒菜が顔を覆う。
「そういうとこ!」
雷斗は楽しそうだった。
珍しい。
普段なら、 こんな風にからかってこない。
玲緒菜は小さく睨む。
「今日なんか機嫌いい?」
「別に」
「嘘」
雷斗は少し黙った。
そのあと、 ぼそっと言う。
「……お前といると楽だから」
玲緒菜の思考が止まる。
「……え」
雷斗はもう単語帳を見ていた。
でも耳が少し赤い。
玲緒菜の心臓がうるさい。
無理。
今日の雷斗、 破壊力がおかしい。
その時。
雷斗が立ち上がる。
「風呂借りる」
「っ、う、うん!」
玲緒菜は慌てて立つ。
「タオルそこ!」
「了解」
雷斗が洗面所へ向かう。
その背中を見送った瞬間。
玲緒菜はソファへ倒れた。
「……むり」
顔が熱い。
好き。
多分もう、 かなり前から。
でも。
雷斗は時々、 こうやって急に距離を縮めてくる。
そのたびに、 心臓が追いつかない。
☆
数十分後。
風呂上がりの雷斗が戻ってくる。
髪が少し濡れていた。
玲緒菜が固まる。
破壊力が高い。
雷斗は普通に座る。
「何」
「……いや」
玲緒菜が視線を逸らす。
雷斗が少し笑った。
「変なやつ」
「雷斗くんのせいだから!」
「何で」
「全部!」
意味分からない会話。
でも。
そのやり取りが楽しい。
☆
深夜一時。
勉強を終え、 寝る準備。
玲緒菜は客用布団を敷く。
「ここ使って」
雷斗が頷く。
「ん」
玲緒菜は少し迷ったあと聞く。
「……ちゃんと寝れる?」
「寝れる」
「人の家だよ?」
「お前ん家落ち着く」
玲緒菜の動きが止まる。
また。
またそういうこと言う。
雷斗はもう横になっていた。
玲緒菜は少し笑う。
「……おやすみ」
「おやすみ」
部屋の電気が消える。
静かな夜。
時計の音だけが聞こえる。
玲緒菜が耐えきれず口を開く。
「……雷斗くん」
「ん」
「さっきの、 ずるくない?」
雷斗が視線を上げる。
「何が」
「“知ってる”とか」
雷斗が少し笑う。
「事実だろ」
玲緒菜が顔を覆う。
「そういうとこ!」
雷斗は楽しそうだった。
珍しい。
普段なら、 こんな風にからかってこない。
玲緒菜は小さく睨む。
「今日なんか機嫌いい?」
「別に」
「嘘」
雷斗は少し黙った。
そのあと、 ぼそっと言う。
「……お前といると楽だから」
玲緒菜の思考が止まる。
「……え」
雷斗はもう単語帳を見ていた。
でも耳が少し赤い。
玲緒菜の心臓がうるさい。
無理。
今日の雷斗、 破壊力がおかしい。
その時。
雷斗が立ち上がる。
「風呂借りる」
「っ、う、うん!」
玲緒菜は慌てて立つ。
「タオルそこ!」
「了解」
雷斗が洗面所へ向かう。
その背中を見送った瞬間。
玲緒菜はソファへ倒れた。
「……むり」
顔が熱い。
好き。
多分もう、 かなり前から。
でも。
雷斗は時々、 こうやって急に距離を縮めてくる。
そのたびに、 心臓が追いつかない。
☆
数十分後。
風呂上がりの雷斗が戻ってくる。
髪が少し濡れていた。
玲緒菜が固まる。
破壊力が高い。
雷斗は普通に座る。
「何」
「……いや」
玲緒菜が視線を逸らす。
雷斗が少し笑った。
「変なやつ」
「雷斗くんのせいだから!」
「何で」
「全部!」
意味分からない会話。
でも。
そのやり取りが楽しい。
☆
深夜一時。
勉強を終え、 寝る準備。
玲緒菜は客用布団を敷く。
「ここ使って」
雷斗が頷く。
「ん」
玲緒菜は少し迷ったあと聞く。
「……ちゃんと寝れる?」
「寝れる」
「人の家だよ?」
「お前ん家落ち着く」
玲緒菜の動きが止まる。
また。
またそういうこと言う。
雷斗はもう横になっていた。
玲緒菜は少し笑う。
「……おやすみ」
「おやすみ」
部屋の電気が消える。
静かな夜。
でも。
玲緒菜は全然眠れなかった。
隣の部屋に、 雷斗がいる。
それだけで、 心臓がうるさい。
その時。
壁越しに小さい声。
「玲緒菜」
玲緒菜が飛び起きる。
「っ、なに!?」
少し間。
そして。
「試験、頑張れ」
玲緒菜は目を丸くした。
雷斗の声は、 暗闇の中だと少しだけ優しく聞こえる。
玲緒菜は小さく笑った。
「……雷斗くんも」
「俺は適当でいい」
「よくない」
少し沈黙。
そのあと。
「お前が頑張ってるから、 俺も少しはやる」
玲緒菜の胸が熱くなる。
暗くてよかった。
今、 絶対顔真っ赤だから。
玲緒菜は布団へ顔を埋めながら、 小さく呟いた。
「……好きになっちゃうじゃん」
その声は、 雷斗には届かなかった。




