第38話「交差する視線」
雷斗の声が落ちた瞬間、空気が一段深く沈んだ。
校門の外。
街灯の下に立つ男子と、雷斗。
そしてその間にいる玲緒菜と兼次郎。
まるで、線で囲われたみたいな距離感だった。
「そこで何してる」
雷斗の声は低いのに、妙に静かだった。
怒りというより、“確認”に近い。
男子は少しだけ肩をすくめる。
「別に。通りすがり」
「通りすがりが、名前呼ぶか?」
雷斗の視線が鋭く刺さる。
男子は一瞬だけ黙る。
そして、軽く笑った。
「知ってたからだよ。彼女のこと」
その言葉に、玲緒菜の背中が強張る。
“知ってたから”
その言い方が、異様に引っかかる。
雷斗が一歩前に出る。
「お前、学校の人間じゃないな」
「まあね」
否定しない。
むしろ、隠す気がない。
その余裕が、逆に不気味だった。
兼次郎が小声で玲緒菜に言う。
「下がれ」
玲緒菜は反射的に半歩下がる。
でも視線は外せなかった。
男子は玲緒菜を見たまま続ける。
「ねえ玲緒菜」
名前を呼ぶ。
雷斗の眉がわずかに動く。
「君さ、ちゃんと“見られてる”自覚あった?」
玲緒菜の喉が詰まる。
「……どういう意味?」
「そのままだよ」
男子はゆっくり言う。
「君って、思ってるよりずっと目立ってる」
「だから、見てる人も多い」
雷斗が冷たく言い返す。
「それが何だ」
男子は少しだけ笑った。
「何でもないよ。ただの事実」
その“ただの事実”という言い方が、一番怖かった。
―――
雷斗が一歩前に出る。
「お前の目的は何だ」
男子はすぐには答えない。
ポケットから手を出して、少し空を見上げる。
「目的っていうほど、立派なものじゃないよ」
「ただ、気になっただけ」
玲緒菜が小さく息をのむ。
「気になった……?」
男子は玲緒菜を見る。
「雷斗と君の関係」
その一言で、雷斗の表情が変わる。
「……は?」
男子は続ける。
「さっきの屋上のやつ、見てた」
玲緒菜の心臓が跳ねる。
――見てた。
その言葉の意味が、ゆっくりと重くなる。
雷斗が低く言う。
「盗み見してたってことか」
男子は否定しない。
「見える場所だったからね」
兼次郎が静かに言う。
「偶然じゃないだろ」
男子は少しだけ笑う。
「そう思う?」
その曖昧な返事が、さらに不気味だった。
―――
玲緒菜の手が震える。
「……なんでそんなこと」
声がかすれる。
男子は少しだけ目を細める。
「知りたいから」
「人が壊れる瞬間ってさ、綺麗なんだよ」
その言葉に、空気が凍る。
雷斗の目が一気に冷たくなる。
「ふざけてんのか」
男子は肩をすくめる。
「冗談に聞こえた?」
その瞬間、雷斗が一歩踏み出した。
しかし――
兼次郎がそれを制するように腕を出す。
「待て」
雷斗が止まる。
兼次郎は男子を見たまま言う。
「お前、ただの観察者じゃないな」
男子は少しだけ黙る。
そして――
「まあ、どうでもいいでしょ」
軽く言い捨てるように笑う。
その瞬間だった。
校門の外から、別の足音がした。
今度は一人じゃない。
複数。
ゆっくりと、こちらに近づいてくる。
男子の目が一瞬だけ細くなる。
雷斗が小さく息を吐く。
「……やっとか」
玲緒菜が顔を上げる。
「え……?」
雷斗は視線を外さないまま言う。
「最初から、こいつ一人じゃない」
その言葉で、玲緒菜の胸が冷たくなる。
――これは偶然じゃない。
――ずっと前から、繋がっている。
足音が止まる。
校門の外に、もう“新しい誰か”が立っていた。




