第19話 「今さら逃がす気ないから」
玲緒菜は、 まだ兼次郎の制服を掴んだままだった。
「……」
「……」
お互い何も言えない。
さっき。
「お前のこと好きだ」
兼次郎が、 確かにそう言った。
玲緒菜はその言葉を何度も頭の中で繰り返して、 そのたびに顔が熱くなる。
「……玲緒菜」 「ひゃ、ひゃい!?」
反応が面白いくらい大きい。
兼次郎は少しだけ口元を緩めた。
「……返事」 「へ?」 「聞いてない」
玲緒菜が固まる。
数秒後。
「い、今さらぁ!?」
顔を真っ赤にして叫んだ。
「私ずっと好きって言ってたじゃん!」 「ちゃんとは聞いてない」 「えぇぇ……!?」
玲緒菜は涙目でわたわたし始める。
「な、なんでそんな急に余裕あるの!?」 「別にない」 「あるよぉ!」
兼次郎は玲緒菜を見る。
泣きそうなくらい嬉しそうな顔。
その表情だけで、 胸が満たされる。
すると玲緒菜が、 観念したみたいに小さく息を吐いた。
「……好き」
「……」
「ずっと前から、 兼次郎のこと好き」
真っ直ぐだった。
逃げ道も誤魔化しもない。
兼次郎の心臓が、 また大きく跳ねる。
玲緒菜は顔を赤くしたまま続けた。
「優しいとことか」 「……」 「不器用なとことか」 「……」 「私だけ見てくれるとことか」
そして。
「全部好き」
破壊力がすごかった。
兼次郎は思わず視線を逸らす。
「……お前」 「?」 「そういうの普通に言うな」 「兼次郎が言わせたんでしょ!?」
玲緒菜が涙目で抗議する。
その様子が可愛すぎて、 兼次郎は困ったように眉を寄せた。
「……理性削れる」 「またそれぇ!?」
玲緒菜は顔を覆った。
だが。
指の隙間から見える顔は、 幸せそうに笑っている。
その時。
「おーい!!」
後ろから大きな声。
振り返ると、 大将と寺田がいた。
「お前ら帰るのおせー」 「……って」
大将が目を丸くする。
玲緒菜が、 兼次郎の制服を掴んだままだったからだ。
「うわ」 「うわ」
寺田まで同じ反応をした。
玲緒菜が慌てて手を離す。
「ち、違うのこれは!」 「何が?」 「えっ」
大将はニヤニヤしながら兼次郎を見る。
「で?」 「……」 「ついに?」 「……まぁ」
その瞬間。
「マジでぇぇぇ!?」
大将の声が響いた。
「やっとかよ!!」 「長かったな」 「寺田お前冷静すぎるだろ!」
玲緒菜は恥ずかしさで限界だった。
「む、無理……」 「顔真っ赤じゃん篠田」 「だ、だってぇ……!」
すると大将が、 楽しそうに兼次郎へ聞く。
「桐谷、彼氏になった感想は?」 「……」
兼次郎は少しだけ考える。
そして。
隣で照れている玲緒菜を見る。
嬉しそうで、 泣きそうで、 幸せそうな顔。
その顔を見た瞬間。
自然と口が動いた。
「……今さら逃がす気ないから」
「っ!!?」
玲緒菜が再び真っ赤になる。
大将は腹を抱えて爆笑した。
「お前重っ!!」 「独占欲強すぎだろ」 「……うるさい」
でも。
兼次郎は否定しなかった。
玲緒菜が誰かのところへ行く未来なんて、 もう考えたくなかった。
すると玲緒菜が、 恥ずかしそうに袖を引っ張る。
「……兼次郎」 「なんだ」 「それ、ちょっと嬉しい」
そう言って笑う。
その笑顔を見て。
兼次郎は改めて思う。
――やっぱり。
俺はこの笑顔が、 世界で一番好きだ。




