第6.5話
茶会事件――もとい、“イベント未遂制圧”の翌日。
アルヴェイン公爵邸の庭園は、いつもより賑やかだった。
「つまりね!」
フィアナが勢いよくケーキを指差す。
「私は社会的に守護対象になったわけ!」
「言い方が物騒なのよ」
リシェリアは苦笑しながら紅茶を注ぐ。
テーブルには色とりどりの菓子。
これは完全に祝勝会だった。
「でも本当に助かったよ。あのままだったら、絶対距離置かれてたと思う」
「ええ。原作通りの空気になりかけていたもの」
リシェリアは静かに頷く。
あの瞬間を思い出す。
視線。
沈黙。
“違う存在”を見る空気。
(あれが積み重なれば、物語は始まっていた)
だからこそ。
「早めに折るのが最善なのよ、フラグは」
「リシェ、人生RTAみたいになってるよ?」
「効率は大切ですわ」
二人は笑った。
⸻
そこへ足音。
「楽しそうだな」
低く落ち着いた声。
振り向けば、アルヴィンが立っていた。
「アルヴィン様!」
フィアナがぴっと背筋を伸ばす。
「そんなに緊張しなくていい」
彼は穏やかに言い、自然な動作でリシェリアの隣に座った。
それがあまりにも当たり前で、使用人たちも誰も驚かない。
婚約者としての距離が、完全に日常に溶け込んでいる。
「成果報告は聞いた」
「早いですね」
「王都の噂は風より速い」
少しだけ口元が緩む。
「見事だった、リシェリア」
まっすぐな言葉。
リシェリアはわずかに目を伏せた。
「……当然のことをしただけです」
「違うな」
即答だった。
「君は、誰も傷つかない方法を選んだ」
静かな声。
重みのある肯定。
フィアナが小さくにやにやしている。
(これ完全に恋人会話だよね)
「……フィアナ?」
「なんでもないです!」
⸻
しばらくして。
皿の上の最後のケーキを見つめながら、フィアナが言った。
「ねえ、これってさ」
「?」
「もしかして私たち、原作より平和な世界作ってない?」
沈黙。
リシェリアとアルヴィンが顔を見合わせる。
そして同時に。
「そうだな」
「そうね」
答えが重なった。
⸻
庭園に笑い声が響く。
物語はまだ始まっていない。
けれど確かに。
未来は、少しずつ優しい形へ変わっていた。




