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原作開始前にフラグを全部折ったら、世界が平和になりました  作者: あめとおと


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第1話


春の朝の空気は、どこまでも穏やかだった。


アルヴェイン公爵家の庭園には白い花が咲き誇り、柔らかな風がレースのカーテンを揺らしている。


――あまりにも、平和すぎる。


リシェリア・フォン・アルヴェインは紅茶のカップを手にしたまま、静かに目を閉じた。


そして、確信する。


「……思い出してしまったのね」


ここは異世界だ。


それもただの異世界ではない。


乙女ゲーム『聖光のレガリア』。


かつて前世で、寝る時間を削ってまで攻略した物語の世界。


そして自分は――。


「悪役令嬢、リシェリア」


未来で断罪され、すべてを失う存在だった。


ゆっくりとカップを置く。


陶器が触れる小さな音だけが、やけに現実的に響いた。


頭の中には、はっきりと物語の流れが蘇っている。


王立学園への入学。


平民出身の聖女の登場。


周囲の注目を奪われ、焦り、嫉妬し――。


婚約者との関係はすれ違い、やがて公開の場で婚約破棄。


最後は断罪。


社交界追放。


家の名誉失墜。


完全な破滅。


「……なるほど」


リシェリアは小さく息を吐いた。


恐怖は、不思議なほどなかった。


むしろ。


冷静だった。


「原因が分かっているなら、対処できるわね」


前世の記憶は断片的ではない。


イベント時期。

登場人物の性格。

誤解が生まれる会話。

破滅に至る選択肢。


すべて覚えている。


つまり――未来は予測可能だ。


庭園の向こうでは、侍女たちが楽しそうに話している。


平和な日常。


まだ何も始まっていない時間。


そう。


物語は、まだ始まっていない。


「学園入学まで……半年」


最大の転機まで、十分すぎる猶予。


リシェリアの唇が、わずかに持ち上がった。


「ならば」


悪役令嬢らしからぬ、穏やかな笑み。


「先に終わらせてしまえばいいのね」


破滅の原因を。


すべて。


嫉妬しなければいい。

誤解を放置しなければいい。

孤立しなければいい。


――未来は変わる。


単純な話だ。


「まずは、聖女」


原作の主人公。


彼女と敵対することこそが、破滅の第一歩。


ならば答えは一つ。


敵になる前に。


「友人になればいい」


自分の発想に、思わず小さく笑う。


悪役令嬢が聖女と友達になるなど、原作には存在しない選択肢だ。


けれど。


だからこそ、未来は書き換わる。


そのとき、控えていた侍女が声をかけた。


「お嬢様、本日の予定でございますが」


「ええ、聞かせて」


差し出された予定表へ視線を落とし――リシェリアの手が止まる。


王都視察。


孤児院訪問。


支援対象者一覧。


そして。


その中にあった一つの名前。


「……フィアナ・ルミエール?」


胸が、わずかに高鳴った。


間違いない。


聖女の本名。


物語の中心人物。


まだ覚醒していない、ただの少女のはずの存在。


リシェリアはゆっくり立ち上がる。


スカートの裾が静かに揺れた。


「予定を変更するわ」


「はい?」


「孤児院訪問を最優先に」


侍女が驚いた顔をする。


けれど構わない。


これは偶然ではない。


運命が、先に動いたのだ。


ならば――こちらも動くまで。


窓の外には、春の光。


始まりの季節。


まだ誰も知らない、新しい物語の最初の日。


リシェリアは静かに微笑んだ。


「悪役令嬢の役目は、今日で終わりね」


そして彼女は歩き出す。


断罪へ向かう運命ではなく。


自分で選ぶ未来へと。


――学園に入学する、そのずっと前から。


物語は、もう書き換わり始めていた。




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