「キモい」4
広島の平和学習も終わり、そろそろ夏が秋へと移り変わろうとしていた頃、相変わらず僕は教室の隅で縮こまっていた。誰からも相手にされない、必要な事で話しかけても気持ち悪がられる。そんなことが続きもう誰とも話す気力もなくなって、最近はずっと頭の中で空想することに浸っている。休み時間の教室の騒がしさもお構いなしに、今日はこの前見た戦争映画を題材に主人公が敵をなぎ倒していく話を考えることにした。早速主人公について考えようとした矢先、耳障りな声が文字通り耳に飛び込んでくる。
「いぇーい、俺様のお通りだー!」
僕は気だるげに声の方向に顔を向けると、クラスメイトの佐野の年不相応に幼い顔が笑い声と共に後ろの扉から教室に飛び込んできたところが見えた。佐野は文字通り絵に描いたようなお調子者で、面白くもないオリジナルギャグを連呼しては周りから苦笑いされているような存在だ。
「はぁ…」
僕は引き続き気だるげに教室の後ろを走る佐野を眺め、首が回らなくなる辺りまでそれを見送ると再び黒板の方へ向き直る。その直前、佐野と目が合ったような気がした。
「おい恒理! なんか用か!!」
佐野が僕の名前を叫び、肩を怒らせつつ僕の方へに向かってくるのを、背中で感じ取る。結論だけ言うと、佐野とは仲が悪い。非常に悪い。具体的なきっかけは思い出せないが、とりあえず僕は佐野の言動が悉く癇に障っていたのは事実だ。
「おい、聞いてるのか!」
教室のクラスメイト達がざわめき始めるのも意に返さず、真横まで来た佐野が耳元で怒鳴る。僕はその瞬間に体を跳ねさせたが、顔を向けなかった。内心、少しビビっていたのは否定しない。
「っせえ」
「は?」
「うっせえな!! なんだいきなり、何もしてないだろうが馬鹿!!」
僕は恐怖心を押さえつけて立ち上がると、佐野と目も合わせず一気に言葉を吐き出す。すると佐野の眉がつり上がった。
「なんだと!」
「何すんだ!」
言葉尻の「馬鹿」という単語に反応した佐野が僕の制服の襟を両手で乱暴に掴みかかる。当然、僕はそれを引き離そうとして揉みあいになった。そしてそれに引きづられる形で教室に悲鳴が響き緊張感が走る。
「謝れくそ野郎!」
「離せ、馬鹿! ばーか!!」
僕は至近距離で罵声を浴びせながら、佐野の手を引き離そうとする。少し揉みあったところで、僕はようやく佐野を弾き飛ばした。腹が立って仕方がない、こんな幼稚な奴に喧嘩を吹っ掛けられてるのが不愉快だ。どうせ口で言って分からないなら…。
僕は何も考えずに、持ってきていた一リットルのステンレス製の水筒を手に取った。そしてすかさず、それを佐野に向かって振り下ろした。




