「キモい」3
新学期早々最悪の出会いをした音川とは同じ班、すぐ近くの机だった。幸いにもプリントの受け渡しとかは行わなくて済んだけど、『同じ班』という事実から最大の問題がやってくる。
「じゃ、今度の平和学習の班の自由行動の行程を決めてくれ。みんなで話し合ってな」
クラスの中で六つの机をくっつけた状態の塊がいくつかある状態で、教師の静久先生が男らしい低めの声を発した。その瞬間、教室中が一気に騒がしくなる。僕の入っている班も音川を含め、僕以外のクラスメイトたちが話し始めた。
平和学習、大抵の学校には似たような行事はあるんだろう。第二次世界大戦中に原子爆弾が投下された広島に学年単位で旅行して、文字通り平和について学習するというものだ。その打ち合わせとして授業の一コマ一つが丸々それに当てられている。
「で、どうするよ」
「素直に広島市内ぐるっと回るくらいでいんじゃない?」
「具体的に計画立てないと拙いって」
班の皆は口々に意見を言い合っている。真剣な声色や、明らかに興味なさげと言った声色など幾つか混ざっていた。だけどそれの全てが、僕の存在を認知していないような雰囲気なのは一致していた。最初からこの班は五人だけ、といった空気で話が進んでいく。いっそこのまま僕抜きで話がまとまってくれればいい、当日は適当にみんなに付いていってそのまま終われば…。
話し合いが始まってもなお俯いたまま、僕がそんなことを考えていた矢先、班の中の一人のクラスメイトが声を上げた。
「どうせなら一人づつ、行きたい場所を発表していこうぜ」
その言葉を聞いた瞬間、僕は全身から血の気が引いていくのを感じとる。今まで散々無視されてきたのに、みんなの前で何か話さないといけない!? 無理だって!!
「というわけで俺から、やっぱ原爆ドームっしょ」
「なんだよ~、当たり障りないじゃん」
最初に声を上げたクラスメイトが男子特有の明るく、口端が上がっている声でおどけて見せるとすぐ隣のクラスメイトがいたずらっぽく指を指さす。そうやって班のみんなはふざけあったりしながら行きたい場所の発表をしていくけど、僕はそれどころじゃない。何か気の利いた事を言わないと、と頭をフル回転させながら目の前の机に広げている旅のしおりのページを捲っていく。
「ねぇ、あなたの番だけど」
「え、あ…」
急いで旅のしおりの数ページを捲ったところで、気だるそうな声が飛んできた。顔を上げると、向かいの机に座っている田澄が音川と同じような不快感を隠さない表情で僕を見ている。音川や班のクラスメイトもどこか田澄に同調するような雰囲気を醸し出していた。
まずい、喋らないと。でも嫌われているし、変な事言われたら嫌だし。どうしようどうしようどうしよう…。
「げ、原爆が真上でさく裂した場所があって…。ら、落下中心地標柱ってのがあるらしいんだけどそれが気になるかな…」
思考がまとまらないまま、僕が上擦った声、かつ早口で一気に言葉を吐き出したことに気づいたのは、目の前の田澄が「はぁ」とため息をつくのが見えたからだった。同じ班の他のクラスメイトも、顔に手を当てたり、あからさまに目を反らしたりしている。「うちの班にこいつが居たわ」と言わんばかりに。
またやっちゃったよ。でもどうしていいのかわからない、全然良くならないんだよ。
「何喋ってるかわかんない」
僕に一番近い場所にいる田澄が睨みつけていると言っても差し支えない程の細い目で一瞥すると、またため息をついて旅のしおりに視線を落とした。
やっぱり、僕は喋らない方がいいんだ。みんな僕のこと嫌いなんだ。そんな思考が頭の中一杯に広がる。当然その後の打ち合わせの内容など頭に入るわけがなかった。




