「キモい」2
「悪口を言われてる? 音川と田澄に?」
「はい、その…。どうしていいか分からなくて…」
少し経ったある日の昼休み、僕は田澄と音川の件を担任である静久先生へ相談しに行った。いつもと違って静久先生が教室で昼食と取らず、早々と職員室に向かったからだ。書類の山になっている机を背景に、静久先生は困惑したように首を傾ける。
「うーん、参ったなぁ」
静久先生どこか関わりたくないと言った雰囲気を醸し出しながらが手で首を摩る。
「じ、実際嫌な気持ちになること言われてるんです。昨日もだし、今日も気持ち悪いって睨まれましたし」
僕は激しく脈打つ胸に手を当てながら、泣きそうな顔で静久先生を見つめる。大人だらけの職員室の緊張感と、謎の恐怖感で倒れてしまいそうだ。
「んー、ちょっと気にしすぎなんじゃないか?」
「へ?」
周囲の喧騒を吹き飛ばすかのように静久先生の言葉が耳に飛び込んでくる。その瞬間に僕の中の緊張感と恐怖感が消え失せ、代わりに冷たいものが入ってくるのを感じとる。
「今時の女子ってな、難しいんだよ。気持ちの浮き沈みも激しいし。悪いけど、大目に見てやってくれないか?」
僕はぽかんとしたまま、静久先生の言葉をただ受け取る。つまり悪口を言われるのは僕が悪いってこと? あの二人は悪くないってこと? どうして? どうして?
僕の頭の中でそんな言葉がグルグル回るのをしり目に、静久先生がふと壁かけ時計を見る。
「おい恒理、次の授業美術だろ。そろそろ準備しないと教室の移動に間に合わないんじゃないか?」
まるで急かすような静久先生の言葉、一方の僕は頭が回るだけで声が、出ない。
「ほら、早く」
「…はい」
静久先生がしびれを切らしたように僕の肩を揺すり、それがスイッチになったのか僕の口からそれだけ言葉が出た。僕は無表情のまま重たい気持ちと不信感を抱えて職員室を出るしかなかった。




