第5話~デートとデート~
「アカリ、デートに行こうか」
聡がリビングのドアを開き、突然そんな事を言ってきた。
「……へっ?」
ソファで寝転びながらアイスをくわえ、漫画を読んでいたらいきなり言われたので、頭が混乱した。
「デート……」
聞き間違えたのかなと思って呟く。
「そう、デート」
「あぁ……聞き間違いじゃないのね、分かった。」
(デート、デートかぁ)
アイスの棒を口に咥えながら上下に揺らして考えていると、ふと、疑問が浮かんだ。
「そもそも、私達付き合ってたっけ?」
「それが何か問題かい?」
「あるでしょっ!?」
私はソファから飛び起きた。
「別に付き合ってなくてもデートはするものだよ」
彼は腕を組み、リビングのテーブルに寄りかかりながら、しれっとそう言った。
「そうなの?」
「そうだよ」
「そっかぁ……」
(だったらいいか。)
「まぁいいや、それで?いついくの?」
「今から」
「いまぁっ!?」
チラっと時計を見たら、午後1時。
「急に引っ越したから色々と必要な物があるだろう?買いに行こう」
「あぁ、そういう……」
(てっきり、映画館とかそういうのを想像してた)
私がそんなことを考えていると、聡はからかうように笑って
「映画館とかに行きたかったかい?」
そう言って、彼が少しだけ目を細める。
「べつにっ!着替えてくるっ!」
ポイッと漫画を机に放り投げ、ふてくされたように自分の部屋に戻った。
仕度を済ませ、ロビーで座りながら彼の車を待っていた。
「あ、来た。あれかな?」
白いセダンが静かに、ロビーの前で止まった。
私は立ち上がって高級そうな車に近づいていく。
ふと気になったので、車の前のエムブレムを確認する。
すると、見覚えのある"L"が付いていた。
「……なんだっけコレ?」
「アカリ?どうしたんだい?」
彼が運転席から降り、こちらに歩きながら聞いてきた。
「あまり車詳しくないから、何の車なのかなって気になって。」
「レクサスだね、静かで乗り心地がいいんだ」
「どうぞ、お嬢様」
彼はそう言って助手席のドアを開け、手を差し出してくれる。
「誰がお嬢様だ」
悪態をつきつつも、その手を取った。
席に座ると、シートがふわっと体を包み込む。
(すごい柔らかい……ソファみたい)
ドアが閉まると、外の音がすっと消えた。
「あれ?エンジンかかってるよね?」
思わず確認してしまう。
車内はほんのり甘い香りがして心が落ち着き
足元は足を伸ばしても余裕があるほど広い。
黒と深紅色の内装が落ち着いた高級感を出していて、私好みの色をしていた。
私がきょろきょろと車内を見ていると、聡が運転席に座る。
「どうしたの?珍しい?」
「あぁ、うん、かっこいい車だなぁって」
私が素直にそう言うと、聡は笑って
「ありがとう。君はやっぱりかわいいね」
「はぁっ!?」
……なんかむかつく。
そのまま車は静かに走り出した。
「ところで、どこに行くの?」
「近くのモールだね、そこで色々揃えよう」
「僕のおごりだから、好きなだけ買っていいよ」
「えぇ……なんかそれはそれでやだなぁ」
「どうしてだい?」
「借りを作るのは、あまり好きじゃないんだよね」
そう言うと聡は笑い
「本当に、君はかわいいな」
「なんでそうなんの……」
彼のときめきポイントがわからない……
「君の退院祝いをまだ渡してなかっただろ?そのお祝いだと思って、素直に受け取ってくれないかな?」
「まぁ、そう言うなら……」
渋々承諾する。
しばらく車を走らせていると、ふと聡が思い出したように
「そう言えば、ギルドの仲間達が君を心配してたよ」
「あっ!ログイン忘れてたっ!」
色々ありすぎたせいで、すっかり忘れていた。
「あちゃー…CSのゲームはやってたのに、なんで忘れてたんだろ」
折角ハイスペPCをもらったのに……もったいない。
「まぁいいじゃないか、今日の夜にでも一緒にやろう」
「そうだね、前にログインしてから間が空いちゃったし、色々手伝ってよ」
「じゃあ今日は一日デートだね」
「なんでもかんでもデートにするな」
そんな他愛のない話をしながら、目的地に向かっていく。
モールについて、まずはスーパーで買い物をすることにした。
「まずは日用品かぁ」
女の子なら欠かせない生理用品と化粧品を選んでいく。
ここら辺は聡に任せるわけにもいかないので、彼とは別行動だ。
「まぁ、こんなもんでしょ、あとはなんだ……」
次々と必要な物を買っていき、洗面用品の所で聡と合流した。
カゴの中を覗くと、シャンプーやリンス、ボディーソープが入っていた
「うわぁ……これ全部高い奴じゃん」
「当たり前だろ?年頃の女の子なんだから、気を遣わないと」
「年頃…ねぇ」
「まだ20代前半じゃないか」
「げっ…覚えてるんだ」
「もちろん、あと半年で誕生日なのも覚えてるよ」
「あぁ……」
(前に誕生日プレゼントを贈りたいって言われて、伝えたっけ)
(10万円分のギフトカードを、10枚送ってこようとしたから全力で断ったけど……)
「歯ブラシはどれにする?色の好みはあるかい?」
「なんでもいいよ」
「だめ、しっかり選ばないと」
「えぇ……じゃあこれで」
適当に赤色のを選んだ。
「だめ、こっちの柔らかいのにしなさい」
「変わんないでしょ?」
「前に歯磨きしたら血が出たって言ってただろ?」
「よく覚えてるなぁ!?」
(何年前の話だ……?)
「そのあと気になりだして、歯医者に行ったっていう話も覚えてるよ」
「追い打ちかけないで……」
恥ずかしくなり、手で顔を覆った……
日用品を買い終わり、帰ろうとしていると
「あ、そうだ、アカリこっちにおいで」
「なに?」
言われて向かった先は、高級そうな服屋さんだった。
「服?」
「君の荷物を引っ越す時に見たんだけど、君、普段着全然ないだろう?」
「う゛っ」
そう、あまりに忙しすぎて買いに行けず、今着ているのも数年前に友達がプレゼントしてくれたワンピースなのだ
「あれ……てか服を見たってことは下着も見た?」
「さっ中に入ろう」
「答えろぉっ!」
「ご来店ありがとうございます、お待ちしておりました、神原さま。」
来店と同時に店員さんが一斉に頭を下げて出迎えてくれる。
「えっ?なに?」
(顔パス……?)
「どうぞこちらへ」
柔らかい笑顔のまま、私は奥へと誘導される。
「えぇぇっ!?」
「いってらっしゃい、アカリ」
彼は優雅に手を振っている。
(なにが"いってらっしゃい"だ!)
気付けば私は、鏡張りの試着スペースに立たされていた。
「お客様はスレンダーでいらっしゃいますので、ハイウエストが映えますね」
「小顔で大変愛らしいお顔立ちですので、思い切って丈を短くしてもお似合いかと」
(説明されてもわかんない……)
両腕をそっと持ち上げられ、くるっと回された。
(うぅ……くすぐったい)
着せ替え人形のようにされるがままになってる。
「いかがなさいますか?」
「えっと……よくわからないので……」
店員さん二人が、にこりと微笑む。
「では、お任せくださいませ」
(ひぇっ笑顔が怖い……)
「どう?アカリ、着替え終わった?」
「終わったよ」
そう言って、試着室のカーテンを開ける。
店員さんが選んでくれたのは
白を基調とした、ゆったりとしたブラウス。
深紅色のハイウエストのタイト寄りのフレアスカート。
ブーツは、最初にロングをオススメされたが
動きにくいので黒のショートブーツにしてもらい
ヒールは短めで足首がすっきり見える物を選んでもらった。
……なぜか店員さんは私の好みを把握していた。
…………あれ?
(聡の反応がない……)
不安になって顔を上げる
店内が一瞬静かになった気がした。
しかし、彼の顔を覗くと、手で顔を覆って天を仰いでいた。
「尊い、とは……この事か……」
「なにいってんの?」
「君の背中に天使の羽が見えた」
「ランドセルは着けてないが」
「すみません、この娘に合う服を全てください。」
そう言うと、彼は懐からカードを取り出した。
「やめてっ!?」
私の抵抗むなしく、乗り気になった店員さんにあれこれ着せられ
聡は本当に全て買おうとしたが、厳選した結果3コーデ程に絞り店を出た。
「はぁ……疲れた……」
買い物を終え、私たちは車に向かっていた。
「おつかれさま」
そう言って、聡は頭を撫でてくる。
「誰のせいだと思ってんの……」
聡を睨みながら、荷物をトランクに入れていく。
「随分買わせちゃったね。」
「気にしないでくれ、ハイブランドのカバンを買うよりは安いよ」
「あぁ……高いもんねアレ」
「僕としては、君に似合う服は全て買いたかったんだけど」
「そんなに着る機会ないよ……」
「そう?今日みたいに出かける時に必要だろう?」
「まぁ、そうだね」
そう言いながら、私は助手席に乗り込む。
聡が運転席に座りシートベルトをすると
「次は、本当のデートに行こうね」
「どうせ、いやだって言っても連れてくんでしょ?」
私がため息交じりに返すと、聡は笑って
「君も、わかってきたじゃないか」
と、嬉しそうに言いながら、彼は車を静かに走らせた。
窓の外で日が沈んでいくのを眺めながら
次に出かける時はどの服を着て行こうか、なんてことを考えて、少し楽しみになっていた――




