第1話~社畜と友達~
時刻は20:30、誰も居ない静かなオフィスで、私は電話の対応をしていた。
「はい、分かりました、では一時間程でそちらに向かいますので……」
取引先とやり取りし、受話器を置いて背伸びをする。
「さて、向かうかぁ……」
ため息を吐きながら、私はデスクから立ち上がる。
(これから現場に向かって作業して……
明日も朝イチから仕事だし、こりゃ今日は徹夜だね)
社用車に乗り込み、再度ため息を吐きながらエンジンをかけ、会社から現場へと向かう。
私はセキュリティ関連の保守の仕事をしており
先程、機器の故障のせいで、金庫のロックが開かないと通報を受けた。
こういう時に呼び出されるのが、私の仕事だ。
疲労と眠気で閉じそうになるまぶたをなんとか開きながら、高速道路に乗った。
時は平成中期、眠くなりながら運転するのは危ないだって?
そんなの気合でどうにかしろ!仕事第一!根性だ!
という時代なので、私は"カフェイン"マシマシ栄養ドリンクを飲みながら車を走らせる。
早く終わらせて帰りたいという気持ちが沸き、少しだけ車の速度を上げた。
予定時間より20分早く着き
「まぁ、原因はなんとなくわかるし、ちゃっちゃと終わらせて帰りましょうかね。」
と独り言をつぶやきながら、車の後部座席を開け
愛用の工具箱を取り出し、現場に入っていく。
~1時間後~
「いや~!アカリちゃんのおかげで助かったよぉ!今日中に確認したい書類があったからさぁ」
「お互い、こんな時間まで大変ですねぇ」
作業が終わり、顔なじみの依頼主のご厚意で休憩室にてお茶を頂いている。
問題の作業自体はとてもシンプル、故障していた機器の再起動だけで直った。
ただ、「はい!なおりました!おつかれさまです!」とはいかないので
一応点検をして、再発しないかを確認していたら、こんな時間になってしまった。
「一応、明日メーカーに問い合わせておくので、問題があるようであれば後日、機器交換に来ますね」
「いつも対応ありがとねぇ、頼りになるわぁ!」
温かいお茶を飲み終え、ほっとひと息つき、そろそろ帰ろうと思い口を開く。
「さて、そろそろ失礼します、お茶、ありがとうございました。」
「本当にありがとうねぇ!」
何度も礼を言われ、私は会社を後にした。
自分の車に戻り、日報と作業報告書を書き終えてノートPCを閉じる。
「こっから家までは2時間はかかるなぁ……仕方ない、今日もネカフェに泊まるか」
私は近くのネカフェをカーナビで探し、車を走らせる。
「ブース番号21、あった、これか」
ネカフェの受付で貰った札を頼りに自分の個室へと入る。
中はフルフラット式になっており、目の前には大きなデスクトップPCとモニターがあった。
「さて、と♪眠くなるまでネトゲやろーっと」
マウスカーソルを動かし、大人気ゲームMMORPGを起動し、自分のアカウントを入力して、ゲームの中に入る。
時刻は24時に迫っていたが、金曜日という事もあって、仲のいい友達がたくさんいた。
レイ「お、アカリじゃんおつかれー!」
テオドール「今終わったの?随分遅かったね」
レイ「デイリーダンジョン終わった?今行こうと思ってたんだけど」
ログインするとチャットが流れ、顔が綻ぶ。
アカリ「いや、明日も仕事あるし、今日は顔見せにきただけだよ」
レイ「うわぁ…おつかれさま」
テオドール「社畜おつ」
アカリ「おまえもはたらけ」
他愛のないやり取りで、疲れていた心が癒されていく。
"ピロン"
個人チャットが届き、見てみると
スレイ「仕事、おつかれさま。体は平気?」
特段仲の良いネトゲ友達が話しかけてきてくれた。
彼とはもうかれこれ、5年ぐらいの付き合いになる。
アカリ「おつあり、平気じゃないけど、まぁ生きてはいるよ」
スレイ「心配だなぁ、、、日曜は休みなの?」
アカリ「それが、お仕事なのです、馬車馬のように働くとはまさにこの事」
スレイ「先週も仕事じゃなかったけ?」
アカリ「そだよ、最近の日程を見たらあらびっくり、20連勤を達成しました」
スレイ「達成しました、じゃないんだよ、誇らしく言うな」
スレイ「まったく、、、そんな会社やめて、僕の会社に来いっていつも言ってるだろ?」
スレイ「僕だったらそんな扱い、絶対にしないよ」
アカリ「できたらしたいけどねぇ、社内じゃ割と頼りにされてるし」
アカリ「まぁ後輩クンが育ったら真面目に考えるよ。」
スレイ「まったく、、、ボイチャはできそう?」
アカリ「いやーむりかなぁまたネカフェだしね」
スレイ「また?ずいぶん家に帰ってないだろ?」
アカリ「心配せずとも、服は洗ってるよ」
スレイ「そこじゃないんだが」
アカリ「まぁまぁ、出来たら私も」
途中でチャットを送り、続けて打とうとした言葉を思い出して焦る
(私も、声が聴きたい、なんて……)
頭をかいて、ため息を吐く
(まいったなぁ、こんな事思うなんて、随分疲れてるみたい)
再び、"ピロン"とチャットの音が鳴る
スレイ「どうした?」
アカリ「いや、なんでもない、明日も早いしそろそろ寝るよ。」
スレイ「分かった、おやすみ。体に気を付けてね」
私はゲームを落とし、PCの電源を切って横になる。
(つかれたぁ……)
正直言うと、心も体も限界に近く、誰かに甘えたかった。
でも、変なプライドが邪魔をして、そんな事を言えない。
(あと1週間……1週間だけがんばれば、まとまった休みが取れる)
(もう少しだから、もうすこし……)
そう思い、目を閉じるとすぐに眠りについた―――
―――頑張れば報われる。この時の私はまだそう思っていた。




