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ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制的に保護しました【連載版】  作者: 紅 与一


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第13話~彼の独白~

「う~悔しい……」


「でも楽しかっただろ?また今度こようよ」


「……まぁそうね……」


時刻は夜の八時


ラ〇ンドワンでゲーセンにダーツ、ボウリング、カラオケまで……


一日中遊びつくしたけど、聡に勝てたのはゲーセンのUFOキャッチャーの早取り勝負ぐらい。


……罰ゲーム、何をやらされるんだろう……


そんなことを考え、ちょっと気が重くなりながら彼の横顔を見つめていると、彼はふと思い出したように言った。


「そうだ、この近くに知り合いがやってるバーがあるから寄っていかないかい?」


「君、お酒結構好きだっただろ?」


「飲んでもいいの?」


「うん、今日は好きなだけ飲んでいいよ。」


「やったー!」


別にお酒に依存しているわけじゃないけれど、体調面の問題で一時的に飲酒を禁じられていたのだ。


彼に連れられ、大通りから路地裏へと入ると、道の角でひっそりと佇んでいるバーの扉を開く。


中に入ると店内は青を基調とした落ち着く色合いで照らされており、客がまばらに座っている。


「あら、聡じゃない、いらっしゃい」


「や、久しぶりだね、元気にしてるかい?」


二人は親しげに話し、聡は私の手を引いてカウンター席に座らせてくれた。


カウンターの奥に立っていたのは、体格のいいおネエさんだった。


私が遠慮がちに見ていると、聡が紹介してくれた。


「彼女は僕の大学の同期でね、鈴木くんのパートナーだよ」


「初めまして、アカリちゃんよね?うちの鈴木から話を聞いてるわ」


「ど、どうも……」


イケボと口調のギャップに戸惑い、身が縮こまってしまう……


私が借りて来た猫のようにおとなしくなっているのを見て、聡は隣でくすりと笑った。


「彼女にカクテルを作ってほしい、甘いのが好きだって言ってたよね?」


「あ、うん……」


注文を受けたマスターは慣れた手つきでカクテルを作り出した。


シャカシャカと目の前で振っている姿がとてもかっこよくて思わず声が漏れた。


「すごい、かっこいい……」


「ふふっ、ありがとね」


そう言ってあっという間に、赤を基調としたカクテルが出来上がる。


一口飲むとイチゴのような甘酸っぱさが口に広がり、それでいて上品な甘さを感じる。


「すごい、美味しい……」


多分ちびちび飲むのが正解だと思うのだけれど、あまりの美味しさにあっという間に飲み干してしまった。


「気に入った?もう一杯飲むかい?」


「あ、うん……お願いしてもいいですか?」


「もちろんよ、そんなに美味しそうに飲んでもらえるなら、いくらでも作ってあげるわ」


マスターは嬉しそうに笑いながらまたシェイカーを取り出した――



「ぐすっ……今日楽しみだったのにぃ……」


マスターが作るカクテルが美味しすぎて、気付けば五杯を飲み終えていて、私は酔っぱらっていた。


半泣きになりながら今日の出来ごとをぽつぽつと話している私を、聡は優しく背中を擦りながら聞いてくれた。


「大変だったね……ほら、これを飲んで」


聡に水を手渡され、一気に飲み干す。


「うーん……まだ飲めそう、何かオススメのカクテルくださいっ!」


私がそう言うと、マスターと聡は困ったように顔を見合わせ頷き、しばらくすると最初に出された赤を基調としたカクテルを差し出された。


「あれ……さっきのやつとは味が違うんですね?」


最初のとは違って、スッキリとした甘さが口の中に広がる。


こころなしか、アルコールを感じない気もする。


「今日はイヤなことばっかりあったけど、私を助けてくれた時のさとるは、かっこよかったなぁ」


グラスを手にバーカウンターに肘をつきながら、彼の方を見てそんなことを呟いた。


彼はなぜか目を見開いて驚いて、そっぽを向きながらグラスに口を付けた。


「あー!いつも私から目を逸らさないのに!こっちみろぉ!」


彼の肩に手をかけると、視線が合う。


いつもの穏やかで優しい目ではなく、少しだけ、熱を帯びているような気がした。


彼の目を見つめていると、肩に置いた手を掴まれて引き寄せられ、腰に手を回して抱き締められる。


――そのまま、彼は私の首筋に口づけをした。


「あまり挑発すると、襲っちゃうよ?」


私の耳元でそう囁く――


「なっ!なにを言ってるのっ!?」


顔がぶわっと熱くなるのを感じて彼から離れると、火照った顔を冷まそうとしてグラスに残っていたカクテルを勢いよく飲み干した。


「ははっかわいいね、今日は近くのホテルにでも泊まってくかい?」


「ばかっ!」


私が顔を真っ赤にして言い返すと、マスターが小さくため息を吐いて、


「はいはい、店の中でいちゃつかないの」


マスターにそう言われ、声が大きくなっていたのに気が付いて恥ずかしくなり、両手で差し出された水をちびちびと飲んで頭を冷やした……


「うーん……眠くなってきた……」


私は眠気に襲われ、机に突っ伏し始める。


「あら、大丈夫?」


「へいきですぅ……いつもこうなのでぇ……」


「アカリは昔からお酒を飲むと、テンションが上がった後、急に寝るからね」


彼は懐かしむように言いながらグラスに口を付けて、うれしそうに笑った。


「最初の頃はいきなり反応が無くなるから心配したけど、すぐに可愛い寝息が聞こえるもんだから、次第に慣れてしまったよ」


「うるさい……」


悪態をつこうと思ったけど、睡魔に負けてそのまま目を閉じてしまった――




「あら、ほんとに寝ちゃったわね」


「騒がしくしてごめんね」


「いいのよ、むしろこっちまで元気をもらえたわ」


マスターはそう言って、アカリのグラスを片付け、ブランケットを彼女の肩にかけた。


「前から話は聞いていたけど、いい娘ね、大事にしなさいよ?」


「そのつもりさ」


カラン、とグラスの中の氷が音を立てながらウィスキーを一口飲んだ後、眠ってしまった彼女の頭を撫でた。


「この後どうするの?ホテルにお持ち帰りするの?」


マスターがからかうように言ってくるので僕は苦笑し、


「そうしたいのは、やまやまなんだけどね」


「あら、あなたそんな奥手だったかしら」


「そうかもね、僕が臆病なだけかもしれない、けど……」


「彼女の心のことを考えると、どうしても怖いんだ」


グラスをカウンターに置いて、目を伏せる――


「僕は、彼女を助けた時に言われた言葉を、今でも覚えている」



「――"なんで助けたの?"、だ」



マスターの動きが一瞬、止まる。


「……そう……それは、きついわね……」


マスターは何も言わず新しいグラスを差し出してくれた。


「あなたは、昔から抱えすぎるところがあるから、ここで全部吐き出しなさいな」


「……悪いね」


差し出されたグラスを一口飲み、口を開く。


「彼女は本来なら、まだ入院しているべきなんだが、病院に居た頃の彼女はいつも虚ろな目をしていてね……」


「このままでは、彼女の心は完全に死んでしまう、そう思い、僕は強引に退院させたんだ」


「彼女に生きて欲しいと願ったのは僕のエゴだ……もう一度、笑っている彼女を見たかった」


手に力が入り、カラン、とグラスの氷が音を立てる。


「今でも時々思う、僕の行いは、果たして正しかったのかと」


「僕のせいで、彼女を苦しめているのではないかと……そう悩まない日はないよ」


深く、ため息を吐く。


酒のせいか、普段は絶対に口にしないと決めている弱音が、止めどなく溢れ出た。


僕がうな垂れていると、マスターが優しく口を開いた。


「私から見た今の彼女は、少なくとも今日を楽しんでいるように見えたわよ」


マスターはまっすぐ聡を見つめた。


「さっきの笑顔を見たでしょ?誇りなさい、あなたは間違ってないわ」


彼女の言葉に救われた気がして、胸がじんわりと温かくなる。


「……ありがとう」




夜も更けて来たのでタクシーを呼んでもらい、眠ったまま目を覚まさないアカリを背負い、タクシーに乗り込む。


「今日は助かったよ、アカリも楽しんでたし、また来るとするよ」


「そう、その時は熱い土産話を期待しているわ」


マスターは意地悪そうな笑みを浮かべて手を振り、タクシーを見送ってくれた。


隣で眠る彼女の顔を見ながら、小さな手を握りしめた。


「んぅ……さとる……かっこよかったよ……」


彼女が小さく呟く。


「まったく、こっちの気も知らないで……」


呟きながら彼女の頭を撫でて、胸の中に抱き寄せる。


彼女の鼓動を感じながら、唇に軽く触れる。


――彼女を守る為なら、どんなこともする。


あの日の誓いを思い出し、腕の中で眠る彼女を見守り続けた――


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