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ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制的に保護しました【連載版】  作者: 紅 与一


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第12話~失った物と得た物~

「はぁ……」


カラオケ店を出て、私は下を向いたまま街をふらふらと歩いていた。


(聡に夕方帰るっていったけど、まだお昼前だ……)


さっき聡にLINEを送ったばかりだから、今すぐ帰ると何かあったのではないかと勘繰られそうでちょっと気まずい。


久しぶりに友達に会えると思って舞い上がっていたのに、このまま暗い顔で帰ったら彼を心配させてしまいそうで、それが嫌だった。


(仕事ばかりして友達との交流を疎かにしたツケ、なのかな……)


一応聡の他にも付き合いの長い親友が一人いるけど、その子ともしばらく連絡を取っていないのを思い出して胸がきゅっと苦しくなった。


(このまま、一人になっちゃうのかな……)


(さとるに、会いたいな……)


色々考えていると、感情が負のサイクルに入り込み、涙が滲んできた……


その時、ドンッと誰かにぶつかった。


「あっごめんなさい!」


謝ってすぐに道を譲ったが、腕を掴まれた。


「ちょっとお姉さん、痛かったんですけどー?」


大学生ぐらいの若い二人組の男に挟まれてしまう。


「やっべ、超かわいいじゃん」


「あ、目が赤いよ?もしかしてフラれた?」


「じゃあ慰めてあげるよ!」


そんな事を好き勝手に言って、私の腕を引っ張って連れて行こうとする。


「やっ、やめてください!」


「ひゅー!かわいいねぇ」


「でもさぁ俺達は被害者だから誠意を見せてもらわないと!」


じりじりと距離を詰められ、気付けば路地裏に追いやられていた。


(ま……まずい……)


背筋に汗が伝わり、本能的に逃げろと囁かれるが彼らは獲物を逃がさないように間合いを詰めてくる。


彼らが笑いながら私に腕を伸ばしてくる――


私が思わず目を瞑ったその時――




「彼女は僕の連れだ。……その手を離してもらおうか」


突然、聞き覚えのある声がして目を開けると、私を掴もうとしていた男の手を背中に回して捻り上げている聡がいた。


「いっいてぇ!」


「なんだてめぇ!」


もう一人の男が聡に殴りかかったが、掴んでいた男を、そのままもう一人の方へ突き飛ばした。


二人はそのままもつれ合い壁にぶつかって床に転がる。


「くそっ!しらけちまった」


「もういい、いこうぜ」


捨て言葉を吐いて二人は路地裏から去っていった。


「さとる……どうして」


「友人と遊びに来ていたんだけど、たまたま君を見かけてね」


「間に合ってよかったよ」


聡は、いつも通りの優しい顔で私の頭を撫でてくれた――


私は気付いたら、聡の胸の中に飛び込んでいた。


「アカリッ!?」


「……ごめん、少しだけ、このままでいさせて……」


(彼の匂いがする……)


彼は一瞬戸惑っていたけど、すぐに私の背中を優しく擦ってくれた……


(あぁ……落ち着くなぁ……)


さっきまで、胸がずっと痛かったのに……今はとても温かくて心地よかった。


――いつまでもこうしていたい、そう思った。


「神原さんっ!大丈夫ですかっ!?」


声が聞こえてハッとし、彼から急いで離れた。


「あれ、アカリさんじゃないですか」


「あっ鈴木くんっ!」


路地裏の入り口に居たのは、聡の社員であり同い年の鈴木くん。


「……もしかして、僕、お邪魔でした?」


「そ、そんなことないよ!」


私は手をブンブン振って否定したが、隣の聡から邪魔すんなオーラがすごい出ているのを肌で感じていた……


聡はため息を吐き


「いや、僕の方こそ君を置いて行ってすまなかった」


「彼女が変な輩共に絡まれていたからね、間に合ってよかったよ」


「でも、どうしてこんなところに?遊びに行くって言ってなかったかい?」


「う゛っ……えーっと……」


経緯を説明しづらくて、目を逸らす……


彼は察してくれたようで、私の頭を優しく撫でてくれた。


「うん、鈴木くん、今日の予定を変更してもいいかな?」


「えっ、あっ!はいっ!全然かまいませんよ!」


「アカリさんと一緒に居てあげてくださいっ!」


彼はそう言うと、綺麗なお辞儀をした。


「僕の方から誘っといてごめんね、今度お詫びをするから」


「いえ!お構いなくっ!では、失礼しますねっ!」


彼は再度お辞儀をして、きびきびと帰っていった。


「……いい子だね」


「そうだね」


彼は優しく笑いながら私をそっと抱き寄せた。


「今日はこの近くで、最近見てるアニメのコラボカフェがあったから、彼と一緒に向かってる最中に君を見つけたんだよ」


「あぁ、なるほどぉ……」


一瞬、私をつけて来たのかと思ったけど、鈴木くんがいたおかげで無罪が証明された。


……でも、実際危ない場面だったし、正直、彼の登場がかっこよすぎて、胸がきゅんとした。


登場シーンを思い出して顔がぼうっと熱くなる――


頭を振って邪念を振り払う……


「とりあえずここじゃなんだし、移動しようか」


彼が歩き出すと同時に、私はなんとなく彼の腕を掴んだ。


「アカリ?」


「……今日は、こういう気分なの」


彼の腕を組んで、隣を歩き出す。


こういうのに慣れてないせいで、すごくぎこちなかったけど、彼は茶化さないでくれた。


歩幅の小さい私に合わせて、ゆっくり歩いてくれる彼。


大通りに出ると


さりげなく車道側に立って


人とすれ違う時に私を守るように支えてくれる……


(大人だなぁ……)


いつも、意識していなかったけど、私を大切にしてくれているのが分かって、街中を歩いているだけなのに幸せだった。


「やっぱりその服、似合うね」


「へっ?あ、うん……ありがと……」


(ずるい……)


当たり前のように私を守ってくれる上に、褒めてくれる。


友達を失って、そのうえ不注意で危ない目に合ったのに、ただ優しくしてくれる彼がどれだけ大切な存在なのかを思い知った。


胸が温かくなって、彼の腕をぎゅっと掴む。


(ちょうど……聡に会いたかったから、すごく嬉しいかも……)


(もっと、くっつきたいな)


ふと、そんなことが頭の中に浮かんで、すぐに振り払った。


私は赤くなった顔を悟られないように、話題を切り出す。


「なんか、体を動かしたい気分だなぁ」


「でも君、運動が苦手って言ってなかった?」


「それでも動きたい気分なのっ!」


「ラ〇ンドワン行こうよ!あそこなら色々あるし」


「ならいつも通り勝負でもするかい?君はその方が燃えるだろう?」


「いいねぇ、この前の借りを返してあげるよ」


「ふむ、じゃあ今度はもうちょっと過激な服を着てもらおうかな」


「私がいつも負けると思うなよ……」


「でも、ハンデは頂戴」


「ふふっ、いいよ。ボウリングならスコア100点ぐらいおまけしてあげるよ」


「随分バカにしてるなぁっ!?」


「正直、それでも負ける気がしないからね」


「くっ……なんとかして負けさせてやる……」


「ふふっ頑張ってね」


「うっさい!」


いつも通りのやり取りをして、私達は店へと向かっていく。


でも、このやり取りを出来るのがとても幸せで、今日はずっと彼と一緒に居たかった――

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