第7話~職場と希望~
「さ、ここが今日から君の職場だ」
そう言われて案内されたのは、寝泊まりしているフロアの一室
「わーすごーい!職場まで徒歩10秒!走れば5秒!」
「なんて理想的な職場なのでしょうかっ!」
「危ないから走らないでね」
「気にするところはそこじゃないが!?」
「なんでっ!職場が!家の中なのさっ!?」
時は平成、家の中で仕事をするなんて聞いた事がないっ!
「知らないのかい?今のトレンドはテレワークっていって、自宅で仕事をするものなんだよ」
「そうなの……?」
(私が遅れてるだけなのかな?)
「ほら、君の職場を案内するから、おいで」
そう言って、肩を組まれ、部屋の中に入る。
部屋には大きなデスクとPCが置いてあり、非常に作業がしやすそうだった。
仮眠用なのかシングルベッドも置いてある。
ウォーターサーバーに空調まで完備されており、なんとおやつまである。
「……セレブの職場?」
「まぁ間違ってないかもね、社長夫人なんだから」
「わたしはいつ結婚したんだっ!?」
いかん、聡のペースに乗せられている。
落ち着くんだ私……
「はぁ…」
「ため息なんかついて、どうしたんだい?疲れた?」
「うん、あなたのせいだね。」
そう言うと、聡は嬉しそうに笑い
「ははっやっぱり君といると、退屈しないな」
「さようですか……」
まぁ、楽しそうならいいや。
「PCをつけてみて、仕事で使うソフトを一通り入れてあるよ」
そう言われPCを起動する、こちらのPCも起動が速い。
「EXCELにWord、基本的なのは入ってるね…CADもあるじゃん」
「待って、SolidWorks入ってるんだけど」
3Dで設計図が書けるソフトなのだが、前の職場で無理やり覚えさせられたので一応扱える。
「当然だよ。君が触っていたって言ってただろう?」
「ライセンス高いのに……」
「君に投資するのに高いも安いもないさ」
「それに、うちではハードウェアの開発もしてるから、設計業務が出来る人が喉から手が出るほど欲しかったんだ」
「うーん、このPCの性能で設計ができるとなると心が躍るな……」
(前の職場のPCは古くて、私の作業速度に間に合わずフリーズすることがあったし)
「うん、なんかやる気出て来た!ありがとね!」
と笑顔で言ったら、聡に肩を掴まれ、すごく真剣な表情をしていた
「今から大事な話をするから、よく聞いて?」
「は、はい……」
「勤務時間は一日最大4時間まで、残業は厳禁」
「はいっ!?」
「それから、働くのは週に3日までね」
「えぇっ!?」
「あと、データの持ち出しも厳禁、漏洩は心配していないけど、君の場合、自分のPCでやろうとするだろ?」
「ギクッ」
「本当は……働いてほしくないんだ、せめてもの譲歩だと分かってくれ……」
最後の言葉だけは、彼の本音なんだと、わかった。
(本当に、心配してくれてるんだな)
そう思うと、胸が暖かくなった。
「あぁ、言い忘れてたけど、この部屋にはカメラがあるから」
「なんだって!?」
思わず天井を見ると、確かにあった。
(しかも、集音マイクもセットじゃん……)
「安心して、録画はしていないよ。君が無理をしていないか確認するためだけだ」
「監視じゃなくて?」
「違うよ、君を見守る為だよ」
聡はまっすぐ私を見つめた。
「信用していないわけじゃない。むしろ逆だよ」
「君が頑張りすぎる人だって、僕は知っているから」
「もっと自信を持っていい、君は、すごい人なんだから」
その言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなる。
(こんな言葉、今まで働いてて言われたことなかった……)
ずっと頑張って来た、頑張るのが当たり前だから、倒れるまで頑張った。
でも……誰にもそんな事を言われなかった。
職場で罵倒され、お客さんにも罵倒され、怒られるのが当たり前だったから。
でも、仕事って、そういうものだと思ってた――
私は、気が付くと涙が溢れていた。
「アカリっ!?」
聡が慌てて私を抱き締める。
「ごめん、なんか……勝手に……」
「大丈夫だよ」
「今まで、よく頑張ったね」
そう言って、彼は優しく私の背中を撫でてくれた。
「これからは、僕が隣で君の事を褒めてあげるから」
「だから、もう、一人で頑張らなくてもいいんだよ。」
私は、涙が止まらず、彼の胸の中で泣き続けた。
リビングのソファに移動して、聡がハンカチで私の涙を拭いてくれた。
「落ち着いた?」
「うん……」
「そっか、ならよかった」
そう言って聡は私を抱き締めた
「あの……さとる?」
「ん?なんだい?」
「えっと……もう大丈夫だから降ろしてくれないかな……」
そう、流れに身を任せた結果、私は彼のヒザの上に座っていた。
「どうして?別にいいじゃないか」
「う……」
好意でやってもらった手前、突き放しにくい……
体が密着してて、恥ずかしいのと
彼の体温が体全体に伝わってドキドキが止まらない。
鼓動が聞こえてしまわないか心配で、顔まで熱くなってきた。
「やっぱり、君はかわいいね」
そう言うと、彼は自分の頬を私の頬に近付けた。
「っ!?」
恥ずかしさゲージが限界突破し、私は拘束を振り切って逃げた。
「ざんねん」
聡は笑いながらそういい、手のひらを上げている。
「もうっ……!」
(いまのは絶対わざとだな……)
「今日は一緒に寝るかい?さみしくない?」
「さみしくない!一人で寝る!」
そう言って、私は寝室へと向かった。
布団に潜ると、彼に言われた言葉を思い出して、心が温かくなった。
(明日から、少しだけ、頑張れそう)
そう思い、目を閉じると、すぐに眠りにつけた。
このお話でプロローグ含め丁度10話分になります。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
まだまだ書き進めていく予定ですので
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