昇降口
昇降口
大体三百メートル位先に、一つの高い建物が見えた。
「あれって……?」
「あれが、三葉学園の入口。生徒はみんな、『昇降口』って呼んでるよ。」
昇降口?どう見ても遊園地に入る時にある受付場所にしか見えないけど。
ドーム型の建物に、いくつか入口と窓口が並んでいて、入口にはそれぞれ受付の人が立ってる。
完全に遊園地入園対応モードだよ。
「実は、三葉学園の入り方は、三葉学園の生徒と先生、その関係者しか知らないんだ。」
「ええ!秘密基地みたいな場所ってこと?? なんかドキドキする!」
「それはちょっと違うと思うけど……。」
三葉学園に行くには、この受付場所――昇降口で三葉学園の生徒だと証明する必要があるらしい。
まあ、世界でも最高峰クラスの学校なので、これくらいの強固な対策が最低でも必要なんだろう。
だから、入口に立っている人に校章の提示をする必要がある。
世界最高峰クラスの学園とはいえ、毎回この手続きをしないといけないと考えると面倒だね……。
「まあ、こんな道のど真ん中に受付場所があったら流石に一般の人も疑問に思うだろうから、一般の人は市民ホールの予約受付場所として利用してるよ。」
「市民ホール?」
遊園地じゃないんだ。
でも遊園地だったら流石に観覧車が見えてくるだろうし、それはないか。
遊園地があったら、天歌ちゃんと遊びに行きたいな。
日本にいた時はまず友達が少なかったからどこかに遊びに行って青春出来なかったし。
「遊園地ねぇ。今度機会があったら行けるといいね。」
「うん!ところで天歌ちゃん、市民ホールの予約受付場所とか言うけど、ホールなんてどこにも見えないよ?」
私は疑問になって聞いてみた。周りを見渡しても昇降口と木がたくさんあるのくらいしか見えない。
こんな所にホールがあるなんて、不自然にしか思えないけど……。
「ホールはね、地下にあるんだよ。」
「地下?」
「そう地下。受付の建物にエレベーターが整備されてるから、そこから行けるよ。」
なるほど。それなら納得だ。
地下ホールなら地震が起きても安心だし、遮音性や防音性が高いから、地上の迷惑にならない。といっても、ここら辺には大して建物が建っていないけれど。
「おっと、少し話がずれたね。入学式の準備があるから、さっさと学園にいこうか。」
「え?入学する私たちが入学式の準備をしなきゃいけないの?」
「うーん、三葉学園は、少し入学式と卒業式の考えが他の小中高一貫の学校と比べて違うんだよね。」
天歌ちゃんの話によると、三葉学園は小学校の卒業式、中学校の入学式、卒業式、高校の入学式が存在しないらしい。つまり、入学式は小学校のみ、卒業式は高校にしかないのだそう。
「それじゃ、昇降口に行って校章の提示をしなきゃ。キララちゃんは〜……」
「私は?」
「……どーしよ、考えてなかった。」
え?何をしてるのお姉さん。
私、入学できないどころか学校を見に行くことも出来ないんですけど。
「校章がないと入れないもんね……。」
「校章、校章……。」
天歌ちゃんは、何かを考え始めた。
天歌ちゃんの制服には校章がついているけど、私には校章どころか制服もないんですよ。
無理だよ天歌ちゃん。ないものは無いんですから。あきらめましょ。
「校章がないなら、作ればいいじゃない!」
「は?天歌ちゃん何を言って……?」
天歌ちゃん、そんな脳筋思考じゃだめでしょ。作るったって、どうやって作るわけ?ここら辺の木伐採して加工して作るの?いや無理無理。
「――――。」
少し天歌ちゃんの目が淡くひかり、周囲の光が吸収されていく。
天歌ちゃんは、呪文のような言葉を詠唱した。
するとあらびっくり。
天歌ちゃんの右手に、校章が現れたではないですか。
ちゃんと天歌ちゃんの校章は天歌ちゃんの分で制服についているし……。
そういえば、すっかり忘れかけていたけど、この世界では魔法を使うことが可能なんだった!
なるほど、天歌ちゃんは自分の交渉をコピーして作ったってわけね。
「作ったんじゃない、創ったの。」
「へ?そ、そう。」
なにかこだわりがあるのか、天歌ちゃんは言い換えた。別にそんな気にすることでも……。
「さ、これがあれば行けるはず。行こ」
「うん。」
私たちは三十分かけてやっと、三葉学園の入口、昇降口にたどり着くことが出来たのである。
to be continued……