魔女クエスト(1)生と死は常に共にあるのカナ?
「あー、おでん食べたかったですねー」
「わしも食べかったのじゃがー、巫女おでんは危険じゃけのう。なんで巫女共は危ない事ばかりするのじゃー?」
「えー?死んでこその命デスよー?生と死は常に共にあるのです」
「いやまあ、哲学的に言われてもね?わし一回も死んだことないしの」
「普通は一回しか死ねませんからね?チャレンジしちゃダメですよ?陛下」
「えー?そうなん?そうじゃろうなあ」
陛下は生まれたてなんだよ。見た目は6歳児だけどね。今の環境は幼児、いえ赤子の情操教育に良くないよね。堕天使が言うなって話かも知れないけどね。
死んでも復活するヤツとか、クビを刎ねても死なないのとか、陛下の身の回りはそんなのばっかり。死んだら死ぬの堕天使の我らくらいじゃないの?陛下は、あっさり死にそう。ニンゲンの幼児より貧弱なんだもの。我らが守らないとね。巫女や女騎士共と違って、堕天使の我は命は張れないけどさ。
「そいでー?どこに行くの?陛下」
「んー?どこでもいいのじゃ。魔女を採りに行くのじゃ」
「あー、そういえば、そんな事言ってましたねー」
カブトムシを採りに行く感覚なんだろうね?俺のカブトムシのがつえーぞ、って。合理的な理由や、有益な目的は無いのでしょう。一国の主なのにね。
「陛下ー?ちょっと我思ったんですけどね?」
「なんじゃ?堕天使的な斬新な意見じゃろうな?」
「え?いや、堕天使に何を求めてるのよ?我らの国は帝国ですよね?」
「そじゃーな」
「であればですよ?王じゃなくて皇帝なのでは?」
「そじゃーな?あれ?誰じゃ?間違っておるマヌケは?」
「いや、陛下ですけど?」
「答えは聞いてないのじゃ」
「マヌケおやびん!そんなおやびんもラブリーなのです!」
「まあそうだねー。巫女に賛成だよ我も」
「話を変えるな。カブトムシ、じゃない魔女はどこにおるのじゃ?」
どうしても魔女狩りをしたいんだね。陛下に目を付けられた魔女が哀れだよ。同情する気は無いけどね?
「うっかりさんなら分かるんじゃないですかー?同族でしょ?」
「むー?失礼だな。魔女は悪魔の規格外品だよ。外れロットが魔女になるんだ」
「それは、また随分な偏見のようですがー。神話や聖書にそんなこと書いてませんよー?」
「そういう堕天使は何なのじゃ?天使のハズレかのう?」
「陛下まで何ですか?なーんでーすかー?我を何だと思ってるのカナー?」
堕天使は天使の上位種ですよ!言うとまたいじられるから言わないけどね。
「魔女は金持ちの家に、あざとく捨てられるんでしたっけー?」
「うん。魔女は0歳児ボディを受肉して地上に生まれるからね。保護してくれそうなニンゲンの元に沸くよ」
「へー?ほいじゃあ孤児院とかは?居そうじゃないですかー」
「あほか?孤児院は国王と神父が結託して悪事を働いておったじゃろ」
「それは知ってますよ。神社が経営してるのだから。今は、更生してまともになったんじゃ?」
「そういえば、そうじゃったっけ?」
陛下は破壊専門なので、再生に関しては女王か宰相が担当してるもんね。
「学園再建プロジェクトの事務所が仮設孤児院になっているよ。我が、設備を揃えたからね、知っているんだ」
「じゃあ、そこに行きますねー。飛ばしますよー」
「え?ちょっと待て。お前誰じゃ?ファズじゃったっけ?」
「ファズは革袋の呪いでリーザ山の総本社に還っちゃったでしょ?私は、オーバードライブです!デース!!DEATH!!」
「待てこら、街中でイニシャルなにがしな暴走運転をやるな!やめるのじゃ!お前はマンガのキャラか!?」
巫女は、お供の入れ替えを勝手にしてたんだね。そういえば神社もお団子屋も巫女だらけだったから、補充要員はいくらでも居たね。
だいたいの巫女はハンドルを握ると性格が変わるよ。陛下の言っている通りまるでマンガのキャラだよね。おじーさーん!逃げてー!!そういう運転だよ。
巫女は陛下や我ら堕天使と違って異世界の知識が無いから、マンガのキャラと言われても意味不明だろうけどね。
「リーザ山の峠道なら、ちょっとした絶叫マシンなんじゃけどなあ。おまえら、道路交通法が無くても、人として守るべきものがあるじゃろ?」
「は?リーザ様の教義以外守る気ありませんけど?」
「わしが、そのリーザ様なんじゃがー?」
「だったら早く神話を書くか、聖書を書かせるかして、教義を示して下さいよー」
「わしの神話ならクリームちゃんが書いておるわ。日記じゃけえゆうて非公開じゃけど」
「ダメですよー?神話は神が自ら執筆しないと。ゴーストライターはダメです」
「はあ?そうなん?異世界の知識がまるで役に立たんのう」
陛下には異世界の知識がプリインストールされているけど、この世界の知識はまだ殆どない。異世界とこの世界では常識からして全然違うんだもの。陛下が混乱するのは当然だよ。
神話は神や悪魔が自筆するもの。代書されたものはタダのラノベ扱い。聖書は民間人が見聞きしたものや、ゆんゆんと電波を受信して書くもの。それがこの世界の仕様だよ。
「ダモン共和国なら、既に聖書があるんじゃない?あそこの国神は陛下だから」
「あー、ですねー!じゃあ、カブトムシはダモン共和国に採りに行きましょうよ!」
「ちょっと待て。その前に孤児院を確認するのじゃ。あとなあ、聖書ならお前らが書けばええじゃろ?」
「はあ?神聖な巫女になんてことさせるんですかー?この駄女神はー?」
「えー?ほんまにわしお前らの祀神なん?」
巫女共は、死にたがりのドエムと、攻撃性の高いドエスの、ハイブリッドなんだね。こんなので見た目は美少女だからね。お団子屋の常連客達の趣味嗜好がコワイよ。
「さあ!ダモン共和国にきりきりしゅっぱーつ!」
孤児院には孤児は一人も居なかったよ。最近は周辺の国でも戦争も飢饉もないからね。陛下が起こしたのは戦争ではあるけど、悪魔くらいしか死んでないからね。
「ほいじゃー、ダモン共和国に行くかのー?リーザ山は通るなよ?」
「え?じゃあヨコヤマ帝国を抜けるんですかー?」
「ついでにヨコヤマの港を観光したいのじゃ」
「あー、そういう。それは面白そうです!」
というわけで、ヨコヤマ帝国へ行くよ。国交が無い国だから無事で済むはずが無いんだけど。