【はじめに】 女神オムニバスの言い訳
——メタ発言を許して欲しい。
私は女神「オムニバス」。素敵な神様。
なんだその自己紹介は、と言われてしまうだろうが、こればっかりは仕方ない。あくまで人の信仰によって成り立つ神という概念に、実体など無いのだから。
だからもしあなたが私の姿形などを想像するのであれば、それはあなたの考える最も理想的な女神の姿にしてもらえればいい。
顔は可愛い系? 美人系?
髪は長い? 短い? 結んでいる? 色は何色?
体型は? 身長は高い? 低い?
服装はどうする?
素敵なオムニバスができたかな? データをセーブするのを忘れずにね! うーん、ゲームのキャラメイクみたいで楽しいねぇ。
…………いやいや違う違う、今はそんな話をしたいのではなくて。
実体が無いとしても、私には唯一できる自己紹介がある。
それはすなわち、私が「何をする神なのか」ということだ。
例えば、私の知り合いの神の話をしよう。
ある神は人間を産んだ。全ての人間は彼の力無くしては生まれなかった。
ある神は人間に知恵を与えた。その一つとして、人間は「魔法」という新たな力を会得し、生活を豊かにした。
ある神は世界に災害を起こした。魔法の急速な発達のあまり戦争が勃発し、人類が滅亡に向かった時、人々にその愚行を気付かせるために犠牲を払わせた。
神、それは人間の祈りによって発生し、世界の法則の何次元か上にいる存在。
大きな力を持つ我々には、生命体をコントロールし世界を守護する義務がある。それぞれに役割があり、それをこなさないと給料が引かれる。
……と、そんな中でこのオムニバスちゃんは何の神なのか。
単刀直入に言おう。
私は神の中の「窓際族」である。
周囲から戦力外通告を受け、そもそもろくな仕事が回ってこなくなり、暇を持て余しまくった……そう、言うなれば落ちこぼれ女神! どこが素敵な神様やねん!
正直神の中でも地位は下の下というところで、力も弱く、人間と結構近いところにいる。
だから時間の概念を超越するとかもできないし、世界を操作するにしてもある程度制限があるのだ。
そんな私は、いつもこの神界から人間達ひとりひとりの人生を観察している。
ドキュメンタリー映画を見るみたいに。何か干渉するわけでもなく、ただ観測して、それを楽しんでいる。
何のためかって?
それは、ただの趣味……とも言ってしまえるのだが。
折角なら殊勝な理由を一つ挙げて、オムニバス株に貢献してみよう。
……人間ひとりひとりを見るということは、他のどの神もやっていないことだから。
世界の均衡を保つ神が、たった一人の人生に執着するなどあり得ない。万物に干渉する力を持っている神の視野が狭まってしまうような行為は、すなわち禁忌に値する。
でも、そもそも世界に干渉する気の無い私なら、それをやることができる。
ただ見届けて、何もしない。それのどこが殊勝なのだと思われるかもしれない。
けれど私は、無意味なことをした方が良いくらい、そのくらい窓際族が板についているのだ。
人間一人の人生というのは短く、特にその人間が輝く時間などは一瞬だ。
けれどその一瞬が、いつか何か大きなものに変えることができると信じている。
それを成し遂げるのは私かもしれないし、他の神かもしれない。
今は彼らの物語が「出オチ」でもいい。
そんなことを思い、私はこのメタ発言を締め括る。
***
「さて、今日はどの人間を観ようかな……」
私はテレビのチャンネルを変えるみたいに、世界の色んな所を探してみる。
そして、一人の男に目を付ける。
『——アイク、お前にはこの冒険者パーティを辞めてもらう』
アイクと呼ばれるその男は、がくんと崩れ落ちて絶望の色を見せた。
ああ、やっぱり人間は面白い。
今日も「出オチ」が始まる。