表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神なき島の物語  作者: 銭屋龍一
2/4

2 少しずつ、ここを、知る

 歩いてみると、ここは思ったよりも広い。

 茅を束ねるようにして作った、とんがり頭の建物が多く並んでいる。

「あれはなんだ」

 わたしは建物を指さして言った。

 ナウは首を傾げる。

 通じない。あたりまえと言えば、あたりまえだ。

 だが、何よりも、なに? という言葉は通じるようにしておかないと、これからを考えると、とても重要だし、それが出来なければ、わたしが、ここで生きていくのも厳しいものになるだろう。

 わしはナウを指さし「何?」と言い、一呼吸おいて「ナウ」、それからわたしを指さし「何?」ふたたび少し間をあけて「ソキ」

 それを3回繰り返した。

 ナウがうなずいている。

 わたしはナウを指さし、「何?」と言った。

「ナウ」

 そうだ、それでいい。どうやら理解してくれたようだ。ナウもなかなか頭のいい青年のようだ。

 わたしは、もう一度、とんがり頭の建物を指さし、

「何?」と訊いた。

「ねる、くう、ねる」とナウが答える。

 わたしが建物の形から推測したものと、ナウの言葉を重ね合わせてみる。

 推測したとおり、家ということのようだ。

「ナウの家はどれだ」

 当然通じないとわかっていたが、ナウとのこれからの会話の効率を上げることも考えて、わたしの言葉でまず訊いてみた。それから、

「ナウ。ねる、くう、ねる、何?」

 と言ってからから、ひとつの家を指さし、「ナウ。ねる、くう、ねる」と言い、別の家を指さし「ナウ。ねる、くう、ねる」と言ってみた。

 ナウはうなずくと。

 かなり離れた、建物を指さした。

 なるほど、家は個人所有できるものらしい。

 わたしは「ねる、くう、ねる」と言ってから、「家」と3回繰り返した。

 それからナウが指さした建物を指さし「あれがナウの家」と言ってから「あれ、ナウ、家」

「いえ」とナウが口にする。

 そうだ、いいぞ、「ねる、くう、ねる。何?」とわたしは訊いた。

「家」と今度ははっきりとナウは言ってから、笑った。

 家は、ここの、中心に向かって広がっているのではないようだ。なぜなら、ここから見える一番最初の家の左手には、木製の高い柵があるからだ。その柵はずっと先まで続いているようだ。そう考えると、家はその柵に沿うように、多くて3軒程度の幅で、ここの中心を取り囲むように建っているように見える。その家が囲んでいる中央には、幾種類もの植物が生えている。それも種類ごとに、かたまりとなって、群生しているところを見ると、畑として何かを栽培しているようだ。

「あの植物は何?」とわたしは植物を指さしながら訊いた。

「いも、まめ、こるし」とナウは答えた。

 いも、まめ、は、わかるが、こるし、とは何なのだろうか。だがいずれ、それもわかるだろう。

「この柵は何?」ずっと、ここを、取り囲むように作られているように思える柵を指さして訊いた。

「ここ、くる、いも、まめ、こるし、とる。ここ、くる、いも、まめ、こるし、とる、だめ。ここ、はいる、だめ。いも、まめ、こるし、とる、だめ」

 どうやら敵がいるようだ。ここの作物を奪いにやってくるのだろう。その防衛のために柵がめぐらされているということか。

「ここに芋や豆やコルシを盗りに来るのは誰だ?」と言い、「ここ、くる、いも、こるし、とる、だめ、何?」

「イズモ」とナウは憎々し気な口調で吐き出した。

 イズモ? 聞いたことがある。間違いなく聞いたことがある言葉という感覚はあるが、それが何を意味するのかも、そこから発生する様々なことも、まったく頭に浮かんでこない。

「イズモとは何だ?」「イズモ、なに?」

「イズモ、うみ。イズモ、さかな、かい、とる。イズモ、いも、まめ、こるし、ない。イズモ、いも、まめ、こるし、いる。イズモ、ここ、くる。いも、まめ、こるし、とる」

 なるほど、イズモ、とは敵の名か。ここと同じく、どうやら集団で生活をしているらしい。海の近くに住んでいて、魚や貝を採って生活しているが、それだけでは足らなくて、ここに作物を盗りにくるということだろう。

「どうやってイズモからここの作物を守っているんだ?」「イズモ、ここ、くる、だめ。いも、まめ、こるし、とる、だめ。イズモ、だめ、ここ、なに?」

 ナウは少し首を傾げて考えていたが、やがて、

「イズモ、ここ、くる。タワ、ころす。イズモ、こない。タワ、ころす、はいれない」

「タワ、何?」わたしは、自分の言葉は省いて、訊いた。それほどすぐに答えが欲しかった。

「タワ、おう。ここ、タワ、おう。おまえ、ゆるす、タワ。ここ、おまえ、はいれる」

 なるほど、あの、最初に、わたしに話しかけた男が、やはりここの長で、タワという名で、おう、と呼ばれているのだろう。おう、ならば、王ということか。しかし王国というほどの規模のようには見えないが。村とは呼べる規模にはあるといえそうだ。

 タワが敵を殺してくれるから、ここが守られているのだろう。だとしたら、王であるタワは、ここの住民から税を取り立てて、権力として、君臨しているということか。

「タワ、イズモ、ころす。ここ、とる、ここ。ナウ、タワ、とる、いも、まめ、こるし、とる。何?」と、わたし。

 少し複雑な問題だ。自分の言葉で言うにしても、それを自然に理解してもらえるようになるのには、かなりの時間と労力が必要だろう。だが、ここの言葉でどんな風に聞けばよいのかもわからない。それでもここまで、わたしとナウが話してきた過程を思い、わたしなりに、こんな風かな、と思える聞き方をした。もちろん普通に話ができたとしても、問いを理解するのも、それに答える内容も、かなり複雑で難しいものとは理解しているが。

 ナウは首を傾げている。

 やはり、通じないか。なんと訊けばいいのか。

「タワは税を取るのか?」

 わたしは、わたしの言葉で簡潔に訊いた。

 ナウは何度も何度もうなずいた。

「タワ、ぜい、とる。タワ、おう。ここ、すむ、ここ、はいる、ぜい、とる」

 自分勝手に、ない言葉だろうと思っていたが、税という言葉はあるようだ。なるほど、権力であれば、真っ先に、税の仕組みを作らなければ、集団を統率することはできないということか。

「税、何?」とわたしは訊いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ