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七章 意外な真実

「ほら、スズエ。横になりなさい」

 ユキナさんに言われ、スズエさんは「はーい……」と渋々従う。逆らったら怖いのだろう。

「でも、分からないな。共通点なんてない気がするが」

 ミヒロさんが呟く。まぁ、確かに。同意書を書いた、というのしか共通点がないし。この同意書も、何を基準にしたのかが分からない。

「あー……えっと……」

 スズエさんが少し言いにくそうに手を挙げた。

「実は、既に見当がついているんですよね……」

 はやっ。

 いつの間に見当をつけたんだろ……。

「何?スズエ」

「えっと……まず、ごめんなさい。皆の出生のこと、少し調べさせてもらいました……」

「理由によっては殴るぞ、それ」

 タカシさんが拳を握りしめた。エレンさんが「妹に手出ししたら容赦しませんよ?」と黒い笑顔を浮かべた。もちろん、スズエさんが何の根拠もなしに調べることはしないと分かってはいるけど、さすがに気になる。

「さすがに私も、何を基準に同意書を書かせようとしたのか分からなかったんですよ。で、一つの仮説を立てたんです」

「仮説……?」

「そう。――もしかしたら、生き別れのきょうだいやいとこが集められているのかと思ったんです。事実、私達双子と兄さんもそうでしたから」

 なるほど……それなら納得出来るかもしれない。

「……で、何か分かったの?」

「仮説は正しかったですね。それぞれが誰かしらと近しい関係だったみたいです」

 カタカタと転がったまま、スズエさんはパソコンをいじる。

「こんな感じでしたね」

 ジッと見ると、確かに皆、誰かしらときょうだいやいとこ同士だった。

 レイさんとラン君が異母兄弟。

 キナちゃんとユミさんは母方のいとこ。

 カナクニ先生と亡くなったアリカさんが兄妹。レントさんは二人の母方のいとこのようだ。

 ゴウさんとケイさんは父方のいとこ。

 タカシさんとナコちゃんは異母兄妹。

 マイカさんとハナさんは父方のいとこ。

 皆、離婚だったり亡くなったりと理由があって離れていたらしい。うーん、意外な関係だなぁ……。

「ここだとこれ以上のことは調べられていないですけど……」

「逆にすごいね……こんなところでここまで調べたの」

 ユキナさんは苦笑いを浮かべている。スズエさんは「ここまでなら知識さえあればある程度調べられるので」と答えた。そういえばこの子情報屋だった……。

「……ねぇ」

 ケイさんはスズエさんに話しかけた。

「もう少し、調べてもらうことは出来るかなー?」

「え?まぁ、ここから出たら一日で出来ますけど……」

 スズエさんは戸惑っていた。ケイさんは「自分の出自のことは、ちゃんと知りたいんだ」と答えた。

「もちろん、報酬は弾むよー」

「……嫌なものだって、出てくる可能性があります。それでもいいんですか?」

 それは情報屋としての良心。ケイさんは「もちろんだよー」と笑った。

「あー、あと。報酬は友人割を効かせておくので」

「そんな割引があるのー?」

「私が勝手に作りました」

 そして資料を見て、

「……これなら、危険性もないし無料でやってもいいですね」

 そう、答えた。これにはケイさんの方が驚く。

「いいのー?商売でしょー?」

「まぁ、そうですけど。一般人からは出来るだけ取らないようにしているんです。悪用するわけでもないし、貧しい人もいるものだから。裏社会の人間からは基本的にかなり高く取りますけどね」

 個人情報、となると万は確実に行く。人によっては百万とかもあり得るだろう。それだけ価値のあるものを扱うというでもあるのだ。もちろんそのリスクも大きなものだろう。

「……ちなみに、普通ならどれぐらいかかるの?」

 ボクが尋ねるとスズエさんはうーん……と考えて、

「ウン十万は普通に行きますね。政治家だとか有名人になると千万を軽く行く場合もあります」

 基本的には被害者が犯人の情報を聞きに来るってことが多いですけど、と答えた。……悪いことはしない方がいいということだろう。アトーンメント様にすぐ見つかるから。

「あとは、冤罪を出来る限り減らすために依頼さえあれば無料でそういう調査もしますね。場合によっては弁護士なんかも私の方で依頼しますし」

 そんなこともしているのか……。それを今まで一人でやってきたことに驚きだ。

「赤字じゃない?」

 自営業だからこそ分かる。これは一人でやるにはかなりつらい仕事だ。

「そうですね。相当な赤字です」

 危険性と労力を考えれば、高校生でこれだけの働きは相応の見返りがあってもいい。

「でもまぁ、人の役に立つなら別にいいかって。普通に生活はしていけるわけですし。ユウヤさんも自営業なら分かると思いますけど、税金関係とかもいろいろ面倒なんですよ」

 彼女なりにそこは割り切っているのだろう。それならこれ以上はこのことについて何も言うまい。

「まぁ、それで。ミヒロさんの件も既に調べています」

「……え?」

「もう少しで警察に提出出来るまでになりますから。そのあとはまぁ、警察連中に損害賠償でもなんでも請求してくださいな」

 その場合は私も弁護側に回ってあげますので、と黒い笑顔を浮かべる。お怒りのようだ。

「ったく、あの警察連中……だから犯人が分からない事件だとか何かあった時は私に一度報告しろと言っているだろうが……無能かよあいつら……」

 そこまで言わなくても、と思わなくもないが、実際スズエさんの方が何百倍も有能なので否定が出来なかった。

「警察連中でモロツゥに繋がってたやつ、一人ひとりつるし上げてやるか……」

 うわぁ、怖い……。

 この子ならすぐに調べられてしまうというのが恐ろしい。

「スズ姉って、どうやって情報を集めてんだ?」

 シルヤ君が尋ねる。確かにそれは気になる。

「ダークウェブとかも利用するし、バイトとしてバーだとかいろんなところで働いて情報を手に入れたり、まぁいろいろ」

 バーでも……未成年なのにいいのか……?

「バーって、どんな場所?働いてみたいかも」

 ユミさんが身を乗り出して聞いてきた。スズエさんはふいっと顔をそむける。

「……まぁ、いわゆるあっち系のバーですね。普通のバーならいいでしょうけど、絶対におすすめしません。特に男性は」

「あっち系って……まさかげ」

「それ以上言うなシルヤ」

 はぁ……と大きなため息をつく。「なんで裏社会の人間は同性愛者も多いんだろ……」なんて呟いている。

「何があったんだ?」

 シルヤ君に聞かれ、スズエさんは遠い目をする。

「……まぁね?私だって愛の形は否定しないさ。否定はしないが……目の前で口づけとかすんなよ……見せられるこっちの身になってくれ……せめて個室でやってくれ……」

「それぐらいいいだろ?」

「シルヤ……がたいのいい男二人が目の前ですっごい長い口づけをするんだぞ?いきなりイチャイチャし始めるんだぞ?情報収集目的じゃなかったら絶対行かない」

 想像としてはタカシさんとケイさんが……おえ、ボクも想像したくない……。なんなら知り合いで想像するんじゃなかった……。

「オレがやった方がいいんじゃね?」

「やめとけ。こういう場所はむしろ男の方が危険だ。襲われるぞ、マジで」

 あれは本気と書いてマジという目だ。うーん、まぁそうかも。

「そ、そんなに?」

「かわいいからな、シルヤは。婿入り前の弟をそんな場所に送れるかっての」

「うん多分それ、シルヤとかが言う方だと思うぞ」

 ラン君がツッコむ。さすがツッコミ役、スズエさん達双子と相性がいい。

「私は男じゃない」

「そっちじゃねぇよ……普通「嫁入り前の」っていう方だと言っているんだ」

「シルヤは女だった!?」

「ちげぇよ!なんでそうなんだよ!?」

 これが素なのだから困る……。

「ねぇ、ユウヤ。もしかしてスズちゃんって……」

「……本来はすっごい天然みたいですよ……」

 今までの大人びたスズエさんを見ていたらまぁ驚くよねー……。

「……………………」

「わっ!?兄さん、どうしたの?」

「……かわいい……」

 そしてエレンさんが一人悶えている。この人の「かわいい」の基準が分からない……いや、きょうだいがやっている行動はすべてかわいいのかもしれない。

「なぁ、俺も抱きしめて……」

「殺しますよ?」

 クワッとエレンさんはタカシさんをにらむ。すごい殺気だ……。

「そ、そういえば……ユウヤさんって、私達といとこだったんですね」

 話をそらすように、スズエさんがボクに話しかけた。

「そうだね。スズエさんのお母さんの弟の子供なんだ」

「お母さん、そういうこと全く話してくれなかったからなぁ……」

 皆、それぞれ生き別れたきょうだいやいとこと話している。

「じゃあ、俺の本当の父親って……」

「本当に最低な男っすよ。むしろ一緒に住んでなくてよかったと思います」

「まさかいとことは……」

「わ、私も驚いているよ……」

 あー、なんかいいなぁ……。ボクも、シンヤ兄さんと……。

「……いいですよね」

 スズエさんが呟く。ボクは「そうだね」と頷いた。

「……ねぇ、ユウヤ兄」

 不意にそう呼ばれ、ボクは彼女の方を見る。彼女はジッとボクの方を見ていた。

「私ね、おばあちゃん達の悲願を果たしたい。約束を果たすことは、もう出来ないけど。おばあちゃん達が見たかった世界は、きっと作ることが出来るから」

 まるで、本当の兄に話すように。

「今まで、皆が助かるなら自分は死んでもいいなんて思っていたけど」

 ボクの袖を掴んで。

「私、死にたくない。皆と一緒に生きたいの」

 震える声でそう、伝えてくれた。

「今までは皆が作る未来に、自分はいないんだろうなってあきらめていたけど……フウがいるのなら。生まれてくる子がいるんだったら、希望を持ってもいいのかな……?」

「……当然だよ」

 ボクは彼女の頭を撫でた。

「君だって言っていたじゃないか。理不尽に殺されていい人間なんていないって。それは君にだって言えることだよ」

「……うん」

 スズエさんが目を閉じて、されるがままになっていた。

「スズ姉ー!」

 そんな中、シルヤ君がスズエさんに近付く。隣にはサクヤちゃんがいた。

「あのな、聞いて驚くなよ!」

「なあに?シルヤ」

「サクヤ、オレ達の妹なんだって!」

 ピシッとスズエさんの動きが止まる。

「あ、あのね、お姉ちゃん……」

「……アカリちゃん?アカリちゃんなの?」

 スズエさんは目を見開いていた。サクヤちゃんはスズエさんに抱き着いて「ずっと会いたかったの……!お姉ちゃん……!」と泣いた。

「……よかった……生きていたんだね……」

 スズエさんは割れ物でも扱うかのように優しく、妹を撫でた。

 エレンさんも来て、サクヤちゃん……いや、アカリちゃんの頭を撫でた。そこにいたのは幸福なきょうだいだった。


 しばらくして、スズエさんがパソコンを触っていた。ほかの人達は近くを探索している。

「ニャー。構ってニャー」

「フウ、もう少しだから待って」

 スズエさんは時々フウの頭を撫でる。

「そういえば、父親って誰なんだ?」

 不意に気になったのか、スズエさんが問いかける。フウ君は「ここで言ってもいいのかニャ?」と首を傾げた。

「うん?知っている人?」

「そうニャン」

 誰だろ……?見当つかないんだけど……。

「……とりあえず、その人のことを聞いてもいい?」

「えっと……お母さんの初恋の人だって言っていたニャ」

「はつ、こい……」

 フウ君の言葉にスズエさんは考え込み、ボンッと顔が真っ赤になった。

「あ、え、まさか……」

「多分想像通りニャ。お父さんは……」

「言わなくていい!言わなくていいから!」

 スズエさんには思い当たる人がいるらしい。すごく慌てている。

 うーん、からかいたい。

 こんなスズエさんは見たことがない。自然とそう思ってしまった。

「スズエさん、好きな人がいるんだ?」

「ゆ、ユウヤさん!言わないでください!」

「へぇー。ぜひ聞きたいなー、スズちゃんの好きな人」

 ボクがからかう目的で尋ねると、他の人達も集まってきた。

「うー……」

 スズエさんは顔を真っ赤にしながら、視線をラン君の方に向けていた。

 あー、なるほど。

 案外分かりやすいなぁ。

 とはいえ、これ以上からかうと気を悪くしてしまうかもしれない。スズエさんは案外ネコ気質だから、すねたら大変だ。

「それで、何やってんだ?」

 シルヤ君が覗き込む。スズエさんは「あー、首輪の設定をいじってる」と答えた。

「ちょっと待ってね、もう少しで……」

 数分間パソコンをいじった後、

「よし、出来た」

 スズエさんが珍しくガッツポーズをした。

「首輪の解除が出来たよ」

「マジ!?」

「マジマジ」

「やった!」

 シルヤ君が手を出すと、スズエさんは「ん」とハイタッチをした。本当に仲のいい双子だなぁ。

「ぼくもぼくも!」

「ん」

 フウ君がぴょんぴょんと飛ぶと、スズエさんは手を出した。フウ君はハイタッチして、満足そうに笑った。本当にスズエさんの子供なんだな……。キナちゃんとナコちゃんも同じようにねだった。

「ペア解除もしてるから、離れて行動しても大丈夫だよ。仕掛けも全部解いておいた」

 そこまで言って、スズエさんは「ふぁあ……」と大きなあくびをした。

「おやすみ」

 そしてそのままソファで寝てしまった。早い。相当疲れていたようだ。マイペースだなぁ……。

「スズ姉、こんなとこで寝ると風邪ひくだろ!?スズ姉!すーずーねーえー!」

 シルヤ君が起こそうと必死になっている。だけどスズエさんはコロンとネコのように丸くなった。

 フウ君はジーと見て、一度どこかに行った後ひざ掛けを持ってきてスズエさんにかけた。そしてスズエさんの腕を持ち上げ、その間に入る。

「ニャー……お母さんのぬくもり……」

 幸せそうだ。ラン君も「フウも寝たらいいんじゃね?」と笑っている。

「オレ達は別のとこ探索すっか。ラン、スズ姉任せた」

 シルヤ君がそう言って別のところを探索し始めた。ほかの人達も探索を再開した。

「じゃあ、ボクも上のモニター室に行くね」

 ラン君にそう伝えて、ボクは六階に向かった。


 お母さん。

 ぼくが覚えているよりずっと若い、でもあんまり変わっていない大好きなおかあさん。

「全く……あいつら、オレに押し付けやがって……」

 お父さんもなんだかんだ言って、お母さんと一緒にいる。とてもうれしいニャン。ぼくは幸せ者だニャン。

「フウ?嬉しそうだな、どうかしたのか?」

 近くに座ってぼくの頭を撫でてくれる。

「ん……もっと撫でてほしいニャ……お父さん……」

 思わず出てしまった言葉にお父さんは驚いた表情をした。そして、

「……そうか。お前、オレの子供でもあんだな……」

 優しく、笑いかけてくれた。

「あんがと、オレ達の子供として生まれてきてくれて」

 そう言って、抱きしめてくれた。

「オレ、立派な父親になれているか……?」

「うん。自慢のお父さんだニャ。お母さんも誇らしげにしているニャ」

 お母さんはまだ寝ている。いつも忙しそうにしているけど、それは子供の時からみたいだニャ。

 でも……決して子供をないがしろにはしない。どんなに疲れていてもご飯はちゃんと作ってくれるし、遊んでくれる。休みの日もお出かけしてくれる。

 お父さんはそんなお母さんを支えて、時には休ませてくれる。ぼくも大きくなったらこんな人達になりたいニャ。


 ボクはモニター室にあるAIのスズエさんのところに来た。

「あれ?ユウヤ君、どうしたの?」

 彼女は首を傾げている。ボクは「……聞きたいことがあってね」と告げた。

「聞きたいこと?」

「勝率についてだね」

 そう伝えると、「あー、なるほど」と納得したようだ。

「いいよ。何が知りたい?アイト君からは特別に許可されているの」

「スズエさんが参加する前の勝率、そしてスズエさんがどんな目的で参加することになったか」

 AIちゃんは「うーん……」と悩んで、

「本当の私が参加する前、アイト君が勝率0%だったのは分かるよね?」

「うん」

「実は、もう一人0%の人がいたの」

 スズエさんとアイトのほかに、もう一人……。

「ゲームってどうしても調整が入るよね?だから調整役が必要だったの」

「……その調整役が、スズエさん?」

「そう。アイト君はモロツゥ側の人間の血を引いていたからフロアマスターをさせることにして、もう一人は本当の私が入ることで必ず生き残るようになった。まぁ調整役って意味では誰も入れずに二人でもよかったんだけど、二人は参加者だからね。生き残る可能性があるようにしたかったみたい」

 スズエさんが入ることで、必ず生き残る人物……。もしかして……。

「……ねぇ、そのもう一人の人って、まさか……」

「思っている通りだと思うよ。

 ――君なんだ、ユウヤ君」

 スズエさんがいなければ、ボクは確実に死んでいる。

「君はシルを守って、いつも死んだんだ。どうしたらユウヤ君が生き残るかって考えた結果、シンヤ君……君のお兄さんは本当の私を参加させることにした」

 まぁ、他にも候補はいたんだけどねとAIちゃんは告げる。

「成雲家のお嬢様……レンちゃんとかね。でも彼女は場所が遠いし、有名だから全国放送されてしまうからって除外された。それに、どちらにせよ皆の願い事を叶えることが出来る人は本当の私だけだったしね」

 苦々しく答えるAIちゃんは悲しげだ。幼く見える分、もっとつらい。

「……ユウヤ君、君のせいじゃないよ。君は巻き込まれただけの被害者なんだ」

「そうかもしれないけど……」

「もとをたどれば、母方の親戚が変にしきたりにこだわらなければよかっただけだよ。そうすれば、少なくともこんな最悪な結果にはならなかった」

 ボクも、それが嫌でエレンさんと一緒にあの村を飛び出した。

「もちろん、残した方がいいしきたりだってある。でも、なくなった方がいいしきたりだってあるんだよ。あの人達はそれが分かっていないんだ。よそ者だから排除しようなんて江戸時代の話だ、そんなのは変えていかないといけない」

 元がスズエさんだからか、やっぱり大人びている。でも……実際その通りかもしれない。

「何しているんだ?ユウヤ」

 その時、後ろから話しかけられた。この声は誰か分かる。忘れるわけがない。

「シンヤ……」

「どうだ?この舞台は。いとこの妹を殺す、このゲームは」

「ふざけるな。スズエが何をしたっていうんだ?」

「スズエは何もしていないさ。ただ、あのクソばばぁ共に後悔させてやりたくてな。スズエが「祈療姫」の生まれ変わりで、ここで死んだら世界が滅びるのに見捨てたってことをな」

 そう言って、シンヤは気味悪く笑った。

「シンヤ兄」

 その時だった、少女の声が聞こえてきたのは。

「……やぁ、これはこれはスズエお嬢様?」

 さっきまで寝ていたハズのスズエさんが、コツコツとボク達の方に来たのだ。

「あなたは悪い奴に操られているだけよ。目を覚ましなさい。そして私達の方に戻ってらっしゃい」

 スズエさんはシンヤに手を差し伸べる。まるで女神のように、救いの手を差し伸べる。

「フン。ボクは自分の意志でここに立っているんだ。お前なんかに何が分かるってんだ」

「分からないよ。あなたの気持ちなんて、私には分からない。私は心を読むことは出来ないから。でも、寄り添うことなら出来る」

 優しく語り掛ける少女は、どこか神々しい。

「あなたが私を恨んでいても構わない。私はあなたを何度だって許してあげる。世界中の誰もがあなたを拒んでも、私はあなたを受け入れる。

 ――だから教えて。あなたはどうしたら、私を許してくれる?私を受け入れてくれるの?」

 その瞳は悲しげだった。悪態をつく彼でさえ、スズエさんは助け出そうとしている。

「……っ!だったら、お前は何をすればボクをあきらめるんだ!?ボクを殺そうと思うんだよ!?」

「何をしても、私はあなたを殺せない。だって、あなたは私の両親に操られているだけだから。私は被害者を殺さない」

 シンヤは泣いていた。スズエさんはゆっくり、ゆっくり近づく。そして、その頬に触れる。

「大丈夫、泣かないで。あなたの手が血で汚れているとしたら、私がそれを拭ってあげる。だから泣かないでいいの」

 その言葉は慈愛に満ちていた。

 ただただ、シンヤは泣いた。スズエさんは優しく抱きしめた。その瞳はライム色になっているのが見えた。


 それは、かつて裏切った従者を愛し、許す巫女の姿だった。

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