五章 反撃の兆し
『じゅ、準備が出来ました……。参加者の皆さんは、上の階に行ってください』
シナムキの放送が流れ、ボク達は上の階へ上がる。
「スズ姉ちゃん……」
フウ君が腕を伸ばす。スズエさんは「ん……」と彼を抱き上げた。
ギュウと、フウ君はスズエさんの服を掴む。その姿はまるで……。
――母親に甘える子供のように見えた。
なんでそう思ったのかは分からない。どちらかと言えば、年齢的にもきょうだいの方がしっくりくるのに、二人の関係はそっちの方がしっくりくる。
「それにしても、ここまでまだ誰も犠牲にならずに済んでよかったです……」
カナクニ先生がそう呟いた。彼は、ほぼ確実にあの練習試合のところで死んでしまうから正直、ここにいるのが慣れない。いや、喜ばしい方の「慣れない」だからいいけど。
エレンさん、ミヒロさん、ハナさん……そしてシルヤ君とスズエさん。皆でこうしてそろってここまで来ることが出来たのが奇跡に近しい。
……いや、必然だったのかもしれない。
チラッと、スズエさんを見る。恐らく、彼女は……。
棺のところまで来る。スズエさんは中心の棺を調べた。そこに入っていたのはアイト。
それに続いて、他のところも開く。そして人形達が出てきた。
「やぁ、スズエさん。久しぶりだねー」
「……アイト?お前、なんでここに……?」
「いやー、嬉しいよ。生き残っててくれて」
「話ぐらい聞け、そして手を握るなサイコパス緑野郎」
うーん、アイトに対するスズエさんの口調、嫌いじゃない。丁寧な物腰のスズエさんもいいけど、多少乱暴な口調のスズエさんもいい。何気持ち悪いこと思ってんだろボク。
「ユウヤにエレンさん。シルヤ君も久しぶりだね」
……ある意味の感動の再会ではあるんだけど、こんな形では少し、嫌だったな。
アイトだけが敵の状態で会うのは、やっぱり心苦しいものがある。……でもスズエさんは敵視しているわけではないようだ。なんていうか、ただの反抗期の女の子って感じで。それに、アイトもスズエさんを心配そうな目で見ている気がした。
……何か、隠してる?
そう感じたけど、さすがに聞くことが出来ずそのままペアが発表された。
ラン君は当たり前だけどスズエさんとシルヤ君。
タカシさんはボクとエレンさん。
レントさんはフウ君とカナクニ先生。
レイさんはキナちゃん。
ナコちゃんはケイさんとハナさん。
ユミさんはマミさんとミヒロさん。
そしてマイカさんはゴウさん。
うーん……ボク、アイトにそんなに軟弱に見られていたのかなぁ……?どっちかと言ったらボクよりキナちゃんの方が危険だと思うんだけど……。まぁ、レイさんは殺さないからかなぁ。
「スズエ、兄さんが絶対に守ってみせますからね」
「うん兄さん、ちょっと落ち着こうか」
……エレンさん、本当に溺愛してるなぁ……。
「え?スズエとエレン兄妹なのか?」
タカシさんが聞いてくる。ボクは「死にたくなかったら怒らせない方がいいですよ……」とだけ忠告しておいた。
アイトはスズエさんによって「グリーン」と呼ぶことになり、どこかに消えてしまった。
「相変わらずあいつの考えてることが分からないな……」
スズエさんはため息をつく。それに関しては同意見だ。
……さて、舞台は整ったかな?
「スズエさん、ちょっといい?」
「なんでしょう?ユウヤさん」
スズエさんは人形達に話を聞こうとしていたけど、ボクの方を見てくれた。
「正直に答えて」
「……まぁ、聞くだけ聞きましょう」
少女は腕を組んで、挑戦的な笑みを浮かべる。恐らく、ボクの考えはあっていると確信にも似たものを感じ取った。
「――君は、前の記憶を持っているね?」
最初にモニター室に行った時、練習試合の時、メインゲームの時。スズエさんは先回りして、対策してくれた。ボクですら出来なかったことをやってのけていったのだ。
スズエさんはフッと笑う。
「……やっぱり、ユウヤさんも覚えていたんですね。道理で私がしようとしていることが分かっていたわけです」
それは肯定の意。やっぱり、スズエさんは覚えているんだ。
「君は今まで、最初に「モニター室に行こう」なんて言わなかったからね。その時からおかしいと思ったんだ」
「……あー……そこからかー……もう少し慎重に行くべきだったかなぁ。うかつだったね……いや、でもあのタイミングじゃなければ……」
スズエさんは何か考えている。そして、
「まぁいいや。どうせいつか気付かれることだったし」
と、ケラッとした。まぁ、ボクが覚えているわけだからいずれ知られるのは当然だと思っていたのだろう。あまり気にしてはいないようだ。
「言うの、遅くなりましたけど」
スズエさんはボクに笑顔を向けた。
「助けに来たよ、ユウヤ」
――そこにいたのは、ボク達を地獄から救い出す女神だった。
「え、どういう意味だ?スズ」
シルヤ君が思わぬ展開に戸惑ったように聞いてきた。それに姉は淡々と答える。
「私がどうなるかを知っていて、誰も死なないように動いていた、と言ったら、信じる?」
「え?確かにスズはそういう力持ってるけど……」
キョトンとしながらボクの方を見る。ボクは一つため息をつき、
「ボクとスズエさんは繰り返している、と言ったら?」
そう尋ねる。もちろん反応は、
「そんなこと、ありえないっすよ。だって……」
「シル、事実だ。そうじゃなければ、いくら私だって事前に対策が出来ない」
そうか、最初のスズエさんの状態じゃ、数時間先までしか見ることが出来ないのか。それにまさか人が殺されるなんて思っていないだろうから、使うハズもない。前のスズエさんは、かなり絶望していて未来を見ても意味ないってなっていただろう。
「兄さんも、協力ありがとう」
「いえ、兄さんはスズエの味方ですから」
スズエさんがお礼を言うと、エレンさんは笑った。あ、エレンさんも協力していたのか。本当に、行動力がすごいなぁ……。
でも、そうなってくると一つ疑問が出てくる。
「いつ、思い出したの?」
そう、それだ。最初の試練の時?皆が集まった時?正直、見当がつかない。最初から少し違和感はあったけれど……。
「教室で目覚めた時ですね。机の上に鍵が落ちていて……。確かその前に、白い髪の女性が「未来を拓け」ってそう言って、鍵を渡してきたんですよ。ユウヤさんが持っているのと同じのですよね?」
そう言って、スズエさんはポケットから鍵を見せた。それは、ボクが持っているものと同じものだった。話していることは事実なのだろう、ボクも繰り返すとき、スズエさんが蝶になって「大丈夫だよ、私がついてるから」と優しく言いながらボクの指に乗るというものだから。
確かに、教室で寝落ちしていて帰るのが遅くなってしまったと言っていたな。その時ってことは……。
「……つまり、本当は逃げることも出来たってこと?」
「そうなりますね」
この少女は危険を承知で、この舞台に再びやってきたのか。
「逃げることは、考えたの?」
シルヤ君だけでも連れて逃げれば、彼女は巻き込まれなかった。こんな、死のゲームに。
「もちろん考えましたよ。シルヤと逃げた方がいいのかって。そうすれば、シルヤだけでも助けられるでしょうし。でも、それは皆を見捨てるということと同意義だ。そんなことはしたくない」
「…………」
「大丈夫、私も命を落とすことを承知の上でここに来たんです。それに、何も知らなかった前とは違って、「自分の意志」でこの舞台に再び立つことを決めた。……それに、ユウヤさんも言っていたでしょう?「やり直せるなら、次は皆が生き残る道を」って」
それは、アイトに向かって言った言葉だった。確かにあそこにはスズエさんとラン君もいたけれど、聞こえていたらしい。
「こんな言葉、幼稚かもしれないけれど……私はあなたが支えてくれたから、「生きたい」って思えたんです。「生きていてもいいんだ」って。
だから、今度は私の番。そのために、私はこうして舞台に立ったのだから」
優しく笑う少女は、希望に満ちていた。
……強い、な。ボクなんて、何度も諦めそうになったのに。
それに、救われていたのはボクの方だ。君が最初にアイトを助けて死んだ時、暴走しそうになっていたボクを魂になってまで止めてくれた。何度もボクを助けてくれた。
あぁ――かわいくて優しい、ボクのいとこの妹。
「……ありがとう……」
その小さな手を握る。温かく、彼女がまだ生きていることに安堵する。
「とりあえず、今分かっていることを共有しましょうか」
ポンポンと頭を撫でられ、ボクは頷いた。
皆が集まり、「そうだね……」とスズエさんはどこから話そうか考えて、
「……まずは、ここに連れてきた奴ら……「モロツゥ」について話しましょうか」
「モロツゥ……?」
レントさんが復唱すると、スズエさんは「「明日」願いを叶えようという意味合いから取ったそうですよ」と答えた。
「もともと、森岡家の先祖が作った研究組織だそうです。私は知らなかったけど……江戸時代からあったみたいですね。私のおじ……ひとりが、曾祖父から譲り受けて前代所長だったみたいです。そして次の所長に私がなる予定だった、かな?」
そうだったのか……武家であり、研究者であった森岡の家系はそこから続いていたのか。カタカタとパソコンで画面を出し、森岡家の家系図を映し出す。恐らく先代までのところしか書かれていないのだろう、スズエさん達きょうだいのところは書かれていなかった。
「これですね。まさかこんなものがここにあるとは思ってなかった……」
はぁ……とため息をつく。
「まさかここまで没落するとは……高貴な人間ほど、よく分からないことをするね。だから「五代目アトーンメント」も私が引き継ぐことになったというのに」
「え、アトーンメントって……」
ユミさんが反応する。どうしたのだろう?
「どうしました?」
「いや……一度、アトーンメントと連絡を取ったことがあって……」
「連絡……」
スズエさんは記憶を辿っているのか、考え込むしぐさをしていると「あぁ」と何かを思い出したようだ。
「もしかして、裏バイトをしたいと言ってきた高校生の……」
「うん。……あれ?でも声、違う気が……」
「あぁ、多分声に関しては」
一つ息を吐き、
「この声じゃなかったかな?」
どちらでも取れそうな声でそう言った。うわぁ、そんなことも出来たのか……。
「さすがに裏社会は女子供一人で行動するには危険なものでね。普段は女であることを隠させてもらっているんだ。女性と話す時はこの声でさせてもらっているよ」
……紳士だ。紳士(女)がいる。
まぁ、確かに姿さえ隠してしまえばスズエさんの身長だと少し低めの男性と思われるだろう。
「そのあとの母親の容態はどうかな?さすがに麗らかな女性をボクのような裏社会で生きる人間と連絡を取り合わせるわけにはいかないからな」
「あ、えっと……今は入院しているの……もうすぐで退院出来るって」
「そう。それならよかった」
ニコリとまさに「イケメンスマイル」を浮かべる。ユミさんが顔を真っ赤にするには十分だ。
天然たらしとはこのことを言うのだろう。このイケメン(女)はほんっとうに無意識に人を落としていくのだから……。
「スズ、オレお前が裏社会に繋がっているなんて知らなかったぞ」
「言ってないもん。多分兄さんしか知らないんじゃない?」
まぁだよねー。かわいい弟を危険な目に合わせるわけないもんねー。
「お前ら、恋人なのか……?」
ラン君が聞いてくる。二人はキョトンとした後、
「まさか」
「私達はそんなんじゃないさ」
「またまたー!スズちゃんとシルヤ君、結構仲いいじゃん!」
マイカさんが笑う。それでも二人はぶれなかった。
「恋人にはなりえないっすよ」
「断言出来ないだろ、分かんねぇぜ?」
タカシさんはからかうように笑うが、
「私達は断言出来ますよ」
ねぇ?と二人は顔を合わせて頷きあう。確かに、この二人の場合は断言出来てしまう。
「だってなぁ」
「私達」
「「双子のきょうだいだし」」
あー、ふつーにカミングアウトしたかー。この二人らしいなぁ。
皆して目を丸くしている。うん、その反応が正しいと思う。
「かわいい弟を危険な目に合わせるわけないじゃん」
スズエさんはニコニコしていた。あー、本当におねえさんだなぁ。
「だから仲がよかったんだねー……」
ケイさんは苦笑いを浮かべている。
「確かに、よく似てるね……」
レイさんがジッと見ていた。そして、
「……あれ?君……もしかして、図書館で認知世界の研究書を読んでいた……あの中学生?」
「え?……あっ!もしかして一緒に話した、あの高校生の方ですか?」
どうやら彼とも会ったことがあったようだ。まぁ、偶然会ったような感じだけど……。
「もう高校生だったんだね……」
「またいろいろな情報があるので話しません?もしかしたら今回の脱出の手かがりになるかもしれませんし」
あなたの知識も必要でしょうし。
そう言って、彼女は笑う。レイさんは少し考えた後、
「……そうだね。互いに一切、嘘をつかないって条件なら」
「もちろんいいですよ。とはいっても、私も憶測の範囲を超えないところもありますけど」
「それでもいいよ。今は脱出することが大事だからね」
駆け引き……彼女が得意とするものだった。そして目の前の彼も、それを得意とする。頭がいいゆえに、相手から情報を聞き出すのも得意だ。
「では、まずは分かっていることから話していきましょう」
「お願い」
「モロツゥはもともと、研究組織として結成されました。情報屋「アトーンメント」もこの時生まれました。まぁ、当時は「アトーンメント」というコードネームではありませんでしたけど」
まぁ、五代目って言ってたからね……。
「アトーンメントが生まれたのは?」
「昭和の時ですね。戦争が起こる前後に政府から情報収集能力の高さを買われ、「アトーンメント」というエージェントが生まれました。まぁ、もともとは政府の情報員の一つでした。だから今なお、アトーンメントは政府公認の元、必要以上に個人情報なんかを扱わないという条件で裏情報を扱っているんです。ハッキング能力なども祖父に基本的なことを教えてもらって、あとは独学ですね」
「モロツゥは?」
「モロツゥは……そうですね、私自身、あまり詳しいわけではないのですが、もともとはアトーンメントと所長が同じ人だったようです。でも曾祖父の代でそれはきついだろうということで、所長と情報屋を分けました。だから先代のモロツゥの所長はおじで、アトーンメントは祖父だったんです。でも……」
「でも?」
「モロツゥの所長は、私達が生まれた時には既にいなかったハズなんです。おじが降りましたから。研究員としては働いていたけれど、皆で一つにまとまろうということで所長という座を保留にしたんですよ。それは祖父も認めていました」
もちろん、スズエさんもアトーンメント……情報屋を引き継いでいるから、モロツゥのことはあまり話さなかったのだろう。研究関係のことは教えていたとしても。
「ただ、おじは亡くなる直前、少しだけ口をこぼしたことがあったんです。
最近、研究仲間が皆おかしいって」
それって、つまり……。
「その時から既に、誰かに乗っ取られていたってわけね」
「そういうことだと思います。それでユウヤさん、一つお聞きしたい」
突然話を振られ、ボクは驚く。スズエさんは「大丈夫、怪しんでいるとかではないので」と安心させるように笑った。
「ただ、あなたしか分からないんですよ。だから正直に答えてください。
この建物は、一体誰の研究所ですか?」
ボクは固唾をのむ。それに構わず、彼女は続けた。
「私の記憶が正しければ……ここはおじの研究所のハズなんです。何度か、ここに来たことがあるハズなんですよ、私は」
あぁ、彼女は気付いていたらしい。なら、隠す必要はもうない。事実を教えるのも、守護者の役目だろう。
「……そうだよ。ここは君達のおじさんの所有していた建物だ」
「やっぱり、そうでしたか。だったら、確か……」
スズエさんは不意に壁に触れ、「ここだったよな……」と突然壁を強く蹴った。すると、一部が崩れる。そこにあったのは……。
「やっぱり、まだ残っていたのか……」
――銃、だ。
スズエさんはそれを取り、点検して「まだ使えるね」と呟いた。そして、それをレイさんに渡す。
「……え?」
「護身用に持っていたらいい。今のところ、私は体術でどうにでもなりますし」
いがみ合っている状態で、彼女は武器を渡したようなものだ。殺されないとも限らないのに……。いや、信用していると暗に伝えているのかもしれない。
「先ほども言ったように、恐らくあなたの頭脳も必要になってくる。武器になりそうなものは一つでも多く持っていた方がいいですよ」
私が許可を出したと言えば、警察は手出し出来ませんからと静かに笑う。彼女はそれだけの権限を持っているのだ。
「……俺に渡してもいいの?」
「何か支障があるわけではないので。それ自体も緊急用のものですし」
そう言いながら振り返り、
「……そんなゆっくりしている暇はなさそうです」
スズエさんは人形達の後ろを見て、そう告げた。彼女はナコちゃんを抱え怪物から離れる。
「スズエさん」
「えぇ。――反撃の狼煙をあげましょう」
そして二人で並んで、皆を庇うように立つ。
「どう?」
「前回より防御が高くなっていますね。でも、あとはそのままです」
「燃やせるかな?」
「出来そうです。――ユウヤさん、いきますよ」
怪物の振り下ろしてきた刃をスズエさんは華麗に避ける。そして着地と同時に回し蹴りを食らわせた。なんかやけに重い音が聞こえた気がするけど、気のせい?
なんて、そんなこと考えている暇はない。ボクは狐火でひるんだ怪物の身体にまとっている鎧を燃やし尽くす。ボクに攻撃しようとしたところを、スズエさんは足を引っかけて転ばせた。そして、ボクがとどめを刺そうとしたその時。
「――待って!」
スズエさんが、慌てた様子でそれを止めた。
「どうしたの?」
「……なんか、おかしい」
彼女は冷や汗を流しながらその怪物をジッと見ている。おかしい?とボクも見てみるとなるほど、確かに様子がおかしかった。
怪物はスズエさんをうつろな目で見ていた。そして、
「ぎ、ぎぎぎ……おまえ、ころしたら、おいら、おいら……」
壊れたように言葉を吐きながら、スズエさんに向かって襲い掛かってきた。
「――――――――っ!」
後ろには皆がいる。スズエさんの性格上、避けるわけもなく。
「スズエ!」
エレンさんがスズエさんを抱き寄せた。そのまま、血が飛び散る――より前に、風の力で怪物が倒される。
「……っ!」
「全く、スズエったら。裏社会で生きているんだからそれぐらい慣れた方がいいよ?」
カツンカツンと、下駄の音が聞こえてくる。そして、桜色の髪の女性がボク達の前に現れた。その隣にはスズエさんによく似た和服姿の女の子。……この人達、誰だ?
それは、スズエさんの反応で分かった。
「ユキナさん……メール、届いたんですか……?」
スズエさんがかつてお世話になって、今も連絡を取り合っているというカウンセリングの先生の名前。
スズエさんは彼女に近付く。その顔は今まで見たことのないほど不安げだった。
「うん、ちゃんと届いたよ。頼るのが怖かったのに、よく頑張ったね」
その言葉を聞いた途端、スズエさんは泣き崩れた。それを、ユキナさんはしゃがんで抱きしめた。
「大丈夫、だいじょうぶ。頼ることは悪いことじゃないよ。不安だったね、怖かったね」
そうだ、この子は他人に頼ることが苦手な子だった。それでも、どうしたのか分からないけれどボク達を助けるためにユキナさんと連絡を取ったのだ。
この子にとって、それはとてつもなく不安だっただろう。届いていないかもしれない、届いたとしても助けに来ないかもしれない……そんな中でも、彼女は不安を押し殺して助けを求めたのだ。
「スズ姉!大丈夫だって!オレら、二人なら何でも出来たろ?」
シルヤ君も傍に行く。そして、スズエさんの頭を撫でた。
「だからそんな泣くなよ。ごめんな、スズ姉の恐怖心に気付かなくて」
ずっと一人で戦ってきたのだ。泣きたくなるだろう。
ボクも近付いて、その涙を拭った。
「大丈夫、もう一人じゃないから」
皆を助けに来た彼女を、ボクは守ろう。
改めてそう、誓った。