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DEATHGAME ~PRINCESS OF HOPE~  作者: 陽菜


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四章 メインゲームは逆転の兆し

 ボクは医務室に行き、シナムキと会う。彼女はボクを見て驚いた表情を浮かべた。

「あ、あなたは……確か……」

「ユウヤ。アイトの親友だよ」

 名前を言うと、シナムキは「やっぱり、そうでしたか」と小さく微笑まれた。そして、頭を下げてきた。

「その……スズエさんのことについては申し訳ありませんでした。ワタシも反対していたのですが……」

「いいよ、ボクが守ればいいだけだ」

 もちろん、このために来たのではない。

「それでさ、聞きたいことがあるんだけど」

「は、はい。ワタシに答えられることなら」

「ボク達の人形って、どこにあるの?」

 そう尋ねると、シナムキは「そ、その、それならこちらに……」と隠し部屋を開いてくれた。そこには確かに参加者達の人形が置いてあった。

「……やっぱり、スズエさんの人形はないんだね」

「そ、そうですね。アイトさんにあげたあの一体しか……」

 当然だ、スズエさんはもともと参加者ではないから。

 人形は……一人につき十体、というところか。実際、ラン君以外の人形達は九体しかない。

 ……あれ?

「そういえば……アイトの人形は?」

「え……?」

「あいつの人形が一体も見当たらないけど」

 あいつも、もともと参加者であるなら九体はあるハズだけど……。

 シナムキは「そう、ですね……」と考え込んだ。そして、

「アイトさんの人形は別に置いているんです。彼は、今はフロアマスターなので……」

「……そう」

「その、こっちにあります」

 シナムキは奥の部屋に連れて行ってくれた。そこには確かに、アイトの人形が置かれていた。だけど……。

「……十体?」

 おかしい。なんでアイトの人形は十体なんだ……?

 ――人形は飲食しないんですよ。

 いつだったか、スズエさんがそう言っていたことを思い出す。そのためにラン君が人間であると確信したとも。

 アイトは……そうだ、飲食していた。去年の夏、スズエさんとシルヤ君に会った時にはあまり食べていなかったらしいが、ボク達の前では普通に食べていた。何なら、スズエさんに逃げようと提案した時なんてスズエさんの家でオムライスを食べたと言っていた。あいつは何も気にせず、ボク達に死んだことを話していたが、人形っぽいところは一切なかった。

 思えばそもそも、スズエさんが人形と見わけがつかないわけがないじゃないか。

 まさか……。

「……アイトさんは、本当は生きているんですよ。あの方に口止めされていて、ワタシからは言えませんが……」

 ……そんな……。

 アイトは、生きていたのか……?そのうえで、利用されて……?

 しかも人形のスズエさんも、アイト専用のAIスズエも、それを知らないのか……。いや、もしかしたら人形のスズエさんは気付いているかもしれないけど……。

「……ねぇ、シナムキは……あいつと、どんな関係なの?」

 不意に、ボクは尋ねた。だって彼女は、アイトを必死に支えているように見える。フロアマスターであるなら協力するのは当然だけど、それとは違うような……。

「……ワタシは、あの子の……」

「…………」

「……ワタシの本当の名前は、「七守 香里」……あの子の、実の母です」

 ボクは目を見開く。シナムキが……アイトの、実母?

「……ワタシとルイスマ……高雪 心寧は幼い頃に、モロツゥに連れ去られたんです。ココネはたくさんの薬漬けにされて……壊れてしまったんです」

「……シナムキは……カオリさんは、なんで……」

「ワタシは、もともと咲祈家の一人だったんです。涼花さん……スズエさんのお母様の、妹なんですよ。モリナは、まだ十代だったワタシを……」

 ……酷い。そんなことが……。

「アイトは、そうやって生まれた子でした。でも、ワタシ、あの子には悪に染まってほしくないって……それで、高雪家に……」

「……でも、そっちも既にモロツゥに落ちていたってことか」

 ……最悪すぎる。ボクも、それは初めて知った。アイトも知らなかっただろう。知っていたら、守ってあげられたかもしれないのに。アイトがスズエさんと出会ったことが、唯一の救いか。

「ユウヤさんは、なんであの子を庇おうとするんですか?」

「なんでって?」

「あの子は、あなたからしたら敵になるでしょう。いくら幼馴染だからと言っても、そこまでやる必要はないでしょう」

 ……確かに、ボクとアイトは幼馴染だ。エレンさんとは義兄弟と言っても、ボクには関係ない。

 それが、ただの「他人」であれば。

「……カオリさんは、勘違いしているね」

「勘違い……?」

「ボクだって、他人に優しくするほどお人好しじゃない。あいつがボクと同じ「志」を持っているから、庇うんだよ。それに、今の話を聞いて納得した」

「納得……?」

「うん。ボクとあいつが「いとこ」になるんだって。だから同じ子を守りたいって思えるんだ」

 それを聞いたシナムキは俯いた。そして、

「なるほど……確かに、あなたに流れる血は……ワタシと同じ、「咲祈家」のものでもあります」

 静かに、笑った。

 そう、ボクは祈花家の血筋であると同時にスズエさん達と同じ「咲祈家」の血も引いている。どうやら父親が入り婿だったらしく、祈花は母方の苗字だった。

「だから、あまり面識のないスズエさんも、守りたいと思ったんですね」

 いとこの妹を。

 ただスズエさんの守護者だから、それだけで守りたいと思えるほど、ボクも大人じゃない。かわいい、いとこの妹だから、守りたかった。ずっと。

「……お願い。あの子を……アイトとスズエちゃんを……助けてあげて……」

 シナムキは一筋の涙を流しながら、ボクに頼んだ。


 ……ユウヤは何かを隠している。

 元とはいえ警察官の勘がそう言っている。

 まぁ、悪いものではなさそうだけど。一緒にいるからには、やっぱり気になるよねー。

 ユウヤは確かに、スズちゃんを守ろうとしている。「守護者だから」とか言っていたかなー?でも、それだけじゃない気がするんだよねー。

 ユウヤの、スズちゃんやシルヤ君を見る目はなんというか……エレンと同じ、年下のきょうだいを見ているような、そんな温かい目だ。

「……ま、変な行動はしていないからねー」

 そこに無理やり踏み込まないのが、大人だからねー。ユウヤも俺より年下なわけだしー。


「……先生」

 私は、近くにいたカナクニ先生を呼んだ。

「どうしましたか?ハナさん」

「私達、本当に出られるでしょうか……?」

 不安だった。一回目のメインゲームではスズエさんがどんでん返しをしてくれたおかげで皆生き残ることが出来たけど……今回も出来るかは分からない。

 先生は目線を合わせ、優しく頭を撫でてくれた。

「大丈夫ですよ、きっと出られます」

「……でも」

「スズエさんは自分の身をもって、私達を助けてくれたでしょう?」

 その言葉にハッとなる。スズエさんは私より年下なのに、ずっと率先して危険なことをしてくれた。さっきだって、毒が回って苦しいハズなのに私達のことを心配してくれていた。

「私達が彼女を支えないでどうするんですか?彼女を信じないでどうするんですか?」

「……そう、ですね」

「大丈夫、きっと切り口があるハズです。私達も、それを探しましょうよ」

 ギュウと手を握る。ここで私達も動かないでどうするの?

 私達、スズエさんに勇気をもらったでしょ?私達が死なないように動いてくれていたでしょ?私達も、それを返さないと。

 「行きましょうか」と先生に言われ、私は頷いた。


 ハナさんが心配になるのも分かります。

 私も、あんなことを言いましたが怖くないかと聞かれたら、否定するしかありません。それは皆同じなのです。

 私はスズエさんに、「キナさんやフウ君の姉になってほしい」と頼みました。いくら年が近いからと言って、きっと彼女にとっても負担になってしまうでしょう。でも、彼女は快く引き受けてくれました。

 本当は頼りにされる立場なのに、結局私も彼女には頼ってばかりです。そんな自分が情けなく思います。

 彼女は、自分の命を犠牲にしてでも私達を助けようとしているような気がします。たかが高校生にそんな覚悟をさせてまで、私達は……。

 でも実際、彼女が私達を支えてくれています。それは確かです。

 なら私達も、それを返せるようにするべきでしょう。


「……なぁ、兄さん」

 あたしはミヒロを呼ぶ。兄さんは「どうしたんだ?マミ」とあたしを見た。

「……怖いんだ。さっき、スズエとユウヤが死にそうになって、本当に命をかけているんだって、そう思ったら……」

 兄さんは頭を撫でてくれた。

「……俺も、怖いさ。死ぬのが怖い。誰だって同じだろ」

「……そう、だな……」

「でも、俺達が勇気を出さないと、スズエだけに負担がかかるだろ?」

 スズエだけに、負担が……。

「ユウヤだって、俺達より年下だ。……あいつらだけが、死ぬ覚悟をしていいわけがない。俺達も自分の命をもって守る覚悟をしないといけないだろ?」

 そうかもしれない。あたし達は大人だ、子供にそんな覚悟をさせてどうするんだ。

「大丈夫、マミは必ず、俺が守ってやる。だからお前は、まだ幼い子達を守ってくれ」

 あたしは頷いた。絶対に、皆で生きて出るんだと誓って。


 マミ、すまないな。お前にばかり負担をかけさせて。

 本当は俺の方が年上だから、俺が背負うべきなのに。殺人犯というレッテルがあるから、どうしても妹にばかり苦労させてしまう。それが情けなく思う。

「……どうしたぜよ?」

 ゴウが声をかけてきた。俺は「別に、なんでもねぇよ」と答える。

「そうか?それならいいんじゃが……」

 奴は前に座る。しばらく沈黙が流れたが、

「……なぁ、きさん、死ぬのは怖くないぜよ……?」

 そう、聞いてきた。

「怖いに決まっているだろ」

 即答する。俺は自殺志願者じゃねぇし。

「……悪い、変なこと聞いちまったぜよ……」

「いや、不安になっただけだろ?お前も」

 こんな状況じゃ、仕方ない。むしろスズエやユウヤのように落ち着いていられる方がすごいだろう。元警察官のケイならまだ分かるが、あの二人はただの一般人、スズエにいたっては高校生なのだから。

 ……そう、だよな?


 ワシは目の前の男に愚痴をこぼしてしまった。ミヒロは「大丈夫」と言ってくれたが……。

 死ぬのが怖い。人間として当然の感情だ。でも……そう思っているだけではいけないってことも分かっとる。

 ワシは、どうすればいいんじゃ?スズエやユウヤのように自分の命をかけることも出来ん。じゃが、誰も死んでほしくもない。

 自分ではどうしようもない感情に振り回される。

 でも、ワシは……。



「サクヤ、大丈夫?とてもきつい仕事になるけれど」

 夜、私は病院の方の仕事の休暇をもぎ取り従者と一緒にある場所へ向かっていた。

「大丈夫です」

「それならいいけど。でも、ごめんね。受験前だっていうのに……」

「いえ、そんなことより人助けの方が優先です」

 全く、この子も姉に似て自分のことを後回しにしてしまうんだから……と苦笑いを浮かべる。まぁ成績的にも問題はないからいいけど。

「そちらもよかったんですか?病院に勤めているのに」

「むしろもっと休めと言われているぐらいよ。せっかくあの子が私に助けを求めてくれたんだから」

 他人を頼ることが苦手なあの子が、初めて自分の意志で私を頼ってくれた。なら、それに応えるのが大人というものだろう。

「……そう、ですね。

 ――ユキナ様」



 二回目のメインゲームが始まる。今回の役職も「平民」。

「さて……じゃあ、どう議論しようかなー」

 ケイさんがとぼけ口調でそう言った。それにスズエさんは「鍵番を見つけるべきでしょうか……?それとも賢者……?」と少し悩んだように告げた。

「それか、身代を探すというのもいいかもねー」

 ジッと、ケイさんは彼女を見る。見定めているようなそんな目に屈することなく、「そうですね、それでもいいとは思いますけど」と髪をいじる。どうすればいいか悩んでいるらしい。

 そこからは、いつも通り進む。ハナさんとゴウさんが賢者をカミングアウトして、ミヒロさんが自分に入れたらいいと告げる。正直、どうするのが正解なんだろうか……?

 ……いや、ここは……。

 話がまとまらず、投票になった時、

「……私が、責任を取りますから……」

「待って」

 スズエさんがすべてを背負おうとしたところで、ボクが止める。

「スズエさん、この責任はボクが取るよ」

「え……?」

「君だって、まだ子供だ。君だけが背負うことはない。それに、ボクは君を信じてる」

 ボクが笑顔でそう言うと、スズエさんは俯いてやはり髪をいじった。そうして悩んで、

「……分かり、ました……」

 彼女は、頷いた。

 大丈夫、失敗しても、君だけが罪の意識を感じる必要はないから。

 皆が票を入れ終わると、ナシカミがうきうきした様子で結果を見た。

「おーう!犠牲者は……。……なし?」

 やっぱり、と思った。スズエさんは、二度目のメインゲームも無効試合にしてみせた。

「貴様、どうやって……!?」

「簡単なことさ、ハッキングして電源を落とした」

 ニヤリ、とスズエさんが笑うと、それがナシカミの琴線に触れたらしい。

「ふざけるなよ!オレ、このために……!こいつらの絶望した顔を見るために……!くそっ!だったら誰か一人だけでも殺してやる……!」

 暴走し始めたナシカミを、シナムキは止める。

「ナシカミ、これはルールなんです。参加者に手出ししてはいけません」

 しかし、そんな忠告虚しくナシカミはスズエさんに向かって隠していたナイフを振り上げた。

「貴様のせいで……!」

 だが、スズエさんが刺される前に誰かがナシカミの腕を掴んで、バコーン!という音とともにナシカミの頭が壊れた。

「スズに手出しはさせねぇよ」

 腕を掴んだのはシルヤ君だ。そして、ナシカミを殴ったのはエレンさんらしい。さすがシスコン、スズエさんに危険が迫っていると判断した時の行動が早い。

「兄さん、シルヤ。別にあれなら避けられたから気にしなくてよかったのに」

 当の本人はあっけらかんと答える。まぁ、確かにスズエさんなら大丈夫だよなぁ、あれぐらい。

「それでスズエに何かあったら手遅れでしょう。女の子なんですからもう少し自分を大事にしてください」

「そうだぜ、スズはいつも自分のこと後回しにすんだから」

 ナシカミは動かない。どうやら本気で殴ったようだ。エレンさん、怒らせると怖いんだよなぁ。特にきょうだい関係で怒らせたらヤバイ。本当に死ぬ。

 シルヤ君がスズエさんを庇うように抱きしめる。はたから見たら、恋人を守る彼氏のような図だ。

「……ちっ」

 モリナは舌打ちし、「……出ていきなさい」と命令する。ボク達は指示通りメインゲーム会場から出た。

「君達、本当に恋人じゃないのー?」

 ケイさんがからかい口調でスズエさんとシルヤ君に聞く。

「何度も言わせないでくださいっす。オレ達は恋人じゃないっす」

 シルヤ君がケイさんをにらむ。エレンさんにいたっては殺気を放っている。

「はいはい落ち着こうねー」

 それを、スズエさんが止める。うーん、この図はまさにケンカしそうになっているところを止める姉の図だ。エレンさんとシルヤ君がケンカしているわけではないけど。

 上の階に上がるまでの間、皆でワイワイと話していた。

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