3話 甘美な讃歌
「な、何故だ!? 何故お前は、俺の顔を穴が空くほどに見るのだ!!俺の顔に何か付いてんのか?もしや、彼は霊感の強い男で、もしかしたら、俺の背後に憑いている悪霊に驚いて見ていたりして、こ、怖い。ちょっと、待て待て。信義。考えが変な方向に行っているぞ。落ち着け!落ち着け~~~!!!」
俺は、運命の男からの強すぎる視線にドギマギしながら、冷静を装い彼の真向かいに座ることができた。
夕方、仕事の合図に買っておいた新聞を靴から取り出して新聞を読むふりをしながら目の端で彼の姿を捉えていた。
まだ、めっちゃ俺のこと見てんし・・・
運命の男をこうして間近でチラチラとだが見ていると、そんなことはどうでも良くなっていた。
目鼻立ちの整った美しい顔をしている。綺麗な富士額だ。年の頃は俺より一回り以上は下かな。三十ちょい過ぎくらいだな。茶系を中心にしたカジュアルにまとめた服のセンスも俺の好みだ。短髪で栗色に染められた髪型も清潔感があっても良い。体格も中肉中背で、全体的な引き締まり感も俺のハートをグッとさせた。
運命の男を目の端でチラチラと捉える度に俺は、運命の男の虜になっていた。
「見れば見るほどに美しく良い男に映える・・・・・」
そして俺は、彼の俺への強い視線を誤解していたことに気付いた。彼からの俺への愛をこの視線から感じ取ることができるからだ。そう、あの輝きのある大きな瞳の中に、俺への愛の告白の綴りを読むことができたのだ。
「そうか、運命の男よ、お前も俺に・・・・・」
新聞を読むふりを止めて、俺と運命の男はいつしか、目と目を合わせていてお互いを見つめあっていた。
彼の輝く瞳を見つめた瞬間、彼の瞳から太陽のようなポカポカした温かみのある光が放たれていた。そして、どこからか甘美な讃歌が聞こえていた。
電車の中は、可愛らしい花が何輪もヒラヒラと宙を舞っていた。この不思議な現象に心和まされていた。
「きっと、この現象は彼からの俺への愛のギフトなんだろうな。ならば、俺からもさらに熱~いラヴの視線を彼に送ってやろうではないか・・・・・」
と思ったその矢先・・・・・
(第3話終了)